【島田明宏(作家)=コラム『熱視点』】

 天皇賞・春を勝ったタイトルホルダーの強さには驚かされた。普通、逃げた馬は、勝ったとしても、最後は流れ込むようにゴールしたり、失速したりするものだ。ところが、タイトルホルダーは、上がり3ハロンがメンバー最速だったことが示しているように、「逃げて差す」とでも言うべき、ストロングフィニッシュでゴールを通過した。

 誰にも邪魔をされないスペースを、誰もついて来ることのできないペースで走り、この距離をこのタイムで走り切ることができるのはこの馬だけ――というレースができれば無敵である。サイレンススズカが毎日王冠を勝ったときや、キタサンブラックが初めて天皇賞・春を勝ったときにも同じことを感じた。

 来月の宝塚記念で、タイトルホルダーと、ドバイターフを逃げ切ったパンサラッサが激突したらどうなるのだろう。昨年の有馬記念で初めて直接対決したときは、パンサラッサが逃げて13着、タイトルホルダーが2番手から5着という結果だった。有馬記念の2500mという距離はタイトルホルダーに有利だったが、宝塚記念の2200mなら微妙だ。大阪杯9着からの巻き返しを狙うエフフォーリアと、道中どんな位置関係になるのかを含め、楽しみである。

 今年の天皇賞・春に関して、もうひとつ。スタート直後に川田将雅騎手のシルヴァーソニックが躓いて落馬し、カラ馬となって「2位入線」でゴールした。その後、外埒を跳び越え転倒して心配されたが、人馬ともに異状なしとのことで、安心した。

 カラ馬となってからも上位でゴールした馬の代表格として知られているのは、1985年6月の札幌日経賞(ダート1800m)のスタートで、東信二騎手(当時)が落馬しながらもレコードを上回るタイムで差し切ったギャロップダイナである。同馬はその年の10月27日に行われた天皇賞・秋で、圧倒的1番人気に支持されていた「皇帝」シンボリルドルフを差し切ってGI初制覇を遂げた。そのときは単勝13番人気の伏兵だったが、翌年の安田記念を1番人気で制している。

 武豊騎手のホワイトマズルが参戦したことでも注目された1994年のキングジョージVI世&クイーンエリザベスダイヤモンドステークスでも、カラ馬となったエズードが先頭でゴールした。道中は馬群から離れて先行していたのに、直線で他馬に並びかけ、内に切れ込みながら抜け出したのだ。これも強い馬で、前年のインターナショナルステークス、このキングジョージの前走のエクリプスステークス、そして次走のインターナショナルステークスと、G1を3勝している。

 また、2008年のエリザベス女王杯では、武豊騎手のポルトフィーノがスタート直後にカラ馬となりながらも、内から抜け出して先頭を走り、直線で外にふくれながらも、そのままゴールした。これが日本のGIでは唯一、カラ馬が先頭でゴールしたレースとなっている。

 ポルトフィーノは父クロフネ、母エアグルーヴという良血の素質馬だったが、桜花賞を前日のハ行のため取り消し、オークスは骨折のため出走できなくなるなど、不運に見舞われた馬でもあった。

 結局、落馬したエリザベス女王杯の前走、清水ステークスが最後の勝利となったが、2勝目のエルフィンステークスで桜花賞馬レジネッタ(3着)、重賞を2勝するマイネレーツェル(4着)らを負かしているなど、GI級の能力を持っていたことは間違いない。

 その伝で言うと、タフな阪神の変則芝3200mを、タイトルホルダーと差なく走り切ったシルヴァーソニックも、かなりの能力を持っていると見ていい。もっかのところ重賞では昨年のステイヤーズステークスと今年の阪神大賞典での3着が最高だが、中・長距離重賞を勝つ日も遠くないかもしれない。

 ゴールしたあと、1コーナーの外埒を跳び越えたのは、匂いで「帰るべき安全な場所」を察知し、瞬時に体が動いてしまったからではないか。シルヴァーソニックから見て外側(左側)の植え込みの向こうには馬運車が停められており、さらに後ろ側には競馬場の厩舎地区がある。背中に騎手を乗せておらず、人間による扶助がない状態になっていたのは自分だけだったので、ほかの要件に突き動かされたとしても、仕方がないと言えよう。

 繰り返しになるが、人馬ともに、無事でよかった。

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