約2億5200万年前のペルム紀(二畳紀)末、地球には超大陸が一つだけあり、周囲の海には装甲で覆われたような魚や、人間ほどの大きさのウミサソリが生息していた。また、三葉虫などの節足動物や、二枚貝のような見た目だが貝ではない腕足類、アンモナイトの仲間などが深海を支配していた。

 現在では、これらの生物は化石記録から知られている。ペルム紀の終わりに、海洋生物の90%が絶滅する地球史上最大の絶滅現象が起こった。その原因はおそらく、シベリア・トラップと呼ばれる地域の火山活動による、二酸化炭素の大量放出だったと科学者たちは考えている。最も多かった死因について、2018年12月に学術誌「サイエンス」に発表された論文は、海の温暖化と酸素の欠乏による生理的ストレスだった可能性が高いと述べている。

 その論文の著者のうち2人が、2022年4月28日付けで再び「サイエンス」に論文を発表した。今回の論文では、もし我々が温室効果ガスの排出を野放図に続ければ、海水温の上昇と海水の酸素濃度の低下による影響だけで、海洋生物の絶滅は過去5回の大量絶滅に匹敵しうると論じている。それは、6500万年前に(非鳥類型)恐竜が絶滅した白亜紀末の絶滅以降、種の大部分を消し去るほどの規模になる可能性があるという。

 だが両研究者は、この結末を変えることができると主張している。排出量を迅速に削減すれば、絶滅のリスクを70%減らすことができる。温室効果ガスの削減に加え、海洋汚染、乱獲、生息地の破壊といった海洋ストレスに対処するための協調的な取り組みを合わせれば、海洋生物が長期的に生き残る可能性はさらに高くなる。

「もし私たちが排出量を速やかに削減したとしても、海洋生物の5%程度は失われる可能性があります」と、著者の1人である米プリンストン大学の気候科学者カーティス・ドイチ氏は述べる。「2℃の温暖化で10%が失われます。ほとんどの場所に生息する生物種の集団に変化が生じます。しかし、これでも比較的小さな数字だと言えます。大量絶滅は避けられることになりますから」

 海洋酸素の専門家である米スミソニアン環境研究センターのデニース・ブライトバーグ氏は、この研究結果を「厳しいですが、重要です」と述べている。なお、氏は今回の論文には関与していない。この研究は「海洋生物の多くを守ることができる」という「希望の根拠」を提供するものだと氏は付け加える。

「この論文は、私たちの目の前にある選択肢を明確に提示しています」と、米ラトガーズ大学の海洋学者マリン・ピンスキー氏は話す。氏は、この論文と同時に「サイエンス」に発表された意見論文の著者の1人だ。「今という時は、地球上の生命の未来を守るための、人類にとって一度しかない重要な時であるように感じます」

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