サウジアラビア中央部にある洞窟の研究から、この地域には過去800万年間に植物が生い茂る湿潤な時期が何度もあったことを示す有力な証拠が得られた。こうした時期は「緑のアラビア」として知られるが、これまでは仮説にすぎなかった。論文は2025年4月9日付けで学術誌「ネイチャー」に発表された。

 西のサハラ砂漠からアラビア半島を通って東のインドのタール砂漠まで続く砂漠地帯は、生物を分け隔ててきた世界最大の障壁のひとつだ。今回の研究は、かつてはこの一帯には水が豊富にあり、サバンナのような景観が広がっていて、ホモ・サピエンスや他のヒト族を含む霊長類や、その他の動物がアフリカ大陸から簡単に移動できたことも示唆している。

「この一帯には常に砂の海が広がっていたわけではありません」と、論文の著者の1人で、オーストラリア、グリフィス大学オーストラリア人類進化研究センター所長のマイケル・ペトラーリア氏は言う。「この地域は人類の進化に大きな影響を及ぼしてきたのです」

過去50万年の記録から一気に800万年に

 ペトラーリア氏は2010年から、この地域の古代の湖が干上がった場所で採取した堆積物コアを調べて「緑のアラビア」説を研究してきた。

 堆積物コアには、かつてそこに生育していた植物や気候の痕跡が含まれており、アラビア半島が(そしておそらくサハラ砂漠や東部の砂漠も)長い間、湿潤であったことを示していたが、50万年前までしか遡れなかった。

 そこで、ペトラーリア氏らがサウジアラビア中央部の浸食された石灰岩の台地にある洞窟で採取した石筍(せきじゅん)を分析したところ、この地域の過去800万年間の気候の復元に成功した。

 石筍は、洞窟の天井から滴り落ちる水に含まれる鉱物が長い歳月の間に蓄積して固まった岩石だ。鍾乳石が洞窟の天井から下に向かって成長するのに対して、石筍は下から上に向かってたけのこ状に成長する。

 石筍は、環境が湿潤で、地表の水が地面にしみ込んで洞窟内に流れ込む時期にしか成長できないので、岩石サンプル中の同位体の年代を調べれば、石筍が成長した湿潤な時期がいつだったかがわかると、論文著者の1人であるマルタ共和国、マルタ大学の考古学者のヒュー・グルーカット氏は説明する。

 石筍には、より古い年代の測定に利用できる微量の鉛やウランやトリウムなどが多く含まれている。

 ウランートリウム年代測定法は、サンプル中のウランが長い歳月の間に放射性崩壊してトリウムに変わる現象を利用して年代を測定する手法で、過去60万年の正確な年代を特定できる。

 より新しいウランー鉛年代測定法は、ウランが放射性崩壊して鉛に変わることを利用し、ウランートリウム年代測定法よりも古い年代を測定でき、今回は降雨量が増えていた年代を約744万年前まで遡ることができた。

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