その足跡は、ついさっきできたものみたいだ。どうやら扁平気味の足を持つひとりの若者がのんびりと歩いていたようで、つま先とかかとの痕跡が、細かい砂の隆起によってはっきりと見える。しかし、これは現代人の足跡ではない。米大陸における人類の最古の証拠のひとつだ。

 9月24日付けで学術誌「Science」に発表された論文によると、ニューメキシコ州ホワイトサンズ国立公園にあるこれらの足跡は、2万3000年〜2万1000年前に、かつて存在した湖の周辺の泥に刻まれた。その時代には、いまのカナダを覆っていた巨大な氷床によって、人類の北米への進出は阻まれていたはずだと、多くの科学者が考えていた。

 人類が正確にはいつ米大陸に住み着いたのかについては、1世紀近くにわたって激しい論争が繰り広げられている。最近では多くの科学者が、1万3000年前より前ではないという説を支持するようになっていた。

 一方で、それよりも数千年前に人類が南北米に存在していたことを示す発見も増えつつある。たとえば、チリのモンテベルデ遺跡では1万8500年前、米テキサス州のゴールト遺跡では2万年前のものとされる証拠が見つかっている。しかし、そのいずれに関しても科学者の間では賛否両論が巻き起こっている。

 ホワイトサンズの発見は、この議論に終止符を打つとまではいかずとも、興奮を呼び起こすものだ。

「これほどの発見は聖杯を見つけたようなものです」と、メキシコのチキウイテ洞窟での発掘調査を指揮している、サカテカス自治大学の考古学者チプリアン・アルデレアン氏は言う。チキウイテ洞窟には、3万年前に米大陸で人類が活動していた証拠があると考えられている。

「素直にうらやましいですね。こんな発見をしたチームには、いい意味での嫉妬を感じます」

幽霊の足跡か、ビッグフットか

 ホワイトサンズでは1930年代初頭に、長さ約56センチ、幅20センチという驚くほど大きな足跡が、政府のわな猟師によって発見されている。これは伝説の怪物ビッグフットのものに違いないと猟師は考えた。

「ある意味、彼は正しかったのです」と、同公園の資源計画マネジャーで、新たな論文の著者であるデビッド・バストス氏は言う。「それは確かにビッグフット(大きな足)ではありました。ただしその持ち主は人類ではなく、巨大なナマケモノ(メガテリウム)でした」

 それ以来続けられてきた入念な調査によって、公園内では何千もの手や足の痕跡が発見されており、古代の人類のほか、メガテリウムやマンモスなどの、今は絶滅した動物たちが湖の周辺を歩き回る姿を想像させてくれる。それらの痕跡はどれも、何千年も前に石こうを多く含む砂に刻み込まれたものだ。

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