■本日の言葉「take a stand」(立場を明確に示す、信念のために戦う)■

肩の力を抜いた「暇ダネ」ニュースの英語をご紹介する金曜コラム、今週はホワイトハウスの晩餐会に紛れ込んだ「有名になりたい症候群」の2人について書くのがイヤだなあと思っていたところ見つけた、素晴らしい10歳の少年についてです。人間には肉体年齢のほかに精神年齢があるわけで、精神年齢で言うと前者のカップルがどうしようもない子供なのに対して、不当な扱いを受けている人たちのため学校相手に戦う後者の少年は、弱冠10歳にして見事な大人なのです。(gooニュース 加藤祐子)

○有名になりたい有名になりたい何が何でも有名になりたい

ホワイトハウスでインド首相のために開かれた晩餐会になんと、招かれてもいない一般人夫妻が紛れ込んでいた。世界一厳重なはずの警備をすり抜け、堂々と入場し、バイデン副大統領やエマニュエル大統領首席補佐官らと一緒に記念撮影。その写真を自分たちのフェースブック・ページに載せて、「ご招待いただいて光栄でした」と自慢した。しかもこの2人がホワイトハウスに向かう様子を、リアリティ・テレビ番組(素人出演番組)のカメラクルーが撮影していた。

この「なんじゃそりゃ」な話を25日付のワシントン・ポスト紙がスクープしてからというもの、アメリカのメディアは大騒ぎ。そりゃそうです。結果としてテロでも暗殺でも何でもありませんでしたが、そうなる可能性は十分あったわけですから。ワシントン・ポストを始め複数メディアによるとこの大失態についてシークレットサービスは、「決められた手順に従わなかった検問所があった」と認める一方で、二人は金属・爆発物探知機を通っているのでその点は大丈夫だったと言っています。しかしこれは晩餐会だったのですから、その辺にごろごろあるナイフやグラスをその気になって使えば、かなりとんでもないことになり得たわけです。

ポスト紙によると、2人はワシントン近郊にあるワイン農園の元持ち主で、ワシントン社交界では有名な「socialites(パーティーなど社交の場の常連)」なのだとか。その2人が大統領主催の晩餐会に現れたので、気づいたポスト紙記者がまず「なんで?」というブログ記事を掲載。しばらくして「招待客リストに名前がない(They're not on the invitation list)」「二人は晩餐会に乱入した(they crashed the state dinner)」と続報したわけです(二人が実に堂々と晩餐会の会場に入っていく様子は、CNNABCテレビが流しました)。

これが騒ぎの発端で、その後に色々なメディアが書いた色々なことを読むにつれ、ほとほと気分が悪くなりました。結論から言うと、ニューヨーク・タイムズなども指摘するように、2人は例の「Balloon boy(風船少年)」騒ぎを引き起こした夫妻と同じ。一般人の主婦をフィーチャーするリアリティ・テレビ番組に出場して有名になりたいからと、このとんでもない騒ぎを引き起こしたようです。詳しく書くほどの価値もない騒ぎなので箇条書きにしますが、複数メディアの報道を総合すると、二人は——

・出演したいリアリティ・テレビのクルーには、本当に晩餐会に招待されたからと噓をついていた。「招待状を見せて」と言われると「車に置いてきた」と言い訳をした。
・テレビ・クルーに撮影されながら、まず車でホワイトハウスに入ろうとしたが、この時は入れてもらえなかった。
・徒歩で来る招待客用の入り口で、身分証明書を出してテロリストチェックは受けたが、招待客リストの確認がなく、そこで通ってしまった。
・入ってしばらくはほかの客と談笑し、副大統領らと写真を撮ったりしたが(ああ、なんてバイデン氏らしいといえばらしいヘマか……)、招待客が全員あらかじめ指定された席に着席する段になると、すっと場外に出たらしい。


