ひとつは免疫を抑制する効果があるトシリズマブで、関節リウマチの治療に現在使われている抗体薬だ。

 新型コロナの重症例では、サイトカインストームと呼ばれる免疫反応の暴走によって重篤な炎症が起きることがある。トシリズマブにはデキサメタゾンと同様、この暴走を抑制する効果がある。

 実は、過去に行われたトシリズマブの試験では、目立った効果は確認できなかった。だが今年になって発表された2つの大規模な無作為化試験の結果で、トシリズマブが新型コロナの入院患者の致死リスクを低下させることが明らかになった。

 トシリズマブと関連薬のサリルマブの効果を検証する「REMAP-CAP」試験が19カ国で実施され、対象となった803人の結果が、査読前の論文を公開するサーバー「medRxiv」に1月7日付けで発表された。これらの薬を投与された新型コロナ重症患者は、そうでない重症患者よりも人工呼吸器が必要となる率も致死率も低かった。

 また、英国国内の180カ所で実施されたRECOVERY試験では、新型コロナの入院患者4116人を対象とし、無作為に選ばれた半数にトシリズマブを、残りの半数にプラセボ(偽薬)を投与した。結果は「medRxiv」に2月11日付けで発表された。トシリズマブを投与された患者群を、そうでない患者群と比較すると新型コロナによる致死率が約1.14倍低く、退院できる率が約1.2倍高かった。

 ビムラージ氏は、こうした結果は期待を抱かせてくれるが、今後十分に精査する必要があると話す。「まだ査読前の段階ですから、私はこれらの結果を割り引いて受け止めています」

 対象者が数十人から数百人単位だった過去の試験とは違い、特にRECOVERY試験では延べ3万7000人以上に参加してもらい、複数の治療法を検証してきた。これほど大規模に実施したことで、ある薬が新型コロナ患者に有効なのか有害なのかを見極める統計的に重要な判断材料が得られた。デキサメタゾンの有効性を初めて明確に立証した試験もそのひとつだ。「今までの(トシリズマブの)試験を全部合わせても、対象者の数はRECOVERY試験よりずっと少ないのです」とランドレー氏は言う。

 現時点では、米国立衛生研究所(NIH)とIDSAは、まだ臨床試験以外でトシリズマブを新型コロナ治療薬として使用することを推奨していない(編注:日本では治験実施中)。

 ビムラージ氏が期待するもうひとつの薬は、関節リウマチ治療薬として使用されているバリシチニブだ。NIHは、アレルギーやその他の疾患によりデキサメタゾンなどのステロイド薬を投与できない新型コロナ重症患者に、バリシチニブとレムデシビルの併用を推奨している(編注:日本では治験実施中)。

 2020年12月11日付けで医学誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」に発表された試験結果によれば、バリシチニブとレムデシビルを併用して投与された患者では、免疫反応の暴走が抑制されることで、回復までの期間がレムデシビルだけと比較して平均で1日短縮された。

 回復者から提供された、新型コロナの抗体を含む血漿(けっしょう)を患者に投与する回復期血漿療法についてもガイドラインが変更されている。米食品医薬品局(FDA)は2月4日、抗体価が低い血漿には効果がないというエビデンスに言及し、承認を抗体価が高い血漿に限定した。また、投与の対象を発症早期の入院患者に限定するとした(編注:日本では治験実施中)。

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