接種を受けた人の大半で重症化を防ぐ現行の新型コロナウイルスワクチンは、体内で抗体をつくらせて細胞への感染を防ぐ仕組みだ。

 だが、現在承認されているワクチンの場合、接種から数カ月後には抗体量が減少してしまう。対して、抗体ではなく免疫系のT細胞をターゲットとするワクチンならば、ウイルスに感染した細胞をもっと早く排除できるうえ、より長期的に重症化を予防できるのではないか。

 しかも、免疫反応が低下していたり、免疫抑制剤を使っていたり、あるいは血液のがんになったりしていて、抗体をつくりにくい患者も守れるかもしれない。そう考えて、「T細胞(誘導)ワクチン」の開発に取り組む研究者がいる。

 現在ドイツでT細胞ワクチンの臨床試験(治験)を実施中のドイツ、テュービンゲン大学病院のヨナス・ハイトマン氏のチームは、抗体の産生が抑えられている場合でも、T細胞の働きを強化できることを明らかにした。

 自分たちが望んでいるのは「現在承認されているワクチンでは効果が得られない人々を守る」ことだと、血液学者で、がん専門医であるハイトマン氏は話す。氏は、受け持ちのがん患者の多くが新型コロナの高いリスクにさらされていることを認識し、別の種類のワクチンが必要だと考えて開発に臨んできた。

 T細胞ワクチンには、もうひとつ長所がある。T細胞が認識する新型コロナウイルスの特徴は、多くの変異株や類縁のウイルスにも共通するので、今後出現する可能性のあるコロナウイルス感染症に対しても、幅広い予防効果が期待されると、オランダ、ライデン大学の免疫学者ラモン・アレンス氏は説明する。

T細胞ワクチンはどこが違う?

 現行の新型コロナワクチンは、白血球の一種であるB細胞に、スパイクたんぱく質などのウイルスの表面にあるたんぱく質に結合する抗体をつくらせるよう設計されている。特にスパイクたんぱく質は、ウイルスがヒトの細胞に侵入するときに最初につながる部位のため、抗体が先に結合してしまえば、ウイルスは細胞に侵入できなくなる。

 だが、ここで問題がある。スパイクたんぱく質は頻繁に変異するので、抗体がウイルスを認識できなくなることがあるのだ。

 一方、T細胞は抗体と違って、ウイルスの多くの部分、つまりスパイクたんぱく質のような変異しやすい部分も、その他の変異しにくい部分も認識できる。そこで研究者たちは、T細胞にウイルス表面のたんぱく質だけでなく、内部に隠れている多くのたんぱく質も認識させる新型コロナ用のT細胞ワクチンの開発を進めている。

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