なんともはや……。「風船少年」の両親は今、虚偽の通報をした罪に問われた刑事被告人です(14日の罪状認否では自ら有罪を認めている)。そしてホワイトハウスのパーティーに乱入した夫妻も、何らかの罪に問われるのではないかと言われています(連邦職員に対する虚偽申告罪など)。それでも「有名になりたい」「注目されたい」という飽くなき欲求は満足されたのだから良しとするべきか。いやはや。

実に不愉快な騒ぎなのですが、学校で習わないけれどもよく使う慣用句がいろいろと使われた話題だったので、いくつか挙げます。

・not on the list=リストに名前がない、つまりしかるべき人脈や社会的地位がない、和製英語の意味での「セレブ」ではないという含みがある。
・party crasher=パーティーに乱入する人。「party crasher」というと英米では最も恥ずかしい最低な人間の扱いです。
・crash the party=パーティーに乱入する。そしてパーティーを台無しにする。
・crash the gate=門に突入して強引に入る。名詞形が「gate crasher」
ちなみにこの一連の「crash」は、何かを「ぐしゃっとつぶす」という意味の「crush」とは別です。
fifteen minutes of fame=15分だけ続く名声、「誰でも15分間だけは有名人になれる」というアンディ・ウォーホールの言葉(もっとも情報消費のサイクルが速い昨今では「3 minutes of fame」と言われたり、もっと速いと「15 seconds of fame」と言われたりも。


○噓の誓いはできない少年

で、こんな図体だけが大人な人たちのことはどうでもよくて。むしろ私は、10歳にしてすでに心は立派な大人な少年についてご紹介したいのです。例によって ジョン・スチュワートのコメディニュース番組「The Daily Show」を観ていて知った、アーカンソー州のウィル・フィリップス君。しつこいけど10歳。飛び級したので5年生。将来の目標は弁護士だとか。

ウィル君のことを話す前に、少し前置きを。あまり日本では知られていないかもしれませんが、アメリカでは「Pledge of Allegiance(忠誠の誓い)」というものがあります。アメリカ国旗への忠誠を誓う内容の文言で、学校ではほとんど毎日、生徒たちは起立して国旗を見上げて、この誓いを斉唱します。よく大リーグの試合前の国歌演奏のときに、アメリカ人が右手を左胸の上にあててなんとなく国旗の方向を見上げている(そして歌詞を覚えているのかいないのか、口をもごもごさせている)、あのポーズです。アメリカの小学校に通った私もその間ほとんど毎日これを言っていたおかげで、30年以上たった今でも、何も見ないでもその言葉がペロッと出てきます。

I pledge allegiance to the flag of the United States of America,(私はアメリカ合衆国の旗に忠誠を誓います)
and to the republic for which it stands, (そしてその国旗が象徴する共和国に忠誠を誓います)
one nation under God, indivisible, with liberty and justice for all.(この共和国は神の下、ひとつの不断な国家。全ての者に自由と正義を与える国家です)


移民国家アメリカだからこそ、子供に毎日毎日これを言わせて(大人もことあるごとにこれを唱えて)、この価値観を叩き込むことで、国家としての一体性を守っているのか——などと七面倒な分析もできますが、それはまたの機会に。

それで! すっかり前置きが長くなりましたが、アーカンソー州のウィル君は、この忠誠の誓いを「僕は言えない」と拒否しているのです。10月初めからずっと。先生にいくら怒られても、校長先生の前に呼び出されても。そして両親も、息子の戦いを支持していると。ウィル君は弁護士志望で、いろいろなことを研究したり分析したりするのが好きだという。そして周りに、同性愛の友人や知り合いもいるという。そして彼なりに考えて分析した結果、「この国は、同性愛の人たちを差別している。異性カップルと同等の権利が、同性カップルには与えられていない。つまりこの国は、全ての人に自由と正義を与えていない。だから『忠誠の誓い』の言葉は現実に合っていない。だからこれを言ったら噓になる。だからこれを僕は言えない」と。そして自分はこれをほかの生徒たちと一緒に暗唱しなくてはならない法的義務があるのかと両親に確認した上で、法的義務はないと分かったので、誓いを拒否することにしたと。なんて理路整然と理知的な10歳でしょう! これから生きていく上で、もちろんある程度の妥協とか、現実との折り合いとかは学んでいかなくてはならないわけですが(「liberty and justice for all」が本当にいつこの世で実現するものやら途方にくれるので)、少なくとも若いうちはこれくらい理想を抱いていた方がいい。計算高い、すれっからしで冷めた小学生ほどイヤなものはありませんから。

