■本日の言葉「break a record」(記録を破る)■

肩の力を抜いたゆるい「暇ダネ」の英語をご紹介する金曜コラム、今週はお久しぶり、スーザン・ボイルさんの話題です。無名の教会ボランティアから一夜にしていきなり「世界の歌姫」となった48歳が、ついにアルバム・デビュー。そしてその予約注文数が、日本のミスチルと平井堅の記録を抜いて世界新記録なのだそうです。(gooニュース 加藤祐子)

○ついにアルバムデビュー

スーザン・ボイルさんがいきなり有名になった経緯は、今年4月にこちらで紹介しました。ミュージカル「レ・ミゼラブル」から「I Dreamed a Dream」を歌い上げたボイルさんの映像を初めて観たときの衝撃は正直、まだ忘れられません。それは翻せば、自分がいかに人の外見に判断を左右されているかの証左でもあって、ちょっとした後ろめたさに彩られているだけに、尚のこと印象が強烈です。

ボイルさんはその後、あまりに世界的に有名になって騒がれ、パパラッチに追いかけられ、イギリスのタブロイド紙にあることないこと書かれまくったせいで、精神的に疲れ切ってしまい、一時は入院を余儀なくされたほど。タレント発掘番組の決勝まで進出しましたが、優勝したのはそれは見事なダンスグループでした。

そのボイルさんのデビュー・アルバムがいよいよ11月23日に発売されます。アルバムのタイトルは、やっぱりと言うべきか、「I Dreamed a Dream」。そして英Amazon.co.ukは19日、このCDのオンライン予約数が世界中のAmazonで過去最多を記録した(broke a record)と発表しました(これを書いている19日夜現在、Amazon.comのミュージック部門で売り上げ1位です)。

最初にこのニュースを読んだ英デイリー・テレグラフ紙は、これまでのCD予約数1位と2位は「local releases in Japan(日本国内発売のアルバム)」だったとしか書いていなかったので(テレグラフ読者には関係ないと言わんばかりに)、「え! 誰? 何?」と慌てて探しにいったところ、エンターテインメント・ニュースの専門サイト「Digital Spy」やインディペンデント紙記事などが教えてくれました。

全然知らなかったのですが、これまで世界中のAmazonのCD予約数1位はMr. Childrenの「SUPERMARKET FANTASY」、2位は平井堅のデビュー10周年記念シングルベスト「歌バカ」だったそうで。その次に予約数が多かったのは、ノラ・ジョーンズの「Not  Too Late」だったそうです。

○痛みを知っている歌声だからか

ちなみにボイルさん、一夜にして有名になった直後から英マスコミの取材攻勢に遭い、そういうマスコミ対応の心得も何もないまま、色々と正直に答えてしまっては後から後悔して否定したりしていました。その中のひとつが「子供の頃、学習障害があった」という情報。確かに一躍有名になった直後に本人がそう話していたのに、後から「マスコミは話を大げさにし過ぎ」と反論したりしていました。

けれども最近になって英ミラー紙に対して本人が、「子どものころ、よく学校で居残りさせられてた。覚えるのが遅かったので。私はほかの人よりもほんの少しだけ、物覚えが悪い。学校のシステムというのはどんどん急いで先に先に行きたがるので、ちょっと遅いとすぐ取り残されてしまうでしょ? 私もそういう目に遭っていたんです」と発言。そして毎日のように学校で先生に「ベルトでぶたれ」、ほかの子供たちにいじめられていたと。「当時はそういう無意味な体罰のための体罰が日常茶飯事だったけれども、いまの教師たちは、学習障害(learning disability)のある子供たちをもっとちゃんと理解していると思う」と。アルバム・デビューを機に自分の辛い幼少期について真正面から語ったわけです。

ボイルさんが一躍有名になった直後からあちこちの掲示板やブログでは「勇気をもらった」という書き込みが続々。そして中には「自分も周囲になじめなかった」「自分も学習障害があり、教師やほかの生徒たちにいじめられたりした」という人たちが、自分と同じように一生懸命生きてきて、そして遂に輝かしい舞台を獲得したボイルさんに、共感の思いを続々と書き込んでいました。

歌の技術だけでいうなら、もっと上手い女性歌手はたくさんいるでしょう。けれどもなぜか分からないけれども、ともかくもボイルさんの歌は心を揺さぶる。孤独や痛みを知る人間の歌声だからかな——などと、アルバムのプレビューをいくつか聴いて思いました。だからこそ彼女のファースト・アルバムを、こんなにも世界中の人たちが楽しみにしているのかと。物珍しさもあるでしょう。好奇心もあるでしょう。けれどもそれだけではないだろうな、と。基本は「ロケンロール」好きの私でも、たとえば彼女の「Wild Horses」の歌いだしの艶と陰影には、ちょっとゾクゾクッとしたので。
 


◇本日の言葉
break a record =記録を破る
・local release =国内発売、地元発売
・learning disability =学習障害

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◇筆者について…加藤祐子 東京生まれ。シブがき隊と同い年。8歳からニューヨーク英語を話すも、「ビートルズ」と「モンティ・パイソン」の洗礼を受け、イギリス英語も体得。怪しい関西弁も少しできる。オックスフォード大学、全国紙社会部と経済部、国際機関本部を経て、CNN日本語版サイトで米大統領選の日本語報道を担当。2006年2月よりgooニュース編集者。米大統領選コラム、「オバマのアメリカ」コラムフィナンシャル・タイムズ翻訳も担当。英語屋のニュース屋。