8月9日、国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の第6次評価報告書が発表された。今回発表されたのは、三つに分かれた作業部会のうち、自然科学的根拠を担当する第1作業部会による報告で、科学的な分析をもとに、私たちを待ち受ける様々な未来を示している。8年ぶりに発表された報告書は、どう変わり、私たちの未来はどのように予測されているのか。前回との違いと、新たな予測シナリオを中心に解説する。

 まず、前回の報告書と最も変わった点は、未来のシナリオを導き出すにあたり、人口や経済成長、教育、都市化、技術的および地政学的な動向など、社会経済的な要素を加えた点だ。つまり、世界が今後どのように発展してゆくのかについても考慮している。

より精緻になった気候予測:「RCP」と「SSP」

 2013年と2014年に発表されたIPCCの第5次評価報告書では、温室効果ガスが将来に安定する濃度のレベルとそこに至るまでの代表的な道筋「RCP(representative concentration pathway:代表的濃度経路)」にもとづいて、未来の気候シナリオが予測された。この「RCPシナリオ」は、人類が気候変動を抑制するためにどれだけの努力をするかによって異なり、「低排出・高緩和のRCP2.6シナリオ」から「高排出・無緩和のRCP8.5シナリオ」まであった。

 対して、今回の予測シナリオはたとえば「RCP2.6」ではなく「SSP1-2.6」のように表記される。2つ並んだ数字の前者が社会経済的な要素「SSP(shared socioeconomic pathway:共通社会経済経路)」で、後者がRCPだ。先に述べたように、SSPは未来の世界がどのように発展してゆくのかについての道筋であり、具体的には「1.持続可能」「2.中道」「3.地域対立」「4.格差」「5.化石燃料依存」という5つのパターンが用意された。これを加えたおかげで、様々なシナリオをより詳しく予測できるようになった。

 5つのSSPのぞれぞれで「1.9」「2.6」「4.5」「7.0」「8.5」というRCPを検討した結果、最新の報告書では、比較的楽観的な2つのシナリオ(SSP1-1.9とSSP1-2.6)、中間的なシナリオ(SSP2-4.5)、暗いシナリオ(SSP3-7.0)、そして奇妙なシナリオ(SSP5-8.5)の5つに焦点が当てられた。

 今回のRCPの1.9という値について、技術的な解決策に焦点を当てた取り組みをしている環境研究センター「ブレイクスルー・インスティテュート」で気候・エネルギーを担当するジーク・ハウスファザー氏は、産業革命以前からの気温上昇分を1.5℃にするという目標を各国がパリ協定で採択したために追加されたという。さらに、前報告書にも記されていた2.6と4.5と8.5に加え、4.5と8.5のギャップを埋める7.0という値が採用された。

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