自らの信念のために戦うことを、英語で「take a stand」と言います。実際に武器を手にとる戦いでなくても、信念や良心を主張して行動することはいずれも、「take a stand」です。そして「忠誠の誓い」というのは通常、立ち上がってやるもの。ウィル君は、同級生たちと一緒に立ち上がるのを拒否した。よって10歳が「is taking a stand sitting down」という言葉遊びがマスコミに飛び交っています。そんなマスコミの軽々しさとは全く無関係に、お父さんと一緒にCNNに出演したウィル少年は実に淡々と、実に超然としていて、そして実に聡明で思慮深い様子でした。

また、地元紙「アーカンソー・タイムズ」記者に「アメリカ人であることの意味は?」と質問されたこの10歳はすかさず「表現の自由です」と答えたのだそうです。「アメリカ人であることの意味のほとんどが、そこに含まれていると思う」と。少年のこの即答を聞いて、地元紙記者はぞくぞくっと鳥肌が立ったのだそうです。感動して。これを読んで私も思わず、メガネが曇りそうになりました。

ウィル君は学校で、「お前もゲイか!」などといじめられているそうですが(住んでいるのがニューヨークやカリフォルニアならともかく、よりによって保守も保守なアーカンソーですし)、ほとんどの米メディアはウィル君を絶賛(一部の保守系メディアはもちろん叩いていますが)。ジョン・スチュワートは「この子はとても貴重な子供だ」「この子は守らなくては」と称え、もしこの子がいじめられるようなら、ボディガードとしてプロレスラー軍団を送り込むぞ、この子をいじめるような連中はズタズタのボロボロにしてやるぞと言いだす始末(もちろんジョークです)。

そしてウィル君も素晴らしいけれども、やはりというかお父さんも素晴らしい。CNNに対して父ジェイ・フィリップスさんは、「彼が10歳だからといって、自分の意見がないわけじゃない。彼が10歳だからといって、自分の権利がないわけでもない。何か影響を与え(make a difference)られないわけでもない」と。自分の息子をきちんと一個の人間として扱い、きちんと相対して来た様子がうかがえます。そうやって育てられたウィル君、10歳にしてもう心は立派な大人なようです。どこかのparty crasherたちとは違って。

ウィル君の今後が気になります。がんばれウィル!


◇本日の言葉
take a stand=立場を明確に示す、信念のために戦う
socialite=パーティーの常連、社交界の有名人
pledge of allegiance =忠誠の誓い
・not on the list=リストに名前がない
・party crasher=パーティーに押し掛ける人、乱入する人
・crash the party=パーティーに乱入する
・crash the gate=門に突入して強引に入る
fifteen minutes of fame=15分だけ続く名声、15分間だけは有名人

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◇筆者について…加藤祐子 東京生まれ。シブがき隊と同い年。8歳からニューヨーク英語を話すも、「ビートルズ」と「モンティ・パイソン」の洗礼を受け、イギリス英語も体得。怪しい関西弁も少しできる。オックスフォード大学、全国紙社会部と経済部、国際機関本部を経て、CNN日本語版サイトで米大統領選の日本語報道を担当。2006年2月よりgooニュース編集者。米大統領選コラム、「オバマのアメリカ」コラムフィナンシャル・タイムズ翻訳も担当。英語屋のニュース屋。