■本日の言葉「house of cards」 (トランプの家、砂上の楼閣)■

国際ニュースの英語をご紹介する月曜コラム、今週は「ドバイ・ショック」についてです——と言いたいところですが、そもそも金融マターについて詳しく書ける経験もないので、なぜこうなったのか、今後どうなるかについての役立つ解説は何もありません。ただドバイ危機をめぐって英語メディアに飛び交っている英語表現を、いくつかご紹介します。英語メディアはこういう時、こうやって騒ぐんだよという雰囲気を味わっていただければ。(gooニュース 加藤祐子)

○ショックというほど意外だったか

マーケットの動きについてもっともらしく書けるほどの知識がないことに加え、まことに私事ながら終末ならぬ週末に軽いぎっくり腰をやってしまったため、パソコンに向かっていてもいつも以上に頭が働かない状態です。本当は、イギリスで次々明らかになるブレア前首相とブッシュ前米大統領との密接すぎる関係について続報したいのですが、腰が痛い状態でそれはちょっと無理。体の即物的な痛みはかくも人間の思惟に勝る。人間は考える葦かもしれないけれど、その葦がぎっくり腰になったらどうだろうか……と、こういうくだらない愚痴ならいくらでも書けるのもまた不思議です。

まことにすみません。で、ドバイ危機です。去年は「次はこれがくるよ」「ここに投資するといいよ」などとさかんに注目されていた政府系投資ファンド(sovereign wealth funds)ですが、やはりと言うべきか、実体経済の裏付けが乏しいところに資金だけ集まるとその顛末はいつも同じ。信用不安でバブル崩壊です。なんでそれをいちいちみんな、「びっくりしたなあもう」と言わんばかりに「shock(衝撃、驚き)」と呼ぶのか。

英フィナンシャル・タイムズが危機発生の時系列をまとめています。ドバイが主要企業2社の債務返済延期を債権者に要請すると25日午前に発表した。これが直接的なきっかけで、これをFTは「bombshell(爆弾)」と。日本語でも「爆弾発言」と言いますが、爆発的な影響力のあるものにつく形容詞です。衝撃発表は「bombshell announcement」。世の男たちを吹き飛ばすほど魅惑的な金髪美人を「blonde bombshell」と呼んだりもします(「b」で始まる言葉を並べた頭韻ですね)。

この爆弾発表を受けて、市場を「confusion reigns(混乱が支配)」し、26日の木曜日には「markets slump(各地の市場が急落)」。けれどもこれがちょうどイスラム圏では「イード・アル・アドハー(犠牲祭)」という祝日に重なり、アメリカでも「Thanksgiving(感謝祭)」の4日間のお休みに重なった。なので26日には確かに株価とドルが暴落したが連休明けの月曜日はどうなることかと、世界中の金融関係者がハラハラ。金融関係者にとってはろくでもない連休だったことでしょう。

開けて30日、ドバイとアブダビの株価は「plummet(墜落、急落)」「plunge(墜落、急落)」「take a nosedive(鼻から飛び込む、急降下)」と、株価急落につきものの用語が飛び交っています。その一方で日本をはじめアジア株は「 rebounded(リバウンド、跳ね返る、反発)」、あるいは世界各地で市場が「bounce back(跳ね返る、反発)」。

英テレグラフ紙によると英FTSE100種総合株価指数はドバイの信用懸念を「shrug off(肩をすくめて、なんてことないさと仕草で示す」。そして米ワシントン・ポスト紙は「Is the shine off Dubai?(ドバイのメッキは剥がれたのか?)」というお題で読者アンケートを開始。その問題提起は「ファンタジーの上に築かれた国、どんどん高くなる高層ビルが林立するイメージのこの国」が、実は「house of cards(トランプの家⇒もろくはかないもの)」だったという「revelation(啓示、暴露)」に耐えられるのだろうかと。「house of cards」という比喩に実はもっともぴったりくる日本語の比喩は「砂上の楼閣」です。中東の国ドバイだけに、なんともぴったりです。

そして、なんだかドバイの特殊性を強調したかのようなこの設問に対して、多くの読者は「砂上の楼閣はドバイだけじゃないよ。ウォール街もそうだし、世界中のあちこちにあるよ」と冷静でした。

○やっぱり秋!

