「報道部畑中デスクの独り言」(第298回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、日本車伝統のビッグネームについて—

4つのボディで登場した「新型クラウン」

先月(7月)はいくつか新車発表会がありました。そのなかには、ただの新車発表という枠にとどまらない、今後の自動車業界を占うと言っても過言ではないものもありました。

「新型クラウンにも日本の底力が詰まっている」

まずは、トヨタ自動車のクラウン。初代が発売されたのは1955年=昭和30年、大変長い歴史を持ちます。会場には初代から15代目までの歴代車種がずらりと並んでいました。発表会ではまず、豊田章男社長が約12分を費やし、クラウンの歴史を振り返りました。

4台がお目見えしたとき、会場は少なからぬ衝撃となりました。今回のクラウンは定番のセダンの他に、セダンとSUV=スポーツ多目的車を融合したという「クロスオーバー」、さらにSUVタイプの「スポーツ」、「エステート」という4種類のボディで展開されます。

これまでほぼ国内専用だった体制も改め、世界約40の国と地域で販売することになりました。豊田章男社長は「このクルマで私はもう一度世界に挑戦する」と意気込みました。

「王冠」を象ったクラウンのエンブレム

67年の歴史……これはもう大変なものですが、クルマの場合、長い歴史によって、ユーザーも高齢化していくという傾向があります。代々買い替える「お得意様」を大事にしながら、フレッシュなブランドイメージを保つ……これはなかなか難しいことです。このジレンマを乗り越えられず、消滅したビッグネームも数多くありました。

クラウンについても、ご記憶の方もいらっしゃるかも知れません。7代目では「いつかはクラウン」という秀逸なキャッチコピーで、センチュリーを除いたトヨタのフラッグシップ、人生の「成功の象徴」的存在のクルマになりました。一方、バブル時代にレクサスという高級車ブランド(日本市場は「セルシオ」から開始)が生まれ、クラウンの立ち位置は微妙になっていきます。

日本自動車販売協会連合会によりますと、国内販売も1990年に20万台を超えたのをピークに減り続け、去年(2021年)は約10分の1……約2万1000台あまりにとどまりました。いわば「ジリ貧」状態にあるビッグネームはどうなるのか、多くの関心を集めました。

「ロングセラーが生き残る唯一の方策は、自らが変わっていくこと」

豊田社長はこう述べた上で、これまでのクラウンについては「女性が乗っていると『ご主人のものを借りてきたんですか?』、若い人が乗っていると『お父さんのものを借りてきたんですね』と言われていた」と分析。今回の4車種は「どれも多分、自分のクルマと言うことができるラインナップが揃ったと思う」と自信を見せました。

新型クラウンを前に豊田章男社長

開発担当者は新型車を購入する人物像として、「自然体のビジネスマン、40代〜50代の夫婦、自分の価値観を大事にする人に乗って欲しい」と語ります。自然体のビジネスマンというのはピンときませんが、ユーザーの間口を広げようという意思は感じます。

新型クラウン、もう1つのポイントはセダンの存在です。実は昨年、「クラウン、セダン廃止」……こういう報道がありましたが、結局、セダンを含む4種類のボディで展開されることになりました。

豊田社長は「私たちは『セダン廃止』とは一切言っていない。でもそのおかげで、本当にクラウンのムーブメントをつくっていただいたと思っている。この4車種はオフィシャルアナウンスメント(公式発表)」と、若干の皮肉を込めて語っていました。

ただ、開発担当者は、当初クロスオーバーを開発し、社長から「これでいこう」とGOサインが出たと同時に「セダンも考えてみないか」という新たな宿題が出されたと明かしました。その後、スポーツ、エステートという2つのSUVも加わりました。開発の過程で相当な議論があったことがうかがえます。

ところで、セダンとはエンジン部分、乗客の部分、荷物を載せる部分、それぞれが仕切られた3ボックスの乗用車です。冠婚葬祭、いずれにも使えるということで、長らくクルマの主流とされてきました。ところが、1990年代半ばから、より広いミニバン、より背が高いSUVが人気となり、セダンは主流の座から片隅へと追いやられていきました。

