外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が7月15日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。米バイデン大統領の中東歴訪について解説した。

共同宣言に署名するバイデン米大統領(左)とイスラエルのラピド首相(イスラエル・エルサレム) AFP=時事 写真提供:時事通信

米バイデン大統領が中東を歴訪、イスラエルのラピド暫定首相と会談

中東歴訪の一環としてイスラエルを訪れたアメリカのバイデン大統領は7月14日、ヤイル・ラピド暫定首相と会談した。両国が共通の脅威と位置付けるイランの核兵器保有阻止のため、安全保障分野での協力関係を強化する「エルサレム宣言」に署名した。アメリカは同宣言で、「イランによる核兵器保有を決して許さない」と明言。そのためには「国力を総動員する用意がある」とイランを牽制(けんせい)した。

疑問が残る最近のアメリカの中東政策

飯田)今回の中東歴訪は、原油を出して欲しいと交渉しに行くのだというようなことが言われていますが。

宮家)そういう報道がありました。それも間違いではないのだけれど、もう少し戦略的にものを見なければいけないと思うのです。簡単に言うと、最近のアメリカの中東政策は「でき」が悪いですね。

飯田)アメリカの政策のできが悪い。

うまくいかなかったイスラエルとパレスチナの2つの独立国 〜イランが台頭

宮家)もともと中東ではパレスチナ問題がいちばん大きな問題で、独立国を2つつくる解決策が模索された。イスラエルとパレスチナという二つの独立国家をつくり、何とかうまくまとめようとして、90年代からずっと交渉を進めてきた。アメリカでは民主党が特にこれを進めてきたのだけれども、結局うまくいきませんでした。

飯田)うまくいかなかった。

宮家)それにはいろいろな理由があるのですが、結局は、イスラエルは強硬に出る、一方、パレスチナ側には統治能力がない。その間に中東では何が起きたかと言うと、イランが台頭してきました。そしていまや、イランが核兵器を持つかも知れない事態になりつつあります。

飯田)イランが。

宮家)そうなると、いままでのように中東和平交渉だけをやっていればいい時代ではなくなってしまった。1990年以降、湾岸戦争が起き、最近ではイラク戦争もあった。そういう中で、イランの脅威が高まってきたのです。

「アブラハム合意」によりアラブ諸国とイスラエルの関係改善を行ったトランプ政権 〜バイデン政権は人権問題などで就任当時はサウジアラビアをのけものに

宮家)ところがトランプさんは、パレスチナではなく、イスラエルにのめりこんだ。それはそれで間違いではないのだけれど、「アブラハム合意」を行って、サウジ等々、アラブ諸国とイスラエルの関係を改善しようとした。しかし、途中でバイデンさんと交代することになりました。

飯田)バイデン政権に。

宮家)トランプさんのやり方がよかったのかどうかという問題もあるのだけれど、バイデンさんからすれば、いちばん大きいのは、4年前にジャマル・ハーショグジーさんというサウジ人ジャーナリスト、英語ではジャマル・カショギさんと言われていますが、そのハーショグジーさんが殺害されました。

飯田)トルコ・イスタンブールにあるサウジアラビア総領事館のなかで。

宮家)それが人権問題だということで、アメリカで大騒ぎになっているのです。また、バイデンさんにはもう一つ懸案があります。石油の値段が上がっているので、サウジが主導して原油を増産してくれれば、少しはいいのではないかと思うわけですよ。

冷めきったサウジとバイデン政権の関係

宮家)他方で、(民主党内の人権活動家たちからは)「サウジに行くのか。行くのなら、首謀者であるムハンマド・ビン・サルマン皇太子に会って、しっかり文句を言うのだろうな」などと言われている。

飯田)サウジ行きに対する批判も出ています。

宮家)これに対し、サウジの方はとても怒っているのです。バイデンさんがかなりサウジに厳しかったものだから、両国関係が冷却化してしまったのですよね。

飯田)関係が。

宮家)バイデンさんが大統領になって、外交の優先順位はクアッド首脳会議の開催など、インド太平洋へ向かった。その後、ロシアによるウクライナ侵攻が起きて、今度はヨーロッパの方を向いているわけです。大統領になって1年数ヵ月が経ち、バイデンさんはやっと中東に行くわけですよ。

2022年2月3日、米ホワイトハウスで、過激派組織「イスラム国」指導者の自爆死について話すバイデン大統領(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

就任後、バイデン大統領のサウジアラビア訪問は今回が初めて

宮家)大統領になってから初めてですね。トランプさんは大統領就任後初の外遊はサウジに行きましたから、ずいぶんプライオリティが変わっている。しかし、今回のサウジ訪問は非常に難しい外交です。サウジアラビアからすれば、「何をしに来たのだ。あの(カショギの)問題に文句を言うのではないだろうな。邪険にしやがって」と思っているに決まっているのですよ。

飯田)サウジからすれば。

宮家)これはどう転んでもバイデンさんにとってうまくいかない中東訪問だと思います。どういう結果が出るか、注目です。

中東版のクアッドになる可能性もある経済的な枠組み「I2U2」

宮家)もう1つ、「I2U2」という枠組みがあります。

飯田)「I2U2」。

宮家)「I」が2つと「U」が2つ。「I2」はインドとイスラエル。「U2」はUAE(アラブ首長国連邦)と、USA(アメリカ合衆国)です。つまりインド、イスラエル、UAE、アメリカなのです。「なぜ?」と思うでしょう。

飯田)なぜですか?

