■本日の言葉「latest launch」(最新の発射、新発売、新展開 )■


国際ニュースで使われた英語表現をご紹介するこの月曜コラム、今週は北朝鮮が新たに発したものについてです。それはミサイルだったり、あるいは資本主義に共産主義をトッピングするとこうなるというテイストの、ビールのCMだったり。(gooニュース 加藤祐子)
 
○独立記念日にまたアッカンベー

7月2日から米独立記念日の7月4日にかけて、北朝鮮は立て続けに計7発の弾道ミサイルを日本海に向けて断続的に発射しました。こうしたいかにも示威的な挑発行動に対して、国際社会は相変わらず無力です。中ロが豹変しない限り、今の国際社会は本質的に「厳重に抗議」したり「非難決議」を発したりするしかないと、つまり「all bark but no bite(吠えはすれども噛みはせず)」なのだと、北朝鮮は見切ってしまっているのでしょう。

以前にも、北朝鮮が「核開発を進めるぞ」とアメリカにあっかんべーをしたと書きましたが、独立記念日に合わせたミサイル7発もやはり、あからさまなあっかんべーと言えるでしょう。そして強大な覇権国アメリカに立ち向かってみせることで、国内結束を図ろうとしているというのが、大方の見方。

国内結束を図るにはただし、ただ猛々しい姿勢を見せるだけではだめで、そこにはやはりアメとムチの硬軟使い分けが必要。でなければ、控えめに言っても(to put it mildly)生活が楽そうには思えない北朝鮮の人たちが、結束しようにも体がシャンとしないのではないか、と。

だから…かどうかは分かりませんが、ミサイル発射とほぼ同時期に、北朝鮮の朝鮮中央テレビが2日夜、国産ビールのCMをいきなり放送したのだそうです。「ピョンヤンの誇りテドンガン(大同江)ビール! ピョンヤンの誇りテドンガン・ビール!」と。
 
○「平壌の誇り」という実に資本主義的なビールCM

BBCサイトで観られるこのCMは長さ3分弱。明るくポップな感じのBGMに乗って、泡いっぱいのビールジョッキにチマチョゴリ姿の女性、シュワシュワ泡たっぷりのビールジョッキ。そして、え!? 青空バックにミサイル発射映像?かとビックリすると、どうやら噴水の白い軌跡。男性がぐいっとジョッキをあおり、「ああ……(この一杯のために生きてる)!」というような表情(表情です、あくまで。ハングルは分からないので)。
 
さらにコンベヤーで工場内を運ばれる大量の瓶ビール。試飲する工場の皆さん。ジョッキになみなみとつがれるビール。レストランやパーティでビールを楽しむスーツ姿のサラリーマン風みなさんの様子——などが次々と映し出されます。

私はハングルが全くわからないのですが、テロップやナレーションの内容はBBCによると、「平壌の誇り、テドンガン・ビール」とか「あぁスッキリ!! 大同江ビール」とか。「新しい平壌のイメージはテドンガン・ビール」とか、「みんなの生活の一部になるでしょう」とか。

北朝鮮がこういう、いかにも資本主義的なコマーシャルを放送するのは異例のことだそうで。アメとムチならぬ、ビールとミサイルが同時期に北朝鮮から出てきたわけです。

それにひっかけてこのBBC記事でも、「North Korea's latest launch is not missiles, but a TV advertising campaign for a locally-brewed beer (北朝鮮が最新で発したのはミサイルではなく、地元産ビールのテレビCMキャンペーンだった)」と。記事は4日のミサイル発射前のものだったから「最新」という言葉が使えたわけですが、そもそもこれは「latest launch」という言葉のもつ二重の意味にひっかけたシャレ(こちらのコラムでもご紹介した、英語版の「掛詞」です)。 かつ「latest launch」と「l」で頭韻を踏んでいる語呂がいいフレーズなので、よく使われます。

つまり「latest launch」は「最新のミサイル発射」という意味にもなるけれども、「最新の広告キャペーン」や「新製品発表」という意味にもなるのです。 「launch」はそもそもミサイル限定の言葉ではなく、その対象物が何であれ、何かを新たに世に送り出すことを意味するので。 ミサイル発射もロケット発射も「launch」ですし、新商品の発売も「launch」ですし、たとえば新政権の出発も「launch of a new government」と言えます。
 
