■本日の言葉「bite off」(噛み切る)■

 肩の力を抜いた「暇ダネ」ニュースの英語をご紹介するこの金曜コラム、今週は、医療保険改革をめぐるアメリカの騒ぎの中で、小指をかみ切られてしまった男性についてです。これを「暇ダネ」と呼ぶのは、被害にあった方にちょっと不謹慎かもしれませんが。(gooニュース 加藤祐子)

○政治に熱くなるのも結構ですが

日本の政権交代について英語メディアは「日本人は誰も踊っていない」何度か繰り返し書いていて、私はそれについて「そもそも日本はそういう国ではないから」と書きました。では日本人が政治とか政治テーマについて感情的になることが全くないかというと、もちろんそんなことはなく、安保闘争や成田闘争や倒幕運動が過去にはあって、それで命を落とした人もたくさんいます。

ただし、果たして、小指をかみ切られたなんていう人がいたかどうか……。小指を噛み切るというと、その昔、芸者さんが惚れた男に誓いを立ててとか、「あなたの噛んだ小指が痛い♪」とか、そういう色っぽいイメージが日本ではありますけれども、今回のこの話に色っぽさは残念ながら全くありません。

アメリカがこの夏、医療保険改革をめぐる議論で激しく過熱しているというのは、前にこちらでご紹介しました。このときは主に、オバマ政権の医療保険改革に反対する白人保守派がいかに非論理的で感情的で「クレージー」かをご紹介しましたが、どうやらクレージーにはクレージー返しというところまで状況は過熱してしまっているようで。

ワシントン・ポストAP通信ロサンゼルス・タイムズなど複数の米メディアによると、南カリフォルニアのサウザンド・オークスという地区で、改革推進派が開いた100人余りの小規模な集会で、改革賛成派と反対派が激しく対立。

ここで本人がフォックス・ニュースに語った内容いわく、「医療保険改革には反対だけれども、反対派としてデモ参加したわけではなく、ただ様子を見に行っただけ」というウイリアム・ライスさん(65)が、改革賛成派のひとりと怒鳴り合いになり。ライスさんいわく相手が「自分のことをバカ(idiot)と何度も怒鳴ってきた」ため、相手を殴った(「I threw a punch」)のだそうで。それでまた相手が「バカ!」と怒鳴ってきたため、また殴った(「I threw a second punch」)ところ、

「パンチは相手の口の中に入ってしまい、そのまま向こうは私の小指を噛み切ったんです(I threw a second punch which landed in his mouth, and he bit my pinky finger off)」だそうで。

○真相は藪の中?

改革反対派のブログによると、加害者は噛み切った小指の第一関節を吐き出してから逃走。捜査当局によると、複数の目撃証言があり、行方を捜しているとのこと。一方で改革賛成派のブログによると、「平和的に改革を呼びかけていた女性参加者」を至近距離から大声で罵った男(つまり噛まれたライスさん)が、今度は別の改革推進派の男性(つまり噛んだ男)を、すごい勢いで殴り倒したのだそうで。そして倒された人がまた立ち上がったところを、また殴ろうとしたら、ガブリとやられたようだと……。

芥川の「藪の中」ではありませんが、こうなるともう、誰が最初に何をしたから何がどうなったかなど、もう分かったものではなく。ただ厳然とした証拠として残ったのが、小指の第一関節を失い、包帯の巻かれたライスさんの左手で。

ライスさんは自分で運転して病院に急行。そして現場にいた目撃者が、吐き出された小指の関節を病院に持参。けれども人間の口には細菌がウヨウヨしているので、その中で噛み切られた指を最接着するのは不可能に近いといわれたそうです。

ちなみに、オバマ政権の医療保険改革に反対しているライスさんですが、メディケア(高齢者向けの公的医療保険)に加入しているため、この時の治療は保険でカバーされたのだとか。

もう一つちなみに英語では「bite off more than one can chew(咀嚼できないほどのものを噛み切ってしまった)」つまり、「無理をする、手に余ることをする」という意味の表現があります。英語メディアはこうした慣用句をもじって記事の見出しや本文に取り込むことが好きですけれども、今回のこれでそれをやったらあまりにブラックだと思ったのか、そういう表現の記事は見つかりませんでした。


◇本日の言葉いろいろ

bite off = 噛み切る、食いちぎる
bite off more than one can chew = 咀嚼できる以上のものを噛み切る、能力以上のことを請け負う
throw a punch = 殴る
 

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◇筆者について…加藤祐子 東京生まれ。シブがき隊と同い年。8歳からニューヨーク英語を話すも、「ビートルズ」と「モンティ・パイソン」の洗礼を受け、イギリス英語も体得。怪しい関西弁も少しできる。オックスフォード大学、全国紙社会部と経済部、国際機関本部を経て、CNN日本語版サイトで米大統領選の日本語報道を担当。2006年2月よりgooニュース編集者。米大統領選コラム、「オバマのアメリカ」コラムフィナンシャル・タイムズ翻訳も担当。英語屋のニュース屋。