■本日の言葉「point of view」(視点、観点、見解)■

英語メディアが日本をどう伝えているかご紹介するこの水曜コラム、今週はとても久しぶりに天下国家の話を離れ、ひと組の家族についての話題です。結婚、離婚、そして親権争いという、誰にでも起こり得ること。日米の国際結婚なので、それで話が複雑になっているのですが……。(gooニュース 加藤祐子)

{10月1日追記:CNNはこちらの続報で、日本側の話として、子供たちを奪い返そうとして福岡県警に逮捕されたアメリカ人父は、実は4年前に日本に帰化して、東京に本籍を置いているようだと伝えています。子供たちは日本のパスポートを持っているし、また日本国内では離婚は成立していないと。なので今回のケースは、別居中の日本人夫妻間の子供連れ去り事件として扱われる可能性が高いとか。なんだかよく分からない話になってきました}

○国際離婚に振り回される子供たち

CNNと、米テネシー州の地方メディアが大きく報じていることのあらましはこうです。アメリカ人の夫と日本人の妻はテネシー州フランクリンで8歳と6歳の子供2人と暮らしていたが、夫妻はこの冬に離婚。夫はアメリカ人女性と再婚。日本人母はフランクリンで生活するという約束で、子供たちと暮らすことに(記事には明記されていないのですが、この時点での親権もしくは監護権は母親に?)。

3月になって日本人母が子供たちをつれて日本に帰りたいと主張したため、アメリカ人父は地元裁判所に、子供たちの出国を禁止してくれと申し立て。けれどもこれは却下され、テネシーに戻ってくるという条件で子供たちの出国が認められました。そして夏休みに日本人母の地元福岡へ一時的に「里帰り」した後、約束通りいったんテネシーに帰国。この間、アメリカ人父は地元の裁判所から、子供たちの親権を獲得しているそうです。

けれども9月の新学期になって、学校から子供たちが登校していないとアメリカ人父に連絡。日本人母には連絡がつかず。不安に思い、日本の元義父に電話をすると「心配しないで」と言われたと。テネシー州フランクリンの警察は、日本人母を指名手配。そして9月28日朝、子供たちが母親につれられて福岡の小学校へ登校するその途中で、車で乗り付けたアメリカ人父は子供たちを車に押し込み、そして市内の米領事館へ急行。けれども領事館は門扉を開けず、母の通報でかけつけた警察にアメリカ人父は領事館前で、子供たちの目の前で逮捕された――というわけです。

誰が気の毒って、幼い子供たちです。どんなに混乱して辛い気持ちでいるかと想像するだけで、辛くなります。

○父親の父親たる権利

アメリカで起きる社会現象は、20年以内に日本にもやってくる。たとえば離婚とか幼児虐待とか――と、確か前に書いたことがあります。そして「離婚で親権を失った父親による子供の誘拐」というのがアメリカで社会問題化したのが、やはりここ20年くらいではないかと思います。今回、この「離婚→親権争い→連れ去り」という事件は国際結婚を通じて日本国内の問題になったわけですが、すでに日本でもニュース沙汰にならないだけで、水面下で時々起きている現象なのではないでしょうか。

国際結婚における子供の親権トラブルについては、フランスの駐日大使館や日本のカナダ・モントリオール総領事館のサイトに注意書きがありました)

アメリカでも、離婚調停で父親に子供の親権・監護権が認められるケースはめったにありません。父と母が離婚後も子供の養育・監護を共同する「共同監護(joint custody)」が認められるケースはよくありますが。いずれにしても、妻とは別れても子供との関係は保ちたいという父親が、母親よりも不利な立場におかれているのは確かで、それに対抗して父親として子供に関わる権利をもっと尊重しろという「Father's Rights Movement(父親の権利運動)」が起きているほどです。

今回の事件の父親がどういう人で、どういう気持ちで子供たちを奪い返そうとしたのか、詳細はよく分かりません。ただし、離婚したらそれっきりで子供の養育費も払わない世界中の「役立たずのダメな父親(deadbeat dad)」たちには、爪の垢を大量に煎じて飲ませたいような話です。

○日米では子育てについて視点が違う…?

