米ネバダ州南西部リオライト・リッジの、たった200メートル四方ほどの土地にしか生育していないティームズ・バックウィート(Eriogonum tiehmii)という小さな野草。そばと同じタデ科のこの希少な植物が、いま絶滅の危機に瀕している。わずかな生息地が、リチウムを多く含む土地だからだ。

 リチウムは、電気自動車に必要な高出力バッテリーに使われる鉱物だ。現在、世界中の企業がリチウムの採掘に躍起になっており、ネバダ州には米国で唯一稼働中のリチウム鉱山がある。

 しかし、ティームズ・バックウィートはリチウムよりも希少なものだ。

「ある日の午後に、ブルドーザー1台で絶滅させられてしまうかもしれません」。ティームズ・バックウィートを保護しようとしている生物多様性センターのパトリック・ドネリー氏はそう言う。

 ドネリー氏らはこの状況を、広くゆきわたる不穏な傾向の象徴としてとらえている。急速に進む気候の温暖化と、希少種の絶滅の増加という、2つの環境危機に対処する取り組みの間で、対立が深まっているのだ。

 リチウム鉱山だけではない。ネバダ州の砂漠の生態系を脅かしているのは、様々な再生可能エネルギー開発だ。過去10年間で、米国では太陽光や風力による発電量が4倍に増えた。しかし、これは化石燃料から脱却し、気候変動による最悪のシナリオを回避するための、ほんの序章に過ぎないと専門家は述べる。ネバダ州は2030年までに、電力の半分を再生可能エネルギーでまかなおうと計画している。これは、2050年までに経済を完全に脱炭素化するというバイデン政権の目標に沿うものだ。

 その結果が、希少種や手付かずの生態系を危険にさらす、「再生可能エネルギー・ランドラッシュ(土地争奪戦)」と一部の活動家が表現する状況を生み出している。

 歴史的に見れば、湿地や草原は長い間、無価値なものとして扱われてきた。開発のために湿地には排水され、草原は農地として耕されてきた。太陽光やリチウム、地熱源に富んだこの砂漠の谷間で、そうした歴史が繰り返されていると、一部の自然保護活動家は見ている。

「環境問題に対していつも私たちがしてきたことを、今回もしようとしているのです。それは、問題を他の問題に押し付けるということです」。米サンノゼ州立大学の環境学教授で、『Solar Power』の著者であるダスティン・マルベーニー氏は言う。「私たちは気候の問題を生物多様性の危機に転嫁しています。同じことの繰り返しです」

 メールの返信が遅れたことを詫びながら、ドネリー氏は以下のように語った。「今は、砂漠の絶滅危惧種の緊急治療室で優先度を決めるためのトリアージを行っていて、そこへ次々と患者が殺到している最中だ、というふうにしか言えません」

米西部で進む再生可能エネルギー開発

 ドネリー氏は、再生可能エネルギー開発によって危機にさらされている生物種のまとまったリストは見たことがないと言う。しかし、同氏はネバダ州の「患者」を非公式にリストアップしている。米国魚類野生生物局(FWS)が絶滅危惧種としてリストアップしているものもあれば、そうでないものもある。

 ドネリー氏によると、例えばリチウムの採掘で絶滅の危機に瀕しているティームズ・バックウィートをはじめ、太陽光発電や地熱発電の開発が原因で絶滅の危機に瀕している動植物がたくさんあるという。

次ページ:進む再生可能エネルギー開発