■本日の言葉「blame game」 (責任のなすりつけあい)■

国際ニュースの英語表現をご紹介する月曜コラム、今週は「ポスト京都議定書」の温暖化対策を話し合ったコペンハーゲン会議についてです。「もう駄目だ」と思われていた会議の終盤に乗り込んだオバマ米大統領が「俺が登場したからにはもう大丈夫だ」的な、遠山の金さん的なヒーローになりかけたのだけれども、結果的にそれで国連の顔を潰したのかもしれないという話など。(gooニュース 加藤祐子)

○12年かけても大枠は変わらず

12年前の第3回気候変動枠組条約締約国会議(COP3)、いわゆる京都会議を、それなりにみっちり取材した一人です。そして今回のCOP15の議論を見ていて「なんだ12年前と論点も各国の立場もほとんど変わってないじゃないか」というのが正直な、そしてがっかりさせられる感想でした。温暖化防止と経済活動の要請を両方抱える先進国vsこれから経済発展していなかくてはならない主に中国、インド、ブラジル、ロシア——という構図は、12年前とほとんど変わっていませんでした。

12年かけても、温暖化防止技術に画期的な進歩は(議論の文脈をすっかり変えてしまうほどの画期的な進歩は)なかったし、映画「不都合な真実」がいくら評判になっても「どんなに経済発展したところで肝心の地球がダメになってしまったらどうするんだ」というアル・ゴア元米副大統領の主張は経済新興国には浸透せず(アメリカ産業界にもさほど浸透せず)。そしてCOP15開始を狙い済ましたかのように暴露されたいわゆる「クライメートゲート(Climategate、climate=気候とウォーターゲート事件の「ゲート」を掛け合わせた言葉です)。気候変動のデータを集積する研究者たちがもしかしたらデータを水増ししていたかもしれないというこの騒動は、特にアメリカに大勢いる温暖化懐疑論の人たち(climate sceptics)を思い切り勢いづけてしまい、「そもそも温暖化なんてないんじゃないか」という話が再燃してしまったのも、この12年間は何だったのかという思いにさせられました。

「クライメートゲート」について更に言うと、温暖化否定論者というのはブッシュ政権8年間のアメリカで大手を振っていた保守層に多く、「社会主義者オバマの政権に国民は騙されている」感を強めている人たちと重なっていることが多いので、尚のこと米政府にとって、2012年大統領選の行方にとって、そしてポスト・オバマの米環境政策にとっても、かなり厄介な暴露でした。

そして更に、12年前も言われていた、ともかく参加国が多すぎるという問題。それはすなわち、国連という機関の意思決定手続きそのものの問題。これが、今回も最大の問題として立ちはだかったようです。これは国連のありかたの根本的な問題とも関係していて、この気候変動問題に限らずそうなのですが、国連では大国や主要ステークホルダーが密室で話し合わないことには何も具体的な施策は決まらない一方で、総会採択にあたっては190カ国以上の加盟国全てに平等な一票が与えられている。だから総会では最大公約数的な、お題目だらけの合意しかなかなか得られない。

そしてだからこそあまりにステークホルダーが多すぎて、かつ各国の利害関係が違いすぎる気候変動の問題では、誰もが受け入れられる合意が得られるはずがない。だから今後は国連ではない場で、30カ国前後の主要国を集めた場で議論を進めて行くしかないだろう——という意見が、英米のメディアを中心に多く見られます。

○一部の国が妨害したと

12年前の京都議定書策定の頃からずっと、温暖化対策の議論を国際的にひっぱってきた欧州では、京都議定書に代わる、強制力をもつ削減目標を含んだ合意が得られなかったと激しく落胆(国際条約における強制力にはそもそも限界があるのですが、それでも強制力が文書化されているとしないではやはり違いは大きい)。会議失敗の責任は誰それにあると「point a finger(指差す)」し批判しあうことを「blame game(責任のなすりつけあい)」と言います。

