新型コロナの感染拡大から3年、世界的な物価高が続いています。
国内では少子高齢化が進み、長崎県でも人口減少が大きな課題となっています。
2023年長崎経済の展望を見通すうえでの”4つのキーワード”とは?

NBC

住吉光キャスター(以下【住】):
長崎の暮らし経済ウイークリーオピニオン。今年も平家達史NBC論説委員(以下【平】)とお伝えします。平家さん今年もよろしくお願いします。
【平】よろしくお願いします。今回は新年1回目ということでこちらのテーマです。

 2023年長崎経済の展望は

■ 卯(うさぎ)年 長崎県経済も“跳ねる”ことができるのか

ちなみに日本には干支とからめた株式相場の格言がありますが、今年『うさぎ年』の相場の格言は『跳ねる』です。
これは大きな飛躍や大きな経済環境の変化を意味しているとされています。

【住】過去のうさぎ年にはどんなことがあったんでしょうか?

NBC

【平】戦後、うさぎ年は6回ありましたが、日経平均株価でみると4回はまさに『跳ねる』がごとく大幅に相場が上がっていますが、2回は下がっています。
この2回は、1963年がアメリカの金融政策変更を引き金とする海外要因、2011年が東日本大震災や欧州の金融危機など国内外の要因となっています。

【住】今年は株式相場もそうですが、長崎県の経済も跳ね上がる年になることを期待したいですね。
【平】そうですね。相場の話は後付け的なものがありますが『大きな経済環境の変化』という意味では今年に当てはまっているかもしれません。
今年一年の長崎経済を見通す上で、注意すべきポイントは4つ挙げられると思います。

NBC

新型コロナ人手不足物価高大型プロジェクトの4つです。

■ 新型コロナは”with”から”after”へなるのか

【住】新型コロナは感染拡大から3年になりますが、まだまだ経済への影響は無視できないということですね。
【平】最近では、アメリカでさらに感染力の強い『XBB.1.5』という変異株が増えているなど、まだまだ安心はできませんが、この年末年始は感染者が増えていても行動制限はとられず、以前と比べると経済への影響は和らいでいる印象があります。
そして治療薬の開発や感染症法上の分類見直しも検討されています。

こうした中で現在の『withコロナ』から『afterコロナ』となるかどうかがポイントになると思います。
これは長崎県の主力産業である『観光』を大きく左右すると考えられます。

■ 人手不足の解消 “少数オペレーション化”と”賃上げ”

【平】長崎県は転出超過が続いていることもあり、『人材の確保』が企業にとって引き続き課題になると思います。

NBC

今月5日に開かれた県内企業の経営者らが集まる新年祝賀交歓会で、長崎商工会議所の森拓二郎会頭は、今年の長崎経済の見通しについて次のように述べました。

NBC

長崎商工会議所森拓二郎会頭:
「いろいろ(新型コロナ感染拡大に伴う)行動制限とか時短制限とかなしに経済を回していくと、そういうステージにいよいよ入ってくるのかなと。基調的には『緩やかに持ち直していく』ということを期待を込めて思ってます」

一方で、課題に挙げたのは『人手不足』。その対策は単に人材の確保だけには留まらないと指摘しています。

NBC

森会頭:
「より少ない人数でオペレーションするような事業への変換というか、そういう模索を本格的にしていかないといけない。そのためにはDX化IT化は避けて通れないことだと思います」

■ 物価高のなか“賃上げ”が可能か

NBC

【住】確かに新型コロナによる落ち込みから経済が回復するとしても、企業としては、『必要な人材が確保できなければ 需要の増加に対応できない』ということも考えられますよね。

【平】そうですね。しかしそこでネックとなるのが3つめのポイント『物価高』です。
皆さんもすでに実感されていると思いますが、去年1年間で国内の物価のレベルが上がってしまいましたので、家計の負担増はもちろんなんですが、企業も原材料などの調達コストが上がっています。
となると、企業は利益を確保するために様々な工夫をこらす必要があるわけですが、一方で岸田総理は年頭の会見で『物価上昇率を超える賃上げ』を企業に求める姿勢を示しました。

NBC

“利益を確保”しつつ“賃上げを実現”することは簡単ではありませんが、『賃上げ』は国内消費の拡大や人材確保にもつながりますから、各企業の取り組みに期待したいところです。

NBC

日銀長崎支店の鴛海 支店長も『賃上げ』が今年のキーワードの一つと見ています。
去年暮れに開かれた会見で、日銀長崎支店の鴛海 健起 支店長は“賃上げの重要性”をこう強調しました。

NBC

日銀長崎支店 鴛海 健起 支店長:
「2023年はキーを握るのは、一つは『企業の設備投資』であり、また人への投資という観点での『賃上げ』。
稼ぎがないから賃上げは難しいというロジックは分かるんですけれども、ただそれを放置していては“雇用の流出” あるいは “人口が他地域に移ってしまう”ということを加速するリスクもあると思っています」

更なる人材流出を避けるためにも、企業には今こそ従来の発想にとらわれず、業務の見直しに取り組んでほしいとしています。

NBC

鴛海 支店長:
「各企業が “生産性を高める”とか “仕事のやり方を変えていく”──すなわち『事業モデルをアップデートする』といったことを進めながら収益力を高め、その果実を賃上げという形でできるだけ早く配分していくといったことがいま求められると」

【住】人口減少が課題の長崎県にあって、貴重な人材を引き留める意味でも賃上げが必要ということですね。

■ “大型プロジェクト”を施設整備だけで終わらせない

NBC

【平】大型プロジェクトについては、今年は『JR長崎駅の新駅ビルの開業』が予定されていたり、『スタジアムシティ』の工事も佳境に入ってくると思います。
さらに、『県庁舎跡地』についても、令和6年度以降の設計・整備に向けて詰めを行う重要な年になると思います。
また佐世保市への誘致が計画されている『IR』も国の審査結果が示される予定です。

こうした大型プロジェクトそのものの帰趨はもちろん大変重要です。
加えて重要なのは、これらの大型プロジェクトを活かすような『周辺のハード面の整備』や『ソフト面の充実』で、そのアイデアと行動力が必要になってくる年になると思います。

NBC

【住】今年は去年の新幹線開業に続いて『100年に一度の変革期』の後半戦という見方もありますから、これをチャンスに長崎経済全体がアップデートできる年になるといいですね。

【平】そうですね。コロナ禍もあって低迷している経済成長ですが、去年の急激な円安の根底には、コロナ禍前からの『日本の成長率の低さ』があるとの指摘もあります。
ここから抜け出すには、かつて世界最先端を誇った『日本の技術力』を再び取り戻さなければ日本経済の成長はありません。
これは大都市の大企業だけの問題ではなく、長崎の個々の企業でもできることからやっていくことが必要だと思います。

NBC

いずれにしても今年も環境変化は早く、方向性が大きく転換していくような年になると思いますので、それに素早く対応していく、すなわち『ラビットよりもラピッド(迅速)』が大切な1年と言えそうです。

お詫び 配信開始時、記事タイトルでラピッドをラピットと誤って表記しておりました。失礼しました。

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NBC論説委員 平家 達史(へいけ さとし)
好きなこと    街歩き・ドライブ、V・ファーレン長崎の応援、少年野球のコーチ
昭和40年(1965年)4月15日生。京都市出身
平成元年(1989年)4月 日本銀行入行
平成30年(2018年)3月〜令和元年(2019年)8月 日本銀行長崎支店長
令和3年6月に日本銀行を退職し、長崎自動車株式会社 常勤顧問
同年7月から株式会社 長崎経済研究所のシニアアドバイザー