■本日の言葉「it's time」(時間ですよ、頃合いだ)■

発生ものや日付ものなどストレートニュースではない読み物的な話題を、新聞業界用語で「暇ダネ」と言います。そういう暇ダネの中でもちょっと肩の力を抜いた話題と、そこで使われる英語表現をご紹介するこの金曜コラム、今日はこれを「暇ダネ」と呼んでいいのかどうかはその人の意見によって分かれるだろうな、というアメリカの話題を紹介します。ご存知カリフォルニア州のシュワルツェネッガー知事が「(医療用でない)マリフアナの合法化を議論しはじめるべきではないか」と発言したことについて。(gooニュース 加藤祐子)

○シュワ知事的な大麻合法化の目的とは

これを「暇ダネ」と言っていいのか、ストレートニュースではないのか、私もまだ迷っているのですが、少なくとも日本で今年や来年に同じような議論状況になる可能性はきわめて低いと思うので、現時点では「読み物・暇ダネ」扱いします。

ニューヨーク・タイムズなど米英各紙の報道によると、カリフォルニアのシュワルツェネッガー州知事は5日、医療用ではない嗜好品としてのマリフアナ使用を認めた場合にどういう影響が出るか、大規模に検討するべきではないかと発言しました。知事が掲げた目的は「州の財源として」。個人の自由とかカウンターカルチャーとかそういうことではなく、「財源」。財政危機にあえぐカリフォルニア州の知事として、住民の多くが支持する「大麻合法化」の検討を、まずは政策論争の俎上に乗せたというわけです。

「議論する頃合いだと思う(I think it's time for a debate)。新しい財源創出となる色々なアイディアを私は考えているし、それに関する開かれた議論は常に歓迎だ。そして、すでに大麻やほかの薬物を合法化したほかの国々がどうしているのかじっくり研究するべきだと思う。合法化によって、そうした国々にどういう影響があったのか」というのが、知事の発言です。

○この議論が日本にもいつかやってくるのか

大学などでの蔓延に警鐘が鳴らされ、次々と逮捕者が出ている日本の現状とはほど遠い議論状況ですが、その一方で、アメリカで起きている社会現象は得てして20〜30年後には日本にやってくるものです。たとえば児童虐待とか。私がアメリカで小学生だった1970年代にアメリカで深刻な社会問題として急浮上していたのをよく覚えていますが(通っていた公立小学校で「家で困ったことがあったら先生に相談しなさい」と授業で教わったほど)、当時はまだ日本では表面化していない、対岸の火事だった気がします。またアメリカでは1960年代から麻薬問題、10代の妊娠などが深刻な社会問題化していましたが(やはりこれもアメリカの小学校で「気をつけましょう」と授業で教わりました)、そこでも日本は追いついてしまいました。

なので大麻に関するアメリカの今の議論状況が、20〜30年後に日本にもやってこないとは、決して言い切れないと思うのです。ましてインターネット時代・グローバリゼーション時代の今、対岸の火はますます早くこちら岸に燃え移ってくるかもしれないのです。

欧米では60年代ごろから始まった「大麻合法化論議」。当時はヒッピーやロックンロールな若者のアングラな運動だったものが、今や真正面から堂々と語られるようになったわけです。つまりはそうした若者たちがあれから30〜40年たった今、欧米社会の主要な意思決定ポジションを占めるようになったということなのでしょう。たとえば、よりによって共和党選出のカリフォルニア州知事とか(今年6月に62歳。まさに60年代に青春まっさかりだった団塊の世代ど真ん中)。

ちなみにカリフォルニア州ではすでに、鎮痛など医療用に大麻を使うことは合法化されています。ほかにも医療用のみを認めたり、個人使用のみを認めたり、国や地域によって「大麻合法化」の色合いは実に様々。

その一方で、若い頃にはマリフアナもコカインもためしたことがあると認めているオバマ大統領は3月、「大麻を合法化すれば経済対策になり雇用創出につながるのでは」という国民の質問に答えて、「それでアメリカ経済を成長させるのは得策だとは思わないな」と発言しているので、そうそうすぐさま全米で大麻合法化という展開にはならなさそうです(ちなみにこの質問は、ホワイトハウスで開いたタウンホール・ミーティング用にネットで募った質問の中でも特に人気が高かったらしく、「ということが、ネット・ユーザーたちのどういう傾向を切り出しているのかよく分からないけれども」と大統領は笑っていたそうで)。


○酒やタバコと同じではむしろ困るのでは

CNNでは7日、シュワ知事発言を受けて、大麻合法化について賛成派の識者と反対派の政治家を両方登場させて語らせていました。反対派の言い分は「合法化すれば、中毒者が増え、暴力や犯罪が助長される」というもの。対する賛成派の言い分は「大麻合法化で暴力や犯罪が助長されるというのは、何の根拠もないこと。大麻の違法扱いはかつての禁酒法と同じで、違法にしているから野放図な闇市場が成立し、価格や品質の管理監督ができずにいる。合法化したらただちに中毒者が増えるわけではない」と。

