一見すると、地球上で最も荒れ果てた場所だ。空と砂と、地面から生えたような奇岩フードゥ―が果てしなく広がっている。

 しかし、現在の米国ニューメキシコ州北部にあるこのビスタイ・ディナジン荒野は、太古の昔は内海に面した湿地で、大木や爬虫類、原始的な哺乳類、そして恐竜が暮らしていた。

 この約166平方キロの保護区のそばに暮らすナバホ(ディネ)族は、風化した砂岩の荒れ地に2つの名前を与えた。ビスタイは「頁岩(けつがん)の丘がある広い場所」を意味し、ディナジンの語源は「立っているツル」だ。周囲の砂漠は海抜2000メートル弱だが、ビスタイ・ディナジンは侵食されているため、60〜120メートルほど低い。

 ナバホ族をはじめとする先住民にとって、この土地は季節ごとの移動に使った道であり、聖地であり、遊び場のようなものでもあった。荒野のガイドツアーを主催するナバホ・ツアーズUSAの創業者キアロ・ウィンターズ氏は「いとこたちとここに来て、キャンプや探検をしていました」と振り返る。「かくれんぼにもってこいの場所でした」

 緑豊かな低湿地は長いときを経て、異世界のような高地の砂漠の荒野になった。侵食された岩にはキノコ、チェスの駒、さらには、目玉焼きに似ているものもある。これらの奇岩がどのように形成されたか、現地を訪れたら何を見るべきか、そして、この繊細な土地を傷つけずに探索する方法を紹介しよう。

肉食恐竜「ビスタイ・ビースト」

 サンフアン盆地の一角にビスタイ・ディナジン荒野をつくったのは、気の遠くなるような時間をかけた堆積と隆起、そして侵食だ。7000万年以上前、西部内陸海路の海沿いだったこの地域では、恐竜や爬虫類などの動物が繁栄していた。その後に海が後退すると湿地や沼になり、有機物や火山灰が積み重なっていった。

 いったん水は完全になくなったが、その後に隆起した砂岩、泥岩、頁岩、石炭の層を再び水が削り取った結果、特徴的なフードゥーが形成され、豊富な化石や珪化木(けいかぼく、地中でケイ酸分がしみ込んで化石化した植物)が露出した。

「化石化した草木から、ここはかつてジャングルで、恐竜がたくさんいたことがわかります」とアルバカーキにあるニューメキシコ自然史科学博物館の学芸員で考古学を専門とするスペンサー・ルーカス教授は話す。「ここで動物が死ぬと、すぐに砂や泥に埋もれて保存されたのでしょう」

 米土地管理局が管轄するこの荒野で、科学者たちはたくさんの化石を発見、発掘してきた。土地管理局は米内務省の下部組織で、政府が指定した自然地域を保護している。

 かつてこの地を歩いていた動物には、ハドロサウルス、古代のカメ、「ビスタイ・ビースト」などが含まれる。1997年、ボランティアによって発見されたビスタイ・ビースト(Bistahieversor sealeyi)は体長9メートルの「破壊者」で、ティラノサウルスの原始的な近縁種だ。現在、ニューメキシコ自然史科学博物館に化石が展示されている。

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