ジャーナリストの須田慎一郎が12月5日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。前月比で約26万人増加した米雇用統計について解説した。

2022年5月23日、写真撮影〜出典:首相官邸HPより(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202205/23usa.html)

11月の米雇用統計、10月より26万3000人増加

米労働省は12月2日、11月の雇用統計を発表した。景気動向を反映しやすい農業分野以外の就業者数は、10月と比べて26万3000人増加した。失業率は3.7%で、10月と同じく低い水準が続いている。

飯田)市場予想を上回る結果だったそうです。

須田)失業率も低いですし、賃金も上昇していますから、アメリカの景気は過熱しているのだとわかります。そうすると、利上げのスピードもこれまで通りという形になるかも知れません。

飯田)少し前まで、パウエルFRB議長も利上げのペースは12月会合から少し落とすのだと。0.75%が続いていましたが、そこから0.5%にするというようなことを言っていましたけれども、はたしてどうなるかですよね。

状況が違う日本と欧米 〜日本は利上げではなく財政出動するべき

須田)気をつけなくてはならないのは、アメリカと日本を比較して、日本も利上げすべきではないかという議論が出てきかねない状況があることです。しかし、ヨーロッパ・アメリカと日本の状況が違うのは、コロナ禍に入るまでアメリカなどは比較的、景気がよかったのです。

飯田)コロナ禍に入る前までは。

須田)加えてバイデン政権になってから大規模な財政出動を行い、積極的にお金を使っていった。コロナ対策にも使ったということで、需要が膨れ上がり、供給能力を大きく上回ったのがインフレの原因です。

飯田)アメリカの場合。

須田)だから需要を抑制するという意味において、利上げはすべきなのです。一方で日本は需要と供給を比べると、需要が圧倒的に不足しています。だからいま利上げをしたら、余計に景気を冷え込ませることになります。日本がやるべき処方箋は何かと言うと、利上げなどは一切せず、財政出動すべきなのですよ。

飯田)あれだけ予算を積んだのだから、使い勝手をよくすれば、経済に直接効いてくるという。

須田)日本は栄養不足で、アメリカ・ヨーロッパは栄養過多なのです。栄養を吸収するためには利上げが必要です。むしろ日本は絶対に利上げしてはいけません。加えて財政出動を行うべきです。栄養を供給しないと健康体になりませんから。

要因が違うのに欧米と同じ処方箋を書いてはいけない

飯田)同じインフレでも、原因も全然違うし体質も違うということですね。

須田)置かれている状況はまったく違うのです。まったく違うのに、同じ処方箋を書いてどうするのでしょうか。

飯田)アメリカにとって薬になるものが、日本にとっては毒薬になってしまうかも知れない。

須田)国会議員の一部の人には「日本もイギリスのようになるかも知れない」と言う人もいます。

飯田)財政出動をしたり減税したりすると、日本もイギリスのように通貨を売り浴びせられるのだという。

須田)国債も暴落するのではないかと言うのですが、なるわけがない。

飯田)実際に国債が破綻してしまうリスクを商品化するものもあり、そういうものをみるとクレジット・デフォルト・スワップなどと言いますけれども、全然数字は上がっていないですものね。市場は冷静な目で見ている。

須田)見ているのにもかかわらず、財務省のキャンペーンに踊ってしまっているのかな、としか言えないですよね。

若手議員を中心に積極財政派が増える自民党

飯田)一部の市場関係者がそういうことを言う場合もありますけれども、ポジショントークと考えた方がいいですか?

須田)明らかにポジショントークですよね。一方で自民党のなかでも、特に2回生〜3回生の若手議員を中心に、積極財政派が増えてきているのです。

飯田)自民党のなかでも。

須田)財務省も財政のことをきちんと考えているのだと思います。では、どうすることが日本の財政にとってベストなのかということです。それを一生懸命考えている人たちも出てきていますので、そこは期待できるかなと思います。

景気・経済を見た上で何をするべきかを考える 〜日本の安全保障の確保なくして、財政も何もない

飯田)中長期的な財政規律云々という話と、いま足元の経済がこれだけ冷え込んでいて、困っている人がたくさんいる状況をどうするか。それを考えるのが政治です。景気がよくなれば税収も伸びてくるから、それなりに安定するのではないかという理論もあるわけですよね。

須田)財政と景気・経済は、バランスを取って見なくてはなりません。財政だけを見ていたら、どうしても緊縮になってしまうのです。そのバランスを取ることが政治に求められた役割です。財務省の主張もわかりますし、財政状況を懸念する気持ちはわかるけれども、一方で、景気・経済を見る上で「何をするべきか」を考えなければいけないと思います。

飯田)歳出の先の経済について、また安全保障をどうするかというのも、別途出てきているわけですものね。

須田)日本の安全保障の確保なくして、財政も何もないと思います。

飯田)その辺りの議論がひっくり返ってしまっているところがある。

政治が弱体化すると本来すべきことができなくなる

飯田)財務省からすると、先の大戦のときに国債をたくさん発行して、戦争に加担してしまったというような負い目もあるのですか?

須田)そこまでであれば、まだ救われるのですけれども、非常に狭い範囲でしか見ていないのです。

飯田)単年度の収支。

須田)単年度の数字でしか見ていない。それは仕方ないのですよ。財務省設置法や財政法のくくりからすると、「財政の健全化」が財務省のトッププライオリティにあるのだから、わかりますし、それはいいのです。ただ、それを政治がどう判断するかということです。

飯田)岸田政権がどう対応するか。令和5年度予算の話も含めて、見えてこないところがあります。

須田)求心力が衰えて、政治が弱体化する。見ていかなければならない政治が弱体化すると、本来やるべきことができないという、心配な状況になってきます。