今年(2022年)秋に発売されるクラウン「クロスオーバー」

最近、国会近くの永田町界隈でも、すっかりミニバンが多くなりました。なかが広く、乗り降りが楽……ある政治家は、永田町はクルマの乗り降りが多く、座席の位置が低いセダンでは腰をやられてしまうと話していました。確かに、背が高くて乗り降りの楽なSUV、室内の広いミニバンに慣れてしまうと、なかなかセダンには戻りづらいかも知れません。

「本当にセダンに代わるセダンがあるのか。ミニバンは運転する目線も見通しがいい。そういうものに慣れた人が、本当にセダンを受け入れるときにどうなんだろう……悩みに悩んだ」(豊田社長)

トヨタでもクラウンの開発では悩みの種となっていました。

4つのボディ、まずは今年(2022年)秋にクロスオーバーを販売し、今後1年半の間に残る3つのボディを展開するということです。こうみてみますと、このクロスオーバーがトヨタにとっての「イチ押し」と感じます。ただ、クラウンと言えばやはりセダンでした。ハイヤーや政治家、会社役員でもおなじみの王道のセダンが、クラウンでさえも主役ではなくなっていくとなりますと、新型クラウンはその性格を大きく変えるということになります。

もっとも、かつてのクラウンはセダンの他に、変形としてのハードトップというボディがありました。また、かつて2代目、3代目のクラウンには、ピックアップトラックもあったんですね。時代によってクルマの形が変わる……これは自然なことなのかも知れません。

クラウンの室内 最新トヨタ車の流れをくむ

そうしたなかで、豊田社長は「クラウンには“型”がある」と語ります。「絶え間ない習慣によってつくり上げた基礎があるからこそ、“型”というものが決まってくる。15代続いたということは、やはり“型”というものはクラウンにはあるんじゃないか」と、クラウンの“DNA”継承を強調していました。

開発担当者は「日本人の魂を詰め込んだ。これ見よがしでないことを意識しながら、素の良さ、かっこいいデザインを追求した」と話しています。確かにデザインには力が入っていると感じますが、これをユーザーがどう受け取るか気になるところです。

今回の新型では、この他にも大きく変化した部分があります。これまでとは違うハイブリッドシステムの採用、また駆動方式はFF=エンジンを前に置き、前の車輪を駆動するという形式に変わりました。4輪駆動車はこれをベースに展開されます。車の乗り味や性格にも大きく影響を与える変化です。

会場には歴代のクラウンがズラリと並べられた

また、意外に大事なことですが、全幅……クルマの幅が1840mmになりました。クラウンは道の狭い日本で使いやすいよう、1800mmの幅を頑なに守っていましたが、ついにこの壁を超えたわけです。たかが40mm、されど40mm。例えば狭い道のすれ違いや駐車場では結構モノを言います。

開発担当者も議論になったと話していましたが、海外展開も始めることで「この時代において理解いただけるのではないか」と話していました。また、後ろのタイヤも曲がる……つまり四輪操舵とすることで、旧型と同じ取り回しの性能を確保しているということです。

トヨタが言うところの「クラウンらしさ」は試乗しないと何とも言えませんが、展示車に乗り込んでみた感想も少し、クラウンというより、トヨタ車だなという安心感はありました。一方、ドアトリムの部分、手に触れるところはソフトな素材が貼られていましたが、土台の部分はカチカチの樹脂でした。これはクラウンらしいのか……若干気になった次第です。開発担当者は「コストダウンの影響ではない」と話します。

なお、私が話したことを担当者が熱心にメモしていたのは、さすがトヨタ、「カイゼン」の姿勢を見る思いがしました。

このようにクラウンは大きな変貌を遂げました。一方、先月は日産自動車からも新型車の発表がありました(次回に続きます)。 (了)