ニューヨーク・タイムズのこの記事によると、イギリスのミリバンド環境相(ミリバンド外相の弟)は結果にがっかりしているが、「責任のなすり付け合いをするつもりは全くない(absolutely not in the blame game)」と発言。しかし英ガーディアン紙への20日付寄稿で同じミリバンド氏は「2050年までに排出量50%削減という合意も得られず、先進国による80%削減という合意も出来なかった。両方とも先進国と大多数の途上国が支援していたにもかかわらず、中国が拒否した」と中国を名指し。さらに合意の内容に先立ち交渉手続きをめぐり会議のほとんどの時間が費やされてしまったことを強く批判し、「交渉の構図と性質をめぐる議論もある。2週間にわたり(会議が紛糾したせいで)時に滑稽な姿を国際社会にさらしてしまった。具体的な内容に関する交渉が、(一部の国によって)今回のようにハイジャックされることは二度と許してはならない」と。ガーディアン紙は、これは中国およびスーダン、そしてボリビアを含む一部の南米諸国を指差した批判だと指摘しています。さらにミリバンド氏は、温暖化対策協議を取り仕切る国連の気候変動枠組み条約事務局を、大々的に改変する必要があると主張。つまり、一部の国が話し合いを妨害できる今の仕組みのままでは交渉を続けてもムダだと。

同じ英国のゴードン・ブラウン首相に至っては、「今よりも環境に優しい未来へ進むための世界的な合意が、ほんの一握りの国々によって人質にとられるなど、二度とあってはならない」と、国名こそ名指ししないものの、強い調子で非難する予定です(日本時間21日正午現在)。

BBCによると、コペンハーゲンにおいて「中国政府代表は無礼でぶしつけだったと各方面から非難されている。しかし中国代表にしてみれば、自分たちは国民ひとりあたりの排出量をアメリカの6分の1に抑えているのだし、賞賛されこそすれ非難されるいわれはないという思いで会議に乗り込んだようだ。にもかかわらず、中国交渉団の解振華団長が3日にもわたって会議場入場を拒まれるという、屈辱的扱いを受けた(米国代表がこんな扱いを受けただろうか?)こともあり、温家宝首相が到着したころには中国代表団は、譲歩しない中国が悪いとあちこちから責め立てられ、怒り心頭に発していた」のだそうです。

とすると、中国が途中で会議を退席しなかっただけでも、もしかしたらコペンハーゲンは成果を出したのかもしれません。

○米中にとっては「前進」だと

だからでしょうか、米政府と中国政府は共に「non-binding(義務を伴わない、強制力のない)」このコペンハーゲン協定を評価。AP通信によると、中国の楊潔外相は「意味のある、前向きな」成果だと評価。オバマ政権も、「偉大な一歩前進だ」と。

特に米政府としてはそう言うしかないでしょう。そもそもつい先日までアメリカは、京都議定書に参加していなかったし、そもそも前政権は「人為的な二酸化炭素排出が温暖化の原因」という科学知見すら受け入れようとしなかったのだから。それに加えて、日本時間20日朝の時点で「主要国が合意」と速報されたそれは、オバマ大統領がかなりゴリ押しして実現したものだというのですから。上気したようなカッカした状態だった中国を、なんとか丸め込んで。

フィナンシャル・タイムズの科学担当は、コペンハーゲン会議の何が成功で何が失敗かを整理し、ともかくも「主要排出国のアメリカ、中国、インド、ブラジル、南アフリカが初めて、平均気温が(産業革命以前より)2度以上高くなる事態を避けなければ、地球は大変なことになってしまうこと、そしてそのためには『地球全体の排出量の大幅削減』が必要だと言う科学知見について合意したこと」が、最大の成果だったと。そのために何か国際法上の義務を負うのはイヤだが、少なくともお互いが努力することで、この5カ国が合意したことが、何よりの成果だったと指摘しています。

そしてこの主要国合意こそ、オバマ氏のドラマチックな辣腕によって得られたものだというのです。「主要国が合意した、しかし総会が合意を受け入れるかは未知数」という、日本時間土曜日午前の段階で見つけたニューヨーク・タイムズ記事にはこうありました。

「合意達成のきっかけとなったのは、オバマ氏のドラマチックな登場だった。中国とインドとブラジルの首脳たちの会合に、オバマ氏がいきなり割って入って、コソコソ交渉しないでほしいと伝えた」のだと。この「乱入(intrusion)」を機に話し合いはさらに進み、主要排出国の合意が形成されたのだと。

