最初の44頭のゾウが死亡したのは、雨期の終わりごろ、空気がひんやりしてきた2020年3月のことだった。

 場所はアフリカ、ボツワナにある有名な湿地帯オカバンゴ・デルタのすぐ北側。サバンナゾウたちが、よろめきながら円を描くように歩くと、やがて1頭、また1頭と倒れていく。多くは胸から崩れ落ちていった。

 奇妙な死は続いた。自然保護活動家たちは同年6月中旬までに、約8000平方キロの範囲のあちこちで350体以上のゾウの死骸を見つけた。翌年1月には、その数は450体を超えた。

 ゾウたちの死に方はあまりにも異常だった。牙は残っていたので、密猟者に殺害されたわけではない。死骸を食べたと思われるハゲワシなどの動物に、同じような死に方をしているものは見られなかった。同じ水場で水を飲んでいたウシやシマウマも死んでいなかったので、誰かが水場に毒を入れた可能性も低かった。そして、ゾウたちの奇妙な行動は、既知のどの疾患とも一致していなかった。

 アフリカゾウ(サバンナゾウとマルミミゾウ)の死は、1頭だけでも一大事だ。象牙の密猟や生息地の縮小、人間との対立によって、1979年には推定100万頭いたアフリカゾウは、今では41万5000頭前後まで激減している。ボツワナには約13万頭のゾウが生息しており、最後のとりでの1つとされているため、数百頭の謎の死は国際的なニュースになった。

 ボツワナ政府は、世界の自然保護活動家の声に押されて調査にのりだし、2020年9月に、ゾウの死因は藍藻(シアノバクテリア)の神経毒だったと発表した。藍藻は原始的な藻類で、栄養の豊富な淀んだ水の中で異常に増殖したものは「アオコ」と呼ばれる。各種の神経毒を作り、動物の大量死の原因となることで知られる。

遅れた対応と重なるミス

 しかし、ナショナル ジオグラフィックが14カ月にわたって資料を精査し、研究者へのインタビューを行ったところ、ボツワナ政府の結論の根拠とされる証拠の多くが信頼できないものであり、彼らが適切な時期に徹底的な調査を行うための機会を逸していたことが判明した。

 ボツワナ野生生物国立公園局が現地に調査チームを派遣したのは、大量死が始まって数カ月後のことだった。同局はその理由として、ゾウの大量死が遠隔地で起きていたことと、コロナ禍による移動制限が重なったことを挙げている。しかし彼らは、事態を心配する個人や団体からの協力の申し出を何度も無視したり拒絶したりしており、国際社会で大きなニュースになってからようやく動き出したと言われている。

次ページ:調査の遅れと検体の質の悪さ