国際ニュースの話題をご紹介するこのコラム、今週もまたアメリカの中間選挙についてです。11月2日の投票日を前に、オバマ大統領が若者に人気の深夜コメディ番組に出演。今だったら国民に何と言うかと聞かれ、「Yes, we can……だが、一晩で出来るわけじゃない」と答えました。有権者の夢と希望を高めるだけ高めてまるで非現実的な英雄のようにして当選したオバマ大統領が、いよいよ現実的な大統領になるための宣言のようだと私は思いました。(gooニュース 加藤祐子)

○「CHANGE」は一夜にしてならず

中間選挙で注目されるのは民主党がどの程度負けるかであって、民主党が大勝するとは誰も思っていない。そんな状況での27日夜、オバマ大統領はこのコラムでも何度も取り上げてきた人気の政治風刺コメディ番組「ザ・デイリー・ショウ(The Daily Show)」に出演しました。アメリカのリベラル層、特に若者の間で圧倒的に支持されている司会者ジョン・スチュワートのこの番組(こちらによると、毎回のアメリカ国内視聴者数は360万人、ネットでは平均22.5万回再生されるとのこと)に、現職の大統領が出演するのは今回が初めて(この回の国内視聴者数は280万人とか)。

大統領の「ザ・デイリー・ショウ」出演を、米メデイアはやたらと大きく取り上げています。真面目なニュース番組ではなく、三大ネットワークのトーク番組でもない、ケーブルテレビ局「コメディ・セントラル」の番組に現職大統領が出演という物珍しさもあるかもしれません。しかしそれよりもこの注目度は、ジョン・スチュワートと相棒のスティーブン・コルベアがここ数年、米リベラル世論形成にいかに大きな影響力をもつようになったかの表れだと思います。ジャーナリストではないスチュワートとコルベアは、笑いと風刺を武器に、政治に対しても経済界に対しても既存メディアに対しても「王様は裸だ」と指差し続け、そして影響力を増してきた。そのスチュワートが選挙直前に現職大統領をインタビューすることは、もはや不思議でも奇異でもなんでもないことになった。その現象を、アメリカのメディアは大きく取り上げています。

スチュワートとコルベアは11月2日の投票日を目前にした30日に、ワシントンで「正気を回復するための政治集会」を開く予定なので、それに対する注目も高まっています。私ははっきり言えばジョン・スチュワートのファンなので(集会に行くほど)、このまま彼をテーマにダラダラ書き続けたいのはヤマヤマですが、そういう訳にもいきません。なので、オバマ大統領の発言に戻ります。

冒頭で書いたように、ジョン・スチュワートに「今だったら『Yes, we can ……一定の条件が揃えば』と言うんじゃないですか」と皮肉られて、大統領は「Yes, we can……だが、一晩で出来るわけじゃないと、そう言うかもしれない」と答えました。スチュワートは笑っていましたが、大統領は笑わず。真面目な、ちょっとムッとしたような顔で。「(選挙中には)Change you can believe in (信じることのできる変化)とは言ったが、18カ月でそれが出来るとは言っていない」とも。「医療保険改革を一晩で実現しなかったと批判されるなら、確かにその通りだ」とも。

候補と現職の違いです。まさに。

大統領が就任前は美辞麗句ばかり語っていたなどというつもりはありません。当選の夜も、就任の日も、オバマ氏は問題は「簡単には解決できない」と言明していました。大統領スタッフも政権移行期間にすでに「今の人気は今だけですよ。2年後には不満が高まっているはずです」と釘を刺していたそうです(この番組で大統領がそう話していました)。けれども「簡単に解決できない」と言われてもなんだかまだ大勢が夢見心地だった2年前の思いと、「本当に簡単に解決できなかった……」と現実を思い知らされた今の苦い思いは、同じものであるはずがありません。それは、大統領自身にとっても大きな違いなのではないだろうか、と思うほどに。

番組でスチュワートは「大統領は希望と変化を掲げて選挙戦を戦ったのに、今年の民主党は『お願いだよ。もう一度だけチャンスをくれよ』と言ってるみたいです」と、しゃっきりしない民主党を恋人にふられて未練がましい男扱い。それに対して大統領は、「(国民が)みんな苛立っていて、不満なのは理解できる。大恐慌以来最悪の2年間を過ごしてきたが、みんなたくましく耐えてきた。ひどい経済状態で政権を引き継いだけれども、私たちは恐慌を防いだし、金融システムと証券市場と経済を安定させた」と主張しました。

そしてスチュワートが「大統領は選挙中は『audacity (大胆さ)』を掲げていたのに、立法作業は気弱(timid)に見えます」と批判すると、大統領は少し強い調子で反論。「医療保険改革法は、大胆な、この国の歴史の中でもきわめて重要な法律だ。このおかげで3000万人が新たに医療保険を受けられるようになった。保険会社が勝手に支給停止できないよう、患者の権利章典も作った。100%希望どおりではないが、90%は思っていた内容が盛り込めた。10%の部分で妥協したからといって、気弱と言われるのはおかしい」と。

○「要は経済なんだよ、馬鹿者」

確かに、今年3月に医療保険改革法が成立した時、オバマ政権は勢いづいていました(歴史的な立法だと、私も興奮しました)。あの時のオバマ政権は「timid」とは呼ばれていませんでした。

しかも当時は雇用が回復傾向にあった。去年の11月から今年5月までは失業率が下がっていた(政府が国勢調査の調査員を臨時採用した影響もあり、100万人分近く雇用が増えていた)。それもオバマ政権を勢いづかせていた一因だったと『ニューヨーク・タイムズ』紙は指摘します。

しかし今年5月以降は40万人近くが新たに職を失っている。「だからこそ、中間選挙で民主党は敗北を覚悟しているのだ」と記事は書きます。アメリカの失業率は現在、9.6%。およそ10人に1人です。日本の8月の完全失業率は5.1%。日本でも雇用情勢は厳しいのに、アメリカではその倍近く。厳しい状況にあるアメリカの有権者が、景気回復という成果を出さない政権を「気弱」と批判しているのだと記事は書きます。多くの有権者にとって大事なのは、大統領が保守かリベラルかではなく、成果を出すか出さないかなのだと。

要するにやはり、今回の選挙でもまたしても、「It's the economy, stupid(要は経済なんだよ、バカ)」ということに尽きるのでしょう。一部のティーパーティ(茶会運動)が言う「オバマは社会主義」とか「オバマはファシスト」とか「オバマはケニア人」「オバマはイスラム」だなどという扇情的なレトリックは、本当に、ほとんどのアメリカ人にとってどうでもいいことなのでしょう。