ところで今回の事件について、日本人母のとった行動の合法性は確かに気になるところですが、それを差し引いても、アメリカ側の報道は、日本人としてはとても気になる論調です。紹介したどちらの記事も、アメリカ人父の「ex-wife(元妻)」が子供たちを「abduct(誘拐、拉致)」したので、父親が愛する子供たちを奪い返そうとしたら「was arrested by Japanese police(日本の警察に逮捕された)」「is under arrest in Japan(日本で逮捕されている)」という事態になってしまったと書いています。これはひどい、とんでもないことだ!という論調なのです。

CNN記事は冒頭から、「この親権争い劇が起きたのがアメリカだったなら、法に背いて子供を連れて逃げた元妻から子供たちを無事奪い返した父親は、英雄扱いされただろう」と、明らかに父親寄りの論調。無法者に子供を奪われた父親が、法を犯してでも自助努力で子供を救い出しに行くのは当たり前だと言わんばかりの、とてもアメリカ的な発想です(日本では今夏公開されたリーアム・ニーソンの映画「96時間」とか)。

CNNは「しかしこの争いは1万キロ以上も離れた日本の福岡で繰り広げられていて、そこではアメリカの法律は通用しない。そのため父親は未成年者略取・誘拐の疑いで拘束されてしまった。そして逆に、アメリカでは子供たちを誘拐した容疑者として手配されている妻が、日本では被害者ということになっているのだ」と説明。

また、国際間の離婚紛争に関する1980年のハーグ国際協定に日本は署名していないので、子供の連れ去りについても日本の法律とアメリカの法律の整合性がとれていない。日本ではこの問題は民法に基づき、子供の利益を最優先にして解決されるが、外国人の親が親権を守ろうとしてもなかなか成功できていないと。

さらに記事は、「日本はアメリカにとって大事なパートナーであり友好国だが、but on this issue, our points of view differ (この点について、両国の視点は異なる。離婚と子育てに対する両国の態度は違う。日本では、親による子供誘拐は犯罪と見なされないのだ」というアメリカ大使館のコメントを伝えています。

(英語ウンチクですが、「point of view」は文字通り「視点、観点」。その複数形は「point of views 」ではなく、上記のように「points of view」となります。なぜならこの場合、複数あるモノは「点=point」で、「of view」はその点の性質を説明する修飾語だからです)

話を戻します。ざっと調べたところ日本国内でも、離婚後に監護権を失った父が実子を連れ去り、未成年者略取・誘拐罪が成立した事例は数年前から複数あるようなので、大使館コメントの最後の部分は間違いというより、まだそういう事例が日本では一般的でないということかもしれません。

違和感のポイントはその前ですね。日本とアメリカでは「離婚と子育てに対する両国の視点、態度は異なる」という。まあ確かにそうなんだけど……でもアメリカ大使館にそうはっきりと、アメリカのマスコミに向けて言われると、うーん……と反論したくなるような、奥歯になんだか噛みきれない大きなものがはさまって違和感ありまくりな、そんな気分です。

さらに、アメリカの報道はそこまで触れていませんが、日本の刑事司法システムは、取り調べに弁護士が立ち会わない、取り調べが可視化されていない、「起訴されたら有罪率99%」の、そしてつい最近やっと陪審制度に似た制度が導入されたばかりの、なんだか非文明的で恐ろしい感じのするもの――という印象がアメリカ人の意識にはそこはかとなくあるような気がします。なにせアメリカの法律(常識、と読み替えてもいいはず)が通用しない、1万キロ以上も遠く離れた国のことなので……。


◇本日の言葉いろいろ

point of view=視点、観点、見解
custody=親権、監護権
joint custody=共同監護
deadbeat dad=養育義務を果たさないロクでもない父親
ex-wife=前妻、元妻
abduct=誘拐、拉致
arrest=逮捕

 

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◇筆者について…加藤祐子 東京生まれ。シブがき隊と同い年。8歳からニューヨーク英語を話すも、「ビートルズ」と「モンティ・パイソン」の洗礼を受け、イギリス英語も体得。怪しい関西弁も少しできる。オックスフォード大学、全国紙社会部と経済部、国際機関本部を経て、CNN日本語版サイトで米大統領選の日本語報道を担当。2006年2月よりgooニュース編集者。米大統領選コラム、「オバマのアメリカ」コラムフィナンシャル・タイムズ翻訳も担当。英語屋のニュース屋。