東京大学先端科学技術研究センター特任講師の井形彬が7月28日、ニッポン放送「新行市佳のOK! Cozy up!」に出演。7月28日に電話での開催が予定されている米中首脳会談について解説した。

3日、米ホワイトハウスで演説するバイデン大統領(ロイター=共同)=2021年8月3日 写真提供:共同通信社

米中首脳会談、7月28日開催へ

アメリカのバイデン大統領と中国の習近平国家主席の電話会談が、アメリカ現地時間の7月28日に予定されていることがわかった。米中間では最近、ペロシ下院議長が台湾訪問を計画しているとの観測をめぐり、緊張が高まっているが、首脳会談では台湾情勢やウクライナ情勢などが議題になる見通しだ。

新行)米中首脳の電話会談は、実現すれば今回で5回目となります。ペロシ下院議長が台湾訪問を計画していることに対しては、中国は猛烈な警告をしています。

井形)ペロシさんは昔から人権などを重要視されている方で、ダライ・ラマ法王と会談したり、中国政府が行っている人権侵害に対して度々批判しています。中国からすると、ペロシさんは昔から目の上のたんこぶだったのですが、今回このタイミングで台湾に行くということになると、やはり嫌ですよね。

バイデン大統領がペロシ氏の台湾訪問に否定的な考えを示す理由

新行)バイデン大統領はペロシさんの台湾訪問について、「アメリカ軍はいい考えだと思っていない」という発言をしていますが。

井形)もしバイデン大統領に何かあって、大統領としての業務を続けられないということになると、臨時大統領として副大統領のカマラ・ハリスさんが務めることになります。しかし、もしカマラ・ハリスさんにも何かあると、その次にいるのが下院議長であるペロシさんなのです。

新行)なるほど。

井形)アメリカの国家安全保障を考えたときに、中国がこれだけ「反発するぞ」と言っているなかで、「ペロシさんが台湾に行くことは、もしかしたら危ないのではないか」と考えるのは自然なことだと思います。

米中間で台湾へ「行くか、行かないか」のチキンレースになる可能性も 〜台湾有事阻止のためにも台湾へ行き「台湾支持」をアピールする西側各国

新行)ペロシさんの台湾訪問に中国が反発するなかで、米中首脳の電話会談が行われるのですが、今後はどうなるのでしょうか?

井形)これでペロシさんが「台湾へ行きません」となってしまうと、アメリカは弱腰であり、中国が勝ったと見られます。逆にペロシさんが台湾へ行き、中国が反発らしい反発をしないと、「何だ。中国は口だけではないか」となめられてしまう。となると、お互いチキンレースになってしまっているのです。

新行)そうなると、どうなるのでしょうか?

井形)今回のことだけではなく、中国は外交上、いろいろな国に対して経済的、あるいは軍事的にさまざまなツールを使い、既存の国際秩序に対して挑戦してきているわけです。

新行)そうですね。

井形)それに対して欧米が「いまある既存の国際秩序を守らなくては」と思うと、民主主義である台湾に対して、支持する姿勢を見せるのは当然のことだと思います。

新行)国際秩序を守るために。

井形)ペロシさんだけでなく、日本の政府高官も数名が台湾に行っていますし、他の国の方々も台湾に行っています。「台湾有事を起こさないために何をすべきか」ということを考えたときに、ただ静かにしていただけではジワジワとやられてしまう。やはり、「我々は台湾を支持するのだ」という姿勢を見せることで、中国が武力行使に及ぶのを抑止できるのではないか、という考えが存在しているのではないでしょうか。

民主主義国家としての台湾を支持するヨーロッパ

新行)ヨーロッパ各国でも、台湾を支持する動きが見られますよね。

井形)ヨーロッパからすると、「自由民主主義という既存の国際秩序は自分たちがつくった」という自負もあります。日本の我々からすると、「民主主義や自由と言っても」と思う方もいるかも知れません。ただ、ヨーロッパからすると、本当に「民主主義を守るのだ」「人権を守るのだ」ということは、アイデンティティの一部としてもあることなのです。

新行)ヨーロッパの人にとって。

井形)そうなるとやはり、民主主義を体現している台湾と寄り添うのは当たり前のことなのです。台湾はヨーロッパと距離的には離れているのですが、「それでも我々は台湾を支持する」「インド太平洋地域に対して関与を続ける」ということを言い続けています。

「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」 〜実際に何をするのか

新行)対中国というところでは、「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の参加国が7月26日〜27日の両日にわたって、オンラインで閣僚級会合を開きました。この枠組みの重要性についてはいかがでしょうか?

井形)「IPEF」は、バイデン政権が提唱する新たな経済枠組みで、アジアの14ヵ国が参加を表明しているものです。アメリカは「TPP」から離脱してしまったのですが、「アジア経済は重要だ」ということで、違う形でアジア太平洋地域、インド太平洋地域に関与しようと考え、新たに出してきた枠組みです。

新行)違う形で。

井形)ただし、この枠組みで実際に何をやるのかというところが、実は専門家の間でも見えにくいところがあります。インフラや税やクリーンエネルギー、サプライチェーンなど、「とりあえず4つくらい柱をつくりましょう」と、いくつか分野を決めているのですが、すべての分野に14ヵ国が参加するわけではありません。とりあえずこの4分野について14ヵ国で話し、「入りたいところに入ってください」という、選択式の経済秩序となっています。

新行)そういうことだったのですね。これにインドが入っているというのは大きいですか?

井形)最初の話し合いの場にいるということです。最終的に「全部入りません」ということもあり得るので、いまのところは本当にインドがコミットしているのかどうか、まだわかりません。