英語メディアが伝える「JAPAN」をご紹介するこのコラム、今週はがらりと趣向を変えて、お弁当の話題です。英BBCが日本の芸術的な「BENTO」を取り上げたからで、こういう軽い明るいノリの、いわば平常モードの日本報道が少しずつ戻って来たことに、9カ月という時間の流れを感じました。(gooニュース 加藤祐子)

○ 屈託ない「おかしなニッポン」

東日本大震災から9カ月がたちました。人間ならばひとつの命が生まれ出でるほどの時間です。この間の英語メディアの日本報道はもっぱら、震災、原発事故、放射能、経済への影響、一瞬だけ女子サッカー、政局、そしてオリンパスについてだった。そんな感じがします。自分が書いてきたコラムを振り返っても。

もちろんこの間、従来の日本報道のお約束だった「面白いロボットの話」とか「面白いロボットの話」とか「面白いロボットの話」とかの話題もの記事は、あるにはありました。「ほんとにそんなの流行ってるの?」と日本在住者なら疑問に思う(たとえば「付け八重歯」)「日本ではこんな変なものが流行ってるよ」的記事も、ちらほらあるにはありました。おもしろニッポンブログではなく主要メディアにおいても。それに「面白い」というと語弊がありますが、震災に無関係の話題という意味では、中国道でのフェラーリ多重事故も、英語メディアの注目を集めていました。

なので、BBCが「日本の幼稚園児のお弁当」という話題を震災とまったく関連づけずに「あ・かるく(明るく軽く)」取り上げたのは、震災後初の面白い話題というのではなく、「ああ、こういう話題を震災とまったく関連づけずに取り上げるようになったのだなあ」という思いが私の中で湧いただけの話でもあります。そう言いたくなるくらい、BBCのローランド・バーク東京特派員の「日本のものすごいお弁当」というリポートには屈託がないので。これを観て私は、震災前の「ちょっと奇妙でおかしなニッポン」紹介が戻ってきたなあとしみじみしました。

バーク記者はどこかの幼稚園のお昼時間に同席。子供たちが次々と開くお弁当箱の中身の、なんて色とりどりで鮮やかなこと! しかも私の子供時代と違って単に色とりどりだというだけでなく、いわゆる「キャラ弁」と言われる手の込みよう。パンダちゃんとかクマさんとかピアノ(!)とか。お星様の形をした卵焼きとか。BBCの撮影が入るのだからと、おウチの人が腕によりをかけまくった姿が想像できます。記者はさらにキャラ弁教室までも取材。主催者の方や参加している方が英語ペラペラなのを、イギリスの視聴者はどう受け止めたのか。

そして記者の冒頭のコメントが笑えました。「この国では、乾いたサンドイッチをアルミホイルで包むだけでは全然ダメだ。日本のお弁当は芸術の域に近づいている」。

乾いたサンドイッチをホイルに包んだだけというのが、英国人の彼が考える「packed lunch(お弁当)」のひとつの極端な類型なのでしょう(ちなみに「乾いたサンドイッチ」で私がすぐ連想したのは、ビートルズ映画『A Hard Day's Night』でリンゴが食べられなかった乾きまくったサンド)。そして別に乾いてなくても、イギリスでは「packed lunch」と言えばサンドイッチなわけです。

私がこの秋にイギリスを訪れた際、たまたまお昼時間に特急電車で長距離移動したのですが、ターミナル駅のちょっとオシャレな売店で皆さんが買うお昼は、圧倒的にサンドイッチでした。東京駅や品川駅から新幹線に乗る人が色とりどりのお弁当を手にするのとはちょっと様子が違います。余談ですが、そんな中で私はちょっと小ジャレたパスタサラダを買ったものの、ここが日本ではないことをうっかり忘れ、車内でさあ食べようと開けたらフォークもスプーンも(もちろんお箸も)ついていなくて、愕然としたのも良い思い出です(ではどうしたかというと、二つ折りにした名刺をスプーン代わりに、大急ぎでせっせと食べました。周りから見られるのが恥ずかしいから体ごと窓に向かって、体で手元を隠して、さも熱心に景色を眺めているかのように……)。

話を戻します。イギリスで子育て中のイギリス人友人に確認したところ、この写真のあたりが、イギリスで子供に持たせる平均的な「packed lunch」ではないかと。もっともこの写真はアメリカのお母さんによるものなので、イギリスの一部の学校ではクッキーは禁止かもしれないと。いずれにしても、サンドイッチ+果物(リンゴが多い)+飲み物(+学校でOKならクッキーやキャンディバー)というのが、スタンダードと言えそうです。

ちなみにBBCの昨年の記事では、英政府機関による「バランスの取れた良いお弁当」(赤い蓋のお弁当)と「脂肪と糖分と塩分過多の悪いお弁当」(青い蓋)のサンプルが見られて、興味深いです。

ここで思い出すのは今度は自分の子供時代です。小学校2年生の夏にニューヨークへ引っ越して、初めて「お弁当」を現地の子供たちと一緒に開いた時のこと。学校はまだ夏休みだったので日帰りのサマーキャンプに通い始めた時です。私のお弁当は母が何の疑問も持たずに作ってくれた、鶏そぼろご飯とウィンナ炒めと温野菜と果物。「普通に」お弁当箱に入っていて、それを可愛い布でくるんでありました。対して現地の子たちが「普通に」出してきたのは、茶色い紙袋。中には可愛いランチボックスを出してきた子もいましたが、ほとんどが茶色い紙袋。そして中身は一様に、はい、サンドイッチにリンゴ。サンドイッチはほとんどの子が「ピーナッツバターとジャムのサンドイッチ(peanut butter and jelly sandwich)」というアメリカ人にとってのソウルフード。日本人にとってのおかかや梅干しのおにぎりでしょうか。そしてリンゴも、兎リンゴなんてものではなく、皮付きの丸ごと。まさにこの写真です。

中にはニンジンやセロリの野菜スティックが入っていて嫌な顔をしている子も。丸ごとのニンジンを握っている子も。自分のお弁当があまりに異質で、その落差に私は困ってしまって、自分の鶏そぼろご飯のお弁当を隠すようにして大急ぎで食べ、さっさと遊びに出てしまいました。この辺から、自分が「異質な者」として周囲にどうなじんでいくべきか、いかざるべきかの長い葛藤が始まったように思います(大げさですが)。