これを読んで私はつい、笑ってしまいました。「太陽にほえろ!」で「話はぜんぶ聞いた」と言いながら入ってくる山さんとか(若い読者は分からないか)、「遠山桜にはお見通しよ」と見得を切る金さんとか(もっと分からないか)、歌舞伎「暫」で「し〜ば〜ら〜く〜、しばらくしばらく!」と花道からいきなり入ってくる鎌倉権五郎とか(ますます分からないか)、ともかくそういうスーパーヒーロー的な場面を想像してしまって。この時はまだ、もしかしたらこのまま合意採択になるかもという希望があったせいもあり、「もしこの会議を映画にするとしたら、オバマが中国やインドの密談にいきなり乱入するここが最大の見せ場だな。黄門様の印籠の場面だな」などと思っていました。

翌日のニューヨーク・タイムズはこのくだりをもう少し詳しく描写。いわく、現地入りしたオバマ氏と温家宝首相の会談が二度設定されたにも関わらず、そのたびに中国は代理を寄越したのだと。しかも交渉担当者としての「格」をどんどん下げて来たのだと(なるほどこれは上述のBBCが言うように「無礼で不躾」と言われても仕方がない)。そして米政府側が改めてオバマ氏と温氏の二国間会談を設定したにもかかわらず、そのとき温首相はインド、ブラジル、南アフリカの首脳たちと会談していたと。これが上記の「コソコソ会合」ですね。それを知ったオバマ氏は急ぎその場に踏み込み、入り口から温首相に「首相、そろそろ会ってもらえますか? もう用意はいいですか?(Mr. Premier, are you ready to see me? Are you ready?)」と呼びかけたのだそうです。つまり中国がアメリカ抜きで、インド、ブラジル、南アフリカと何かを決めようとしてたところにオバマ氏が踏み込んだことで、少なくともこの主要排出国5カ国は「温暖化は大変な問題なので自分たちもがんばるよ」と合意するに至った——ということらしいです。

○勝ち負けで言うと

しかしこういう密室政治的な決め方そのものが、大多数の途上国の反発をかい、一国一票の総会では合意は採択されず。「take note」という「留意」と訳すともっともらしく聞こえますが、英語の感覚でいうと「あ、そう」と気に留める程度のことでしかない結末になってしまったと。

フィナンシャル・タイムズは、会議の最大の勝者は「そもそも温暖化なんかない」と主張する否定論者たちだったと書いています。二番目の勝者は、外交力と交渉術を駆使して自分たちに最適な結果を獲得した中国。そして最大の敗者は地球そのものだと。

けれども(少なくとも欧州では)前向きで具体的な合意を妨げたのは中国だという論調が高まり、中国が悪者にされているので、果たしてそれで中国勝利と言えるのか。そして温暖化対策については、COPではない別の場で、交渉が進んでいくかもしれないし、もし対策が進まなければいずれ人類そのものが敗者となるので、この場で中国が勝とうが欧州が負けようが結局は無意味(人類がいなくなっても、地球そのものはこれまでと違う形で生き続けるでしょう)。とすると一番最短距離で最大の被害を受けたのは、もしかしたら、気候変動枠組み条約そのもの、もしくは国連の決定プロセスそのものなのかもしれません。

アメリカは、国連改革必要論の急先鋒だけに、そもそも国連を信頼していないし、必要ともしていない。欧州はそれよりは国連の多国間プロセスを重視していたけれども、今回の苦い経験から「国連、使えない!」とそっぽを向き始めている。となると国連はますます途上国フォーラムとなり、もちろんそれはそれで有意義だけれども、主要先進国がそっぽを向いた状態では、国連は国際舞台における存在感をますます失ってしまう。国際的な意思決定の場としての国連が、コペンハーゲンでかなりの大打撃を受けた。そんな風に私は思います。

(23日・水曜日のコラムはお休みさせていただきます)  


◇本日の言葉いろいろ
blame game = 責任のなすりつけあい
climate = 気候
sceptic、skeptic = 疑う人、懐疑主義者(scepticはイギリス綴り、skepticはアメリカ綴り)
・non-binding = 縛り付けない、義務のない、強制力のない
・point a finger = 指差す、名指しする
intrusion = 乱入

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◇筆者について…加藤祐子 東京生まれ。シブがき隊と同い年。8歳からニューヨーク英語を話すも、「ビートルズ」と「モンティ・パイソン」の洗礼を受け、イギリス英語も体得。怪しい関西弁も少しできる。オックスフォード大学、全国紙社会部と経済部、国際機関本部を経て、CNN日本語版サイトで米大統領選の日本語報道を担当。2006年2月よりgooニュース編集者。米大統領選コラム、「オバマのアメリカ」コラムフィナンシャル・タイムズ翻訳も担当。英語屋のニュース屋。