宮家)戦略的には極めて賢いやり方です。UAEは湾岸諸国の中で、いちばんイスラエルに近い国です。アメリカはいいとして、そこにインドを入れる。皆さんは、インドはインド太平洋のクアッドの一員だと思っているでしょうが、実はそれだけではないのです。インドはアラビア海、そしてペルシア湾にも近いのですよ。

飯田)そうですよね。

宮家)ですから、インドは中東に潜在的に大きな力を持っています。「I2U2」は経済的な枠組みではありますが、将来は中東版のクアッドになるかも知れない。その意味では、きわめて戦略的に重要な一手だと思います。これがバイデンさんのイスラエル訪問に合わせて発表されています。

インドを上手く使う形でイランにメッセージを送りたい

飯田)中東版のクアッドになるかも知れない。

宮家)インドは核保有国でしょう。イスラエルも事実上、核保有国です。インドを噛ませることによってイランを牽制する、抑止するということですよね。

飯田)イランを睨んでのことですか。

宮家)もちろんインドは軍事的にそういうことに関与したくないのだけれども。今回発表された声明では、これは経済的な枠組みであり、「クリーンエナジーなどでいろいろ協力しましょう」などと、きれいごとが書いてあるわけです。

飯田)経済的なところで。

宮家)しかし本質的には、インド太平洋地域におけるクアッドと同じように、やはりインドを深く関与させたい。そして、「インドを上手く使う形でイランにメッセージを送りたい」ということだと思います。

これまでのことから、アメリカ側もサウジ側も前向きに会うことは難しい

宮家)アメリカとサウジアラビアとの関係ですが、バイデンさんの支持層である民主党左派の人々からすれば、サウジの皇太子を許すわけにはいきませんよね。普通はそう思います。

飯田)ジャマル・カショギ氏殺害の件もあり。

宮家)それについてはアメリカのメディアも厳しいです。しかし、国際的にエネルギー価格があれだけ上がって、米国内のガソリン価格も高騰してしまった。11月の中間選挙のことを考えたら、バイデンさんも背に腹は代えられないですよ。以前から議論はしていたけれど、ようやくタイミングがあったということなのでしょうね。

飯田)そこでサウジへ行く。

宮家)では、行ってどうするのかということです。サウジ側になって考えてみてください。「いままでサウジについて言いたいことを言っていたアメリカの大統領が何をしに来るのだ、詫びでも入れに来るのか? まあ会ってやってもいいけれど……」といった感じです。一方、バイデンさんからすると、「直接ムハンマド・ビン・サルマン皇太子に会うなど、冗談ではない。あくまで国王様に会いに行くのだ。そのときに息子が同席するならいいけれども」とぐらいに思っているでしょう。

ジャマル・カショギ記者死亡事件の真相解明を求める米紙ワシントン・ポストの社告(左側)=2018年10月25日、ワシントン(共同) 写真提供:共同通信社

「アメリカの大統領が来るのであれば原油を増産しましょう」とはならない

宮家)バイデンさんと皇太子はこれまでそうした確執があっていまに至るので、サウジが簡単に「そうですか。アメリカの大統領さんが来られるのでしたら原油を増産しましょう」となるとは思えません。

飯田)そうはならない。

宮家)これだけ原油価格が上がっているけれども、これから世界経済がどうなるかわかりません。また需要が萎むかも知れない。そうしたら、原油価格も急落するではないですか。そんなに簡単に増産するわけにもいかないし、「そもそもアメリカはあの(カショギの)問題については何も言わないのだろうな」と思っているのです。

米国内からの人権問題に関する質問には玉虫色的に答えるしかないバイデン大統領 〜どのようにしてサウジとの関係改善を印象付けるか

宮家)一方のバイデンさんは、(人権問題について国内で言われると)「自分の人権問題に対する立場は明らかだ」と公言しています。「人権問題を本当に取り上げるのか」と言われれば、「それは明らかだ」などと……。

飯田)玉虫色的な。

宮家)サウジに行って皇太子を批判するわけにはいきません。玉虫色で対応しなければいけないのです。ですから、サウジに行ってどのような成果があるか、と問われれば。あまりないと思うのですよ。ただ、その機微な問題をどううまくさばくか。うまく記念写真を撮ってサウジとアメリカの関係改善をどのように印象付けるか。ここに外交的な関心があります。

こじれた米サウジ関係を修復するための第一歩

飯田)各紙で報じられていますが、イスラエルとアメリカが会談し、共同宣言を出したということです。そこで「サウジとイスラエルの間をアメリカがつなぐ形で、お土産を持っていこうとしているのではないか」という話もあります。

宮家)サウジからすれば、そんなことは迷惑なのです。イスラエルとの関係を改善しなければいけないことは、彼らもわかっているけれど、サウジはイスラムの盟主です。アラブの盟主でもあります。そうでああれば、簡単に「イスラエルさん、こんにちは。これからは関係改善します」などと言えるわけがないですよ。UAEは言えても、サウジには言えないことがあります。

飯田)UAEには言えても。

宮家)今回、仮に少しイスラエルのことを話すにしても、例えばパレスチナにいるアラブ人が巡礼に行くときに直行便を出すか出さないかなど、そういう話です。正式に国交正常化を行うなど、そういう話にはならないと思います。とにかく、バイデンさんにとっては、ここまでこじれた「米サウジ関係」をどう修復するか最大関心事であり、今回の訪問を修復のための第一歩にすることが今回の目的だろうと思います。