キヤノングローバル戦略研究所主任研究員でジャーナリストの峯村健司が11月24日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。公明党・山口代表と中国・王毅氏の会談について解説した。

杭州アジア大会の開会を宣言する中国の習近平国家主席=2023年9月23日、中国・杭州(共同) 写真提供:共同通信社

杭州アジア大会の開会を宣言する中国の習近平国家主席=2023年9月23日、中国・杭州(共同) 写真提供:共同通信社

公明党の山口代表が中国の王毅氏と会談 〜処理水をめぐり、中国が独自のモニタリングを要求

公明党の山口那津男代表は11月23日、中国の王毅政治局員兼外相と北京の人民大会堂で会談した。山口氏によると、東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出について、王毅氏からは「中国として独自にモニタリングができる機会をつくって欲しい」と求められた。

山口氏訪中の成果はパンダだけ

飯田)山口代表は22〜23日に中国を訪問し、ナンバー5の蔡奇氏と会談。王毅氏とも会いましたが、習近平氏とは会えなかったことが報じられています。

峯村)率直に言って、「何をしに北京まで行ったのかな」という感じがします。「成果」としては、公式に発表しているのはパンダの貸与ですよね。それ以外はありません。

中国に何も与えず、評価できる日中首脳会談

峯村)一方、先日の日中首脳会談については、私は評価しています。45分の予定だった会談時間が約65分に延びました。同行筋に話を聞くと、処理水や邦人拘束の問題など、岸田総理の方から習近平氏に対して、強い調子で批判したそうです。。

飯田)岸田総理の方から。

峯村)事前に中国側の要求もいろいろあったらしいのですが、結局、日本側が受け入れたのは「戦略的互恵関係」の確認だけでした。これはそもそも、胡錦濤政権のときに約束したものを「もう1回しっかりとやりましょう」と言ったのみです。何も日本から中国に与えていないわけです。そういう意味では、交渉としてはうまくいったといっていいでしょう。

飯田)報道された写真も、岸田総理の笑顔はなかったですね。むしろ鬼の形相のような形でした。

先日行われた日中首脳会談をフォローアップするのが山口氏のミッション

峯村)本来、党外交はそれを補完するものでなくてはいけません。しかも与党なわけですから、補完するような形で「先日の首脳会談のこの件はどうなっているのだ?」というように、再確認や申し入れをすることが重要です。しかし、パンダの貸与は正直いって重要ではありません。

処理水について「中国独自のモニタリング」を進めるのであれば、日中首脳会談時のスタンスと異なり二重外交に見える

峯村)私が最大の問題だと思ったのは、王毅氏との会談です。中国側が処理水について「中国が独自にモニタリングできる機会をつくって欲しい」と求めた。それに対し、山口代表は「政府間で調整して早急に詰めていくことを期待したい」と言ったとようです。

飯田)中国側の要求に対して。

峯村)これは、少なくとも前回の日中首脳会談のスタンスと違うわけです。日中首脳会談のときも、「国際原子力機関(IAEA)がしっかり認めているのだから」と突っぱねているのです。しかし、山口氏のこのやり取りは、中国側による独自のモニタリングを検討する、というニュアンスがあります。これはまさに二重外交と弊害で、そんなことを言わない方がいいですし、行く必要もなかったのではないかと思います。

岸田文雄首相との会談後、取材をうける公明党の山口那津男代表=2023年8月31日午後、首相官邸 写真提供:産経新聞社

岸田文雄首相との会談後、取材をうける公明党の山口那津男代表=2023年8月31日午後、首相官邸 写真提供:産経新聞社

IAEAの存在を否定し、国際機関を軽視するような流れになりかねない 〜山口氏は否定するべき

峯村)中国としては「独自の調査」という理論を示し、国際機関であるIAEAの評価すら否定しているわけです。日本は法の秩序や民主主義を掲げ、IAEAなどの国際機関を重視しています。今回、中国の主張を受け入れることは、IAEAの存在を否定したり、ひいては国際機関などを軽視したりするような流れにつながりかねません。ここは1ミリたりとも譲ってはいけないラインであり、曖昧な対応をすべきではありません。

飯田)岸田政権はじめ、これまで言ってきた法の支配などを、すべて自分たちがひっくり返してしまうことになりますよね。

峯村)今回も王毅さんが、そもそもIAEAの枠組みは「有効な国際モニタリングではない」と言っているわけです。これに対して山口氏はそれに反論して突っ込まなければいけません。「何が有効ではないのか言ってください。この調査団のなかには中国の代表もいますよね」と。

飯田)IAEAの調査団のなかには中国の専門家も入っていました。

峯村)そうです。「何が問題なんだ」と、王毅氏に対してきっちり反孫すべきです。私は、処理水の問題は放っておけばいいと思うのです。

飯田)こちらは粛々と動いていけばいい。

峯村)中国側は非科学的な言いがかりをつけているのだから、そんなものは突っぱねればいい。日本側の影響に関して各省に聞きましたが、何か実害が出ていたり、漁業の方から陳情や抗議がきたりしているといった報告は全くないそうです。