○北朝鮮はけっこうマメに色々やってる

ところでこのテドンガン・ビールは、韓国だと手に入るのだそうですが、BBC記事の読者投稿欄によると、けっこうおいしいらしいです。一人の投稿者によると、韓国に入ってくる北朝鮮の食料品は「公害のない環境で化学品を使わずに新鮮な材料で作っている」からとてもおいしいとのこと。そして別の投稿者によると、テドンガン・ビールは北朝鮮国内でも瓶ビールが食料品店で売られているのだけれども(660ミリリットルで約45円)、瓶が足りなくなると小売りはなくなってしまい、ビアホールで飲むしかないのだとか。ビアホールで飲むと、500ミリリットルで約13円。一般市民は配給のビール券をもってビアホール前で行列するのだそうです。

ちなみにこのテドンガン・ビール。やはりBBCによると、そもそもはイギリスにあったビール工場で作られています。廃業した工場を北朝鮮政府が買い取って、機材をそっくり平壌に運んで組み立て直したのだそうで。

「アッシャーズ」として知られたビール工場は、英南部ウィルトシャーのトロウブリッジという街で1824年から地ビールを作っていたのだけれども、買収した実業家が2000年、採算性がないと判断して閉鎖。一方で北朝鮮は、お酒好きの総書記の意向を受けて、国産ビール製造開始のため、どこか工場をまるごと売ってくれないかとドイツのエージェントに相談していた、と。

このドイツ人エージェントに声をかけられたイギリス人オーナーは当初、相手はNorth Korea(北朝鮮)ではなくSouth Korea(韓国)だと勘違い。いやそうではなくて…と知った時はびっくりして、生物兵器開発に使われたらどうしようと不安だったそうです。というのも、ビール醸造のための工場施設と、製薬や生化学活動の施設とでは「あまり大差はない(not a lot of difference)」からだそうで。

いやいやそうではなくて、本当にビール工場を造りたいんだと約束されて売り払った設備は、北朝鮮の作業員によって解体されてそのまま北朝鮮に運ばれ、1年半もしないうちにビール工場として稼働開始したそうです。

ビール醸造と生化学兵器開発の設備に大差はないと言われてしまうと、日本人としては、造ってるのは本当にビールだけだろうか……とちょっと(かなり)気になるところですが。

北朝鮮について英語メディアはよく、「reclusive state」という表現をします。「閉鎖的な国家」というほどの意味ですが、「ひきこもり国家」とも訳せますし、私も(北朝鮮ウォッチャーではないので)、そういう「ひきこもり」的なイメージを北朝鮮に抱いていました。なので、こうやって実はかなり諸外国であれこれと商取引をしたり、活動しているのだと、こうやって逸話的に明らかになるたびに、驚くと共に、なんだかざわざわする心持ちになるのです。

◇本日の言葉いろいろ

・latest launch=最新の発射、新発売、新展開
・all bark but no bite=吠えはすれども噛みはせず
to put it mildly=控えめに言うと
・not a lot of difference=大差はない
reclusive=閉鎖的、引きこもりがち

goo辞書でも読める「ニュースな英語」はこちら


◇最近の「ニュースな英語」コラム
ウィンブルドン佳境、テニスはいつから絶叫系に(2009年7月3日)
東京の「空洞化」進む? 日本版サブプライム危機寸前の予言?(2009年7月1日)
大人になりたくなかったマイケルと一緒に大人になった私たち(2009年6月29日)
顔にタトゥー56個の星空……の真相はやはり(2009年6月26日)

取り調べは全て録画の国から日本の刑事システムを見ると(2009年6月24日)
女子学生も射殺されているイランを前に、板挟みのオバマ氏(2009年6月22日)
顔にお星さまをタトゥーしたいの、でもさすがに56個は多すぎるよ(2009年6月19日)


◇筆者について…加藤祐子 東京生まれ。シブがき隊と同い年。8歳からニューヨーク英語を話すも、「ビートルズ」と「モンティ・パイソン」の洗礼を受け、イギリス英語も体得。怪しい関西弁も少しできる。オックスフォード大学、全国紙社会部と経済部、国際機関本部を経て、CNN日本語版サイトで米大統領選の日本語報道を担当。2006年2月よりgooニュース編集者。米大統領選コラム、「オバマのアメリカ」コラムフィナンシャル・タイムズ翻訳も担当。英語屋のニュース屋。