大麻合法化の是非はよく、合法な嗜好品のアルコールやタバコと比べて論じられます。特に1920年代に禁酒法を経験しているアメリカでは、法律で禁止したところで需要がなくなるわけではないので、禁酒法がいかに闇市場を生んで、アル・カポネらギャングが牛耳る地下経済を生んだか、よく指摘されます。さらに大恐慌の嵐にさらされた米政府は結局のところ1933年、あえなく禁酒法を廃止した、故に大恐慌以来ともいわれる金融危機にさらされている米国は新たな財源として大麻を合法化すべきではないのか——というのが、合法化支持派の主張です。

私はお酒が好きだし、かつてはタバコも吸っていた人間なので、個人的には、合法化されれば大麻を使う人は間違いなく増えるだろうなと思います。とすると、中毒になる危険性をよほど最初からうるさく言わなければ(たとえばタバコについて欧州や豪州が行っているように、見る者が震え上がるような病変の写真をパッケージに印刷するなど)、中毒者も増えるだろうなと思います。タバコやアルコールの依存症が世界中でいかに大きな問題かを思うと、「合法化???」と大きく首を傾げたくはなります。ただその一方で上記したように、一部の国や地域ではすでに(医療用に限らず)合法だという現実もあるわけです。

最近のアメリカで大麻と言えば、北京オリンピック競泳8金の大スター、マイケル・フェルプスが、大学のパーティで吸っている写真をタブロイド紙に暴露報道されてしまいました。フェルプスはメディアに「バカだなー」扱いされ、自分自身も「バカなことをした」と謝罪して、3カ月の出場停止処分やスポンサー降板などのダメージを受けましたが、選手生命を断たれるには到りませんでした。一方の日本では、力士たちが角界を追放されたほか、大麻所持の疑いで息子が逮捕されたことに大衝撃を受けた父親が号泣しながら「人間として絶対に許されない」と非難し、俳優を辞めさせると発言しました。それぞれの違う国における、それぞれに違う状況です。

○さて、時間ですよ

さてここから英語解説です。「It's time」は「It is time」で、直訳すれば「時間ですよ」。ここで堺正章の明るい叫び声が聞こえた人は、私と同世代かその上の方ですね。

「○○をするべき」あるいは「○○にふさわしい」、「時間だ」「頃合いだ」という意味に使います。「○○」は何でも。議論開始でも("It's time for debate" あるいは "It's time to start a debate")、銭湯を開けるのでも("It's time to open the bath-house")、外出するのでも("It's time to go")、夕ご飯の時分だというのでも("It's time for dinner")。「○○」の中身がお互い分かっている会話なら……
ハナコ「It's time」
タロウ(うなずく)
——というやりとりもあり得るでしょう(余白が多い物言いなので、言い方によってはやたらと意味深になったりしますが)。

一方で、余白がお互いに理解できるほど阿吽(あうん)の仲や状況ではないのなら……
ハナコ「It's time for coffee(コーヒーのもうか)」
タロウ(うなずく)
——と、「○○」の中身をはっきり言った方がいいこともあります。でないと、ハナコさんはただコーヒーが飲みたいだけなのに、タロウさんは気を利かせすぎて大麻の用意をしてしまう、なんてことがないとも言い切れませんので。


goo辞書でも読める「ニュースな英語」はこちら

◇このほかの「ニュースな英語」コラム
水道水と自殺率低下の関係報道から英米の日本人観が——JAPANなニュース(2009年5月6日)
オバマ大統領の「もう大変なんすから」発言に演説名手ならではの至芸が……ニュースな英語(2009年5月4日)
世界最高の仕事とは、日本人女性も最終選考に——ひまだねニュース(2009年5月1日)
豚インフル拡大で日本は水際作戦強化「メキシコ人に健康証明を要求」——JAPANなニュース(2009年4月29日)
豚インフルの「ポテンシャル」とは決して良い意味ではなく——ニュースな英語(2009年4月27日)
SMAP逮捕の報は欧州にも伝わり「酒に飲まれる激職日本人」像も伝わる——JAPANなニュース(2009年4月24日)
「不況日本ではヤクザも大リストラ」と報道され——JAPANなニュース(2009年4月22日)
「不況日本で共産党が躍進」と米報道——JAPANなニュース(2009年4月22日)
ホワイトハウス入りした子犬、ボクこそが「top dog」——ニュースな英語(2009年4月20日)
47歳素人の歌声に辛口審査員が呆然 実現させた「dream a dream」——ひまだね英語(2009年4月17日)
オーガスタ魅了の片山晋呉が「turn it around」 ——ひまだね英語(2009年4月17日)
マスターズ石川遼は「up-and-coming」——ひまだね英語(2009年4月17日)
エビちゃんは日本の「soft power」——JAPANなニュース(2009年4月15日)
麻生首相の新戦略は「Do or Die」——JAPANなニュース(2009年4月15日)


◇筆者について…加藤祐子 東京生まれ。シブがき隊と同い年。8歳からニューヨーク英語を話すも、「ビートルズ」と「モンティ・パイソン」の洗礼を受け、イギリス英語も体得。怪しい関西弁も少しできる。オックスフォード大学、全国紙社会部と経済部、国際機関本部を経て、CNN日本語版サイトで米大統領選の日本語報道を担当。2006年2月よりgooニュース編集者。米大統領選コラム、「オバマのアメリカ」コラムフィナンシャル・タイムズ翻訳も担当。英語屋のニュース屋。