飯田)処理水放出によって。

峯村)国内需要がうまく戻ってきたこともありますし、先日は在日米軍が日本産ホタテの買い取りを始める方針が打ち出されました。また、日本大使館がアメリカ議会下院の中国特別委員会のギャラガーさんたちに、日本産の寿司をふるまいました。握っていたのは、私の行きつけのワシントンのお寿司屋さんだったのです。その結果、アメリカではまた日本産海産物が人気になっているらしいです。

飯田)大ウケだったとのことです。

峯村)現地のアメリカメディアも報じていました。日本産海産物の安全性をアピールする目的は達成したでしょう。

風評被害でシーズンの上海蟹の価格が落ちている

峯村)むしろ被害を受けているのは中国側の漁業です。風評被害によって日本産だけではなく、魚自体を食べない状況になっている。魚の価格自体が全体的に落ちてしまい、3〜4割減になっているらしいです。いまは上海蟹のシーズンですが、上海蟹の値段も落ちているようです。淡水なのですが。

飯田)処理水とは関係ないところでも。

峯村)自業自得ですが、風評被害で言えば中国の方がはるかに大きい。だから、そんなものは「勝手にどうぞ」と言っておけばいいだけの話で、今回のような二重外交は本当に慎重にやるべきです。

尖閣周辺のブイ設置、邦人拘束の件を先に話すべき

飯田)事前から処理水の話が全面に出るような形で報じられていましたが、本来は邦人拘束や、尖閣周辺のブイ設置について……。

峯村)順番はそうですよね。処理水はもっとあとですよ。ブイの話と邦人拘束について言うべきです。言ったかどうかも見えていないですよね。「きちんと言ったのだろうか?」と思います。

このタイミングで山口氏は何をしに行ったのか

飯田)事前の報道では、山口氏が総理の親書を持って行くという話がありました。あれはどうなったのでしょうか?

峯村)首脳同士が先日会ったばかりなのに、「親書はいるのか?」という話ですよね。このタイミングで何をしに行ったのか。その答えがパンダだとすれば、成果はほとんどなかったと言わざるをえません。

習近平氏が会わないのは、山口氏が中国から「重視されていない」というメッセージ

峯村)焦りもあると思います。2010年ごろから、これまで山口氏は習近平氏と4回会っているわけです。しかし、どんどん面談する中国要人の序列が落ちていった。一部のメディアでは、「蔡奇氏は習近平氏に近いから、きっと意見が届くはずだ」という報道もありますが、難しいと思います。今の「習近平一強体制」では、下から上に上がるシステムではないので。

飯田)下から上には上がらない。

峯村)習近平氏と「直接会わないと意味がない」のがいまの状況です。ちなみに調べたところ、習近平さんは同じ日にウルグアイの大統領や、ロシアの下院議長と会っています。忙しいわけではなく、山口氏の訪中が「中国から重視されていない」というメッセージです。

下の人たちの意見や情勢分析が習近平氏に上がっていない

飯田)王毅氏にしても、科学的には負け戦なのがわかっていながら、ここまで拘るのはなぜでしょうか? どこかで「シレッ」と取り下げるのではないかという指摘もありましたが。

峯村)私と付き合いのある研究者の方も、「これは終わるよ」などと言っていたのですが、日中首脳会談の同行筋の話によると、処理水の場面になったら、それまでは原稿を読んでいた習近平氏が原稿を置き、「これは絶対に許さない」と自分の言葉で強く批判を始めたらしいです。

飯田)岸田さんに対して。

峯村)彼らは「汚染水」と呼んでいますが、「こんな汚染水は許さない」というようなことを強く言ったらしいのです。そう考えると、おそらくトップのマターなのでしょう。下にいる立場としては解決の出口がない。しかも、中国以外に処理水を批判している国はほとんどないわけですから。

飯田)あとはロシアと北朝鮮ぐらいです。

峯村)事務方としては「これは難しい」と思っていたけれど、「トップはそう思っていなかった」ということが、今回の会談で露呈したわけです。そう考えると、いまの習近平体制において「下の人たちの意見、さらに情勢分析が習近平氏に上がっていない」ということが見えます。今回の首脳会談では、それが最も重要なポイントだったと思います。

飯田)なるほど。

峯村)事務方は処理水について「そろそろ折れようか」と思っていたのに、習近平氏の会談の原稿を書いた。ところが、それを見た原稿に納得がいかずに、「もっと強く言わなければ」と。だから、トップが強硬姿勢の継続の方針を打ち出したのですから、この問題はおそらく解決できないでしょう。

飯田)トップがそこまで言えば変節できないですものね。

峯村)できません。今後また、中国側がいろいろな報復をしてくる可能性もあります。