アメリカのサブプライム危機にいち早く警鐘を鳴らしていたフィナンシャル・タイムズのジリアン・テット記者は、今回のドバイ危機も「a welcome wake-up call(ありがたい目覚ましの音、警鐘)」だったと書いています。ここしばらく金融システムは一見すると安定を取り戻していたかのように思えたが、やはりこういう不安定要因はまだなくなっていないのだと。過剰なレバレッジには気をつけましょうと。要するに、うますぎる話は信じるなということでしょうか。

ちなみに話は全くずれますが、このジリアン・テットが「市場に公的資金が大量投入されたせいで資金がだぶついていて、実体経済に降りていない」と書いたのを、こちらで翻訳してからすぐ、日本の金融関係者と会ってこの記事の話をしたことがあります。その時その方は「そうなんですけど、ジリアン・テットみたいに影響力のある人に『今の市場高騰は危ない』と言われると、そうなのかって投資家のアニマルスピリットが冷え込んでしまうかもしれない。それが恐いですよね」という話になりました。そしてさらに(私も相手の人も多少のアルコールが入っていたせいもあって、話がどんどん大げさになっていき)、「そもそも投資家っていうのは冷静なようでいて、実はすごく動物的ですからね。本能で動いてますからね。暑いとか寒いとか、晴れてるとか雨だとか、気分にもすごく左右されてますからね。だからほら、大きなクラッシュと言えばだいたい、暗くて寒い秋とか冬じゃないですか。アメリカやヨーロッパは、秋からもう寒くて暗くて陰々滅々としてきますからね。市場も陰々滅々としがちなんですよ」と。

お互いお酒が入ってますから、なんだか大発見でもしたみたいに「そうそうそうですよね!」と大騒ぎ。「五行思想でも秋冬は衰退の季節ですし!」とかわけのわからないことに。けれども確かに、1929年世界恐慌の『Black Tuesday』は10月でしたし、1987年のブラックマンデーも10月。日本のバブルが崩壊しはじめたのも1990年の11月。そして「ドットコム・バブル」の崩壊は2000年3月から始まりましたが、これも強引に言えば、アメリカではまだ寒くて暗い。

なので、今回のドバイ危機の一報を聴いたとき、私は素面だったのに「おお、やっぱり! クラッシュは秋冬に起きるんだ」と膝を打ち、ひとり「それみたことか」と騒いだのでした(11月だからといってドバイは暗くも寒くもないだろうと思いますが)。その後に腰を「グギッ」とやったのは、ちょっとしたバチが当たったのかもしれません。
 


◇本日の言葉いろいろ

house of cards=トランプの家、もろくはかないもの、砂上の楼閣
bombshell=爆弾(の殻)、爆弾発言、猛烈な美女
plummet=墜落、急落
plunge=ずぶっと入る、墜落、急落
take a nosedive=鼻から飛び込む、頭から急降下
rebound=跳ね返る、リバウンド
bounce back=跳ね返る、ポーンと元に戻る
shrug off=肩をすくめて受け流す
revelation=啓示、天啓、暴露
wake-up call=目覚ましコール、警鐘

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◇筆者について…加藤祐子 東京生まれ。シブがき隊と同い年。8歳からニューヨーク英語を話すも、「ビートルズ」と「モンティ・パイソン」の洗礼を受け、イギリス英語も体得。怪しい関西弁も少しできる。オックスフォード大学、全国紙社会部と経済部、国際機関本部を経て、CNN日本語版サイトで米大統領選の日本語報道を担当。2006年2月よりgooニュース編集者。米大統領選コラム、「オバマのアメリカ」コラムフィナンシャル・タイムズ翻訳も担当。英語屋のニュース屋。