366万年前のアフリカ、今のタンザニア北部に当たる地域で、3人の初期人類が雨で湿った灰の上を歩いたのだろう。足跡はそのまま固まり、やがて化石となった。

 1978年に発見されたこれらの足跡化石は、当時の古生物学界を震撼させた。アウストラロピテクス・アファレンシス(アファール猿人)が残したこれらの足跡は、初期人類が二足歩行をしていたことを示す初めての明確な証拠となったからだ。

 一方、その2年前にも近くで別の足跡化石が見つかっていたが、長らく忘れ去られていた。今回、その足跡を新たに分析したところ、当時そこにいた初期人類はアファール猿人だけではなかったらしいことが示唆された。科学者たちの推測が正しければ、直立歩行をする未知の初期人類が、灰の中に一緒に足跡を残していたことになる。

「彼らが顔を見合わせているところを想像できるようです」と、米オハイオ大学の古人類学者で、この足跡に関する論文の筆頭著者のエリソン・マクナット氏は言う。論文は12月1日付けで学術誌「ネイチャー」に発表された。

 忘れられていたこの足跡は5つあり、今から45年前に、英国の古人類学者メアリー・リーキー氏が率いるチームによって発見された。足跡の配置は奇妙だった。のちに氏および同僚のリチャード・ヘイ氏は、交差するように一方の足を他方の足の前に出して「よたよたと」二足歩行する動物が残したものではないかと書いている。

 この動物の歩き方は優美ではなかったが、「もっと極端にすると、モデル歩きになります」とマクナット氏は言う。

 足跡を残した動物が何なのか、たまたま数歩だけモデル歩きをしたのか、それとも常にしていたのかははっきりしない。科学者の中には、アファール猿人以外の人類が歩いていたとするには証拠が不十分と考える人もいる。だが、もし推測の正しさが裏付けられれば、この奇妙な足跡は、初期人類の歩き方の多様性を知る手がかりになるかもしれない。

 二足歩行の始まり方が1つではないことを、科学者たちは徐々に理解し始めており、今回の研究によってさらに多様性があることが明らかになったと、米ニューヨーク市立大学の古人類学者ウィリアム・ハーコート・スミス氏は言う。氏は今回の研究には参加していない。

「(足跡を残したのが)初期の人類であろうとなかろうと、動物が二足歩行をしていたこと自体が非常に面白いのです」と氏は話す。

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