国際ニュースをご紹介するこのコラム、今回は間もなく投票開始の中間選挙を目前にアメリカは正気を回復したのだろうか、という話です。珍しく私が直接、現場に行って見て来ました。「ニセモノ」ニュース番組のコメディアン司会者が呼びかけた「ニセモノ」政治集会に何十万人ものアメリカ人が集まりました。そこで何よりも批判されたのは、民主党でも共和党でも茶会運動でもなく、24時間ニュースの埋め草として憎しみや対立を煽るメディアでした。「sanity (正気)」を取り戻そう、理性ある政治対話をしようと求めるコメディアンの訴えにニコニコと拍手する人たちに囲まれながら、これこそ私が好きなアメリカだと思いを新たにしました。(gooニュース 加藤祐子)

○素晴らしい秋の一日

ジョン・スチュワートの集会の開始を待つ人たち。舞台の後ろに連邦議会議事堂。この4時間後には、集まった人数はこの10倍近くに。10月30日早朝、ワシントンで加藤写す(ほかの写真も同様です)

「ジョン・スチュワート」(もしくはステュワート)の文字を日本の一般紙の記事にも見つけて、すごく感慨に浸っています。何かというと、ジョン・スチュワートの「正気を回復するための集会」についてです。ワシントン中心部の公園で、10月30日正午から3時間にわたって開かれました。晴天がどこまでも澄み渡る、素晴らしい秋の日でした。暑くもなく寒くもなく、屋外に長時間立っているには最適の日でした。

色づいた木々が取り囲む緑地に集まったのは、20万人以上とも30万人以上とも言われる大群衆(開始4時間前に会場に着いた私の位置から、人の頭と頭の間にちらちら見えるスチュワートは、身長5センチほど。いくら彼の身長が低いからといって、これは小さすぎ)。

連邦議会議事堂を背にした舞台から大観衆を前にしたスチュワートは「1000万人だ!」と冗談(これは超保守の論客グレン・ベックが8月にやはりワシントンで開いた集会について、どれぐらい参加者がいたのか論争になったことを意識してのジョーク)。もう1人の主役のスティーブン・コルベアは「60億人だ」とさらに冗談。正確に何人かはともかく、最前列から最後尾までウエーブをして時間を計ったら30秒ほどかかりました。

ジョン・スチュワートの集会に集まった人たち。この位置からたまに見える舞台上のスチュワートやコルベアは身長5センチでした。

このコラムで何度も書いているようにスチュワートのファンだし尊敬さえしている私は、「アメリカ国民でない自分が東京から、そのためだけにワシントンに行くなんて、まったく正気の沙汰じゃないなあ」と思いながらも、「行かない」という選択肢が耐えがたく、結局は行ってきました。特派員でも何でもなく、自費の一般参加者として。集会はケーブル局「コメディ・セントラル」が生中継したし、ネットでも中継していたので、はっきり言えば東京でも観られたのに……(集会の主な様子はこちらにアップされています)。

集会では何があって次に何があって……と自分のブログのようにダラダラ書き連ねていきたいのはヤマヤマですが、それは我慢します。ただし、日本語で手短に的確にまとめた記事は主要メディアが書いてくれているので、私がここで書くからにはあるていど詳しく書かないと意味がないはず(と、あらかじめ言い訳します。長いので)。

「fake news (ニセ物ニュース番組)」を自称する番組「The Daily Show (ザ・デイリー・ショウ)」と司会のジョン・スチュワートがアメリカの政治論議の中でどういう存在になりつつあるかは、先週少し書きました。オバマ大統領が選挙直前にその番組に出て、スチュワートのインタビューを受けても、さほど奇異な感じがしないというのが、アメリカにおけるスチュワートの今の立場です。

スチュワートは「リベラル」と呼ばれることが多いし、多様性をすごく尊重する人だという意味では確かにリベラルでしょうが、彼の番組はただ保守派を攻撃するためのものではありません。彼の論調の基本は「王様は裸だ」と権威を風刺すること。クリントン政権の時にはクリントン政権を笑い、ブッシュ政権の 8年間にはブッシュ政権を笑い飛ばし批判し続けました。オバマ政権もからかうし、今の民主党指導部のダメっぷりもからかうし、政治対話にひたすら憎しみと恐怖と偏見を流し込んで世論を分断し、対立を煽りたてるメディア(右ではフォックス・ニュースなど、左ではMSNBCなど)を徹底的に批判してきました。

その「The Daily Show」のレギュラーを務めた後、独自の番組「The Colbert Report」(ザ・コルベア・リポール、と発音します)を司会するようになったのが、今回の集会のもう一人の主役、スティーブン・コルベアです。彼の場合は「偏見まみれで了見の狭いバカな保守」というキャラクターを演じて時事の話題をおもしろおかしく語ることで、そういう保守層(今で言うなら茶会運動)を風刺するのが、「芸風」となっています。ブッシュ大統領(当時)の目の前でブッシュ政権をこてんぱんに皮肉るスピーチをしたり(大統領閣下、私もあなたと同じです。事実よりも腹の底の直感を信じてるんです——などと)、「保守派」のキャラのままで議会証言したりと、コルベアもまた世論形成に影響力をもつコメディアンとして確たる地位を築いています。