青山学院大学客員教授でキヤノングローバル戦略研究所主任研究員の峯村健司が11月10日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。岸田総理が表明した「総合防衛費」の創設について解説した。

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政府、インフラやサイバーを含む「総合防衛費」の創設を表明

岸田総理大臣は11月9日、防衛力強化に向けた政府の有識者会議に出席し、防衛費に加え、各省庁の安全保障関連予算を一括計上する新たな枠組み「総合的な防衛体制の強化に資する経費(総合防衛費)」を創設する方針を表明した。具体的な経費として、研究開発、公共インフラ、国際協力、サイバー安全保障の4つについて、2023年度予算編成に間に合わせるよう関係省庁に指示した。

飯田)会議のなかで、基本的に財源は増税で賄うということも話し合われたようです。総合防衛費という概念そのものはいかがですか?

峯村)概念はいいですし、挙げている分野もいいのですが、「真意は何なのか」というところです。そこはしっかり見なければいけないと思います。

GDP比2%の防衛費の意味

峯村)財務省が表に出てくると、「数合わせ」というようなことが考えられます。「2%にしておかないと」という「目標」のために無理やりいろいろな項目を入れているとしたら、許せません。

飯田)「これでGDP比2%になるのだから、増やす必要はないでしょう」という。

峯村)よく見ていると「インフラ」や「国際協力」など、直接防衛費とは関係ない費目を入れようとしているのでは、という懸念が出ています。

飯田)取りようよっては、ものすごく広い範囲にわたってくる。

峯村)そうなのです。財務省の方々はそういうことが得意なのです。主計局の方々は極めて賢いので、「うまく2%に盛って」と言われたら、2%になるように計算できてしまうのです。「真水の防衛費で見れば1%ではないか」という話になったら、まったくの換骨奪胎ですし、許されません。

飯田)周りの国々は、そういう(防衛費の)中身も見破ってきますか?

峯村)当然、見破ります。日本の防衛増強は所詮「張子の虎だな」とわかりますし、隣国の方々は「2%の中身」をよく見ています。

さまざまな課題を克服しようとすれば、GDP比2%では収まらない

飯田)結局、日本政府としてのメッセージを出すことになるわけですよね。

峯村)インフラにしても、滑走路をミサイルで攻撃されてもすぐに復旧できるようにする。または攻撃されても影響がないようなシェルターをつくる。そういうインフラであれば、いいと思いますし、そちらにお金を注ぎ込むべきです。あとは弾薬の問題です。そういうことを入れたら、「真水で2%」でも収まりません。いろいろな試算がありますが、真剣に防衛能力を向上させようと思えば、3%〜4%になってくるわけです。

ロシア・中国・北朝鮮の3正面の危機が目の前にある現状で「必要な防衛費はどのくらいか」を議論すべき 〜ゴールが2%ではない

峯村)そういう話なのに、まさか「2%にするための計算」だとしたら、やらない方がいい話です。いまの日本の状況は、まさに3正面の危機が目前に迫っているわけです。中国・ロシアだけではなく、北朝鮮までもこれだけミサイルを撃っている。

飯田)そうですよね。

峯村)地政学的に、これだけの危機にある国は歴史上を見てもないですよ。しかも、その3つの国が核を持っている。「そもそも2%で足りるのか」という議論もしなければいけません。「2%かどうか」はどうでもいいのです。守るにはどうするのか。まずはこの計算をするべきです。

飯田)ゴールは2%に達することではない。

峯村)それは目的ではありません。「中国、ロシア、北朝鮮の脅威から日本を守るためには、いくら増額しなければいけないのか」と考えるべきです。にもかかわらず、いまの議論は何となく「2%」という数字がある。さらにその数合わせのために「数合わせ」をしているのが現状です。だとすると極めて大きな問題ですし、本当の防衛力の強化にはならない。むしろ抑止が弱まるようなことになりかねません。

サイバー防御のための人が足りない 〜人材をどう集めるか

飯田)ここ3ヵ月で考えると、EEZも含めて2つの国からミサイルを撃ち込まれている国というのは、世界広しと言えども、ないですよね。

峯村)ないですし、さらには中露の2つの国の船に日本列島を1周回られているわけです。こんな国はありません。そう考えると、「防衛費がGDP比何%」ということを議論している場合ではないですし、財源はあとで考えるべき話です。

飯田)そうですね。

峯村)「まず何が必要なのか」という議論もしないまま、数合わせだけをしている。私が気になっているのはサイバーの部分です。

飯田)サイバーの部分。

峯村)「積極的サイバー防御」というのは非常に重要な話で、サイバーはミサイル防衛のように国境があって防御できるわけではありません。相手国の領域に入っていかなければ、本当のサイバー防衛はできません。積極的でも何でもないのですが、公明党の反対で「能動的な」という表現に落ちた。まだこんな言葉遊びをしているのかと思います。

飯田)そんな場合ではないと。

峯村)これだけ中国や北朝鮮、ロシアによるサイバーの危機が顕在化しているのに、鉛筆を舐めているわけです。積極とか能動とか、そういう話ではないだろうと。具体的に何人の人材が足りないのか。そのために防衛省が人を雇おうとしても、給料が安くて来ないから、2000万円で何とか非正規雇用するというような……。

飯田)各省の次官の給料に準じなければならず、そうすると上限は2300万円くらいで決まってくる。そんなお金では雇えないとなってしまいます。

峯村)それも、「なぜ次官と比べるのか」という話です。先ほどの鉛筆を舐める話と一緒ですよ。いま、市場はこうだと。優秀なハッカーが20人いなければ脅威は守れない。合計で50人が必要だとします。であれば、その人たちの相場はいくらなのか。それでいいではないですか。それがリクルーティングですし、防衛の姿なのに、なぜ次官の給料なのか。関係ないだろうという話です。

ハッカーの能力のピークは10代半ば

飯田)しかも、ハッカーの方々の能力を考えると、ピークは10代半ばくらいだそうです。そうなると、既存の雇用の概念を飛ばして、「頼むから来てください」という姿勢でなければならないかも知れません。

峯村)中国では、ハッキングしていた若者を刑務所から出して雇っているという話も聞きます。

飯田)罪は許してやるから国に協力してくれないかと。

峯村)そこまでやるかどうかは別にしても、それだけ人材確保の競争が激しくなっているということです。

「海保との連携ができていない」ということが露呈 〜尖閣防衛や台湾有事はどうなるのか

飯田)その辺りの話にまで踏み込んでいるかというと、まだ入口で議論している感じがします。

峯村)海保と海自の連携も、ようやく共同訓練を実施するという話ですが、「いままでやっていなかったのか」と思います。グレーゾーンで言うと、海保がグレーゾーンで守って、そこから自衛隊に、という切れ目ない推移が大事なのですが。

飯田)切れ目があると、矢面に立たされるのは海保になってしまう。危ないだろうという話です。

峯村)でも、「海保との連携ができていない」ということが露呈しているわけです。となると、尖閣防衛や台湾有事はどうなるのかという話になります。