■本日の言葉「pile into」(ドッと押し寄せる、一斉に)■


英語メディアが日本をどう伝えているかご紹介するこの水曜コラム、今週は7月半ばから右肩上がりな日本の株価についてです。連日の「今年最高値更新」の背景には、政権交代という変化の物語を期待する外国人投資家の存在がいるようで。(gooニュース 加藤祐子)

○変化という物語を求めて

株価を追いかけている人には今更でしょうが、8月に入ってからと言うもの、東証が閉じるたびに「今年最高値更新」という見出しの記事を目にするようになりました。昨日11日も「4営業日連続で最高値更新」と。

株をやっている人には本当に今更でしょうが、この連日の動きを傾向として見てみると、日経平均株価は6月11日に一時的に1万円超え。7月13日に9050円まで下げたのを最後に反発し、株価はずっと右肩上がりです。

7月13日と言えば、麻生首相が衆院解散と総選挙の日程を発表した日です。それを市場が好感したのは知っていたのですが、その好感ぶりが1カ月も続くとは。しかもフィナンシャル・タイムズ紙(FT)のリンゼー・ホイップ記者によると、好感してるのは欧米の投資家なのだと。

「麻生太郎首相が7月初めに、総選挙の日程を発表してからというもの、海外の投資家は日本株に資金をどんどんつぎ込んでいる(piling into Japan)」のだそうです。

データを見ると、7月13日から7月31日の間に外国人投資家が東証につぎ込んだ資金は9000億円以上の買い越し。7月第5週(27〜31日)だけでも、外国人の買越額は4452億円で今年最大だったと。週ベースで言うと、外国人投資家がこれほど集中的に日本に資本を投下したのは、過去2年間で最高だったそうです。

なぜか。それは海外の投資家が民主党政権を期待しているから。あるいはもっと正確に言うと、「変化」を期待しているから。

ベルギー系外資系証券のKBC証券のストラテジストはFTにこう語っています。「海外の投資家が日本に投資するからには、物語性が欲しい。物語性というのは常に、『変化』の物語だ。自民党でない政権が誕生するだろうと我々はほぼ確信している。それはまさに変化の物語だ。その変化が良いか悪いかは、それぞれの見方によるだろうし、それで本当に変化が起きるのかは議論すべきだが、いずれにしても変化の方向に一歩踏み出すことにほかならない」 だから、海外投資家は日本株に資本をドカンドカンと投下しているのだそうで。

このFT記事によると、日本の内需拡大や、中小企業の業績改善に期待する投資家は多い一方で、国債先物はリスクが高いからと敬遠されていると。

けれども別に投資家たちが民主党をことさらに信じているかというとそうでもなく、とりあえず今は未知数だからこそもしいざ政権をとっても約束を守れず権力を維持できないようだったら、外国人投資家はさっさと出口に向かってい行く(head for the exit)でしょうと。

○株価のリアリティーとは

「株価が1万5000円を割ったら、俺はこの窓から飛び降りる」

こういう台詞がリアリティーをもっていた時代が、かつてありました。台詞は高村薫作「レディ・ジョーカー」上巻(1997年刊)の357ページ。1995年春を舞台に、主要人物の事件記者に対して、「証券業界紙の男」が毒づく言葉です。

1997年の時点では確かに、日経平均が1万5000円を割り込むなどあってはならないことでした。なので当時は気にもしなかったこの台詞、2001年9月の米同時多発テロを受けて株価が9000円台とか8000円台で連日推移するようになったころ、たまたま読み返して、「うわああ」と。それからと言うもの、株価が大きく下がるたびにこの台詞の皮肉を思い返します。昨年9月のリーマン・ショックを機に再び株価が8000円台をつけるようになった時も、再び。

それだけに7月半ばからこちらの株価右肩上がりも、どうしてもシニカルな見方をしてしまうのですが、私みたいなそんな人間ばかりが投資家だったら、世界経済はいまだに19世紀規模の(今と比べれば)こじんまりとしたものだったでしょう。

変化という物語に期待や希望を抱く思い。人によってはそれを曲にしたり、映画や小説にしたり。そして人によってはそこにどかんどかんと資金を「pile in」する。日本としてはその期待や希望が続いている間に、日本経済のパフォーマンスを改善していかなくてはということなのでしょう。政権交代があろうとなかろうと、次の政権がどうであろうと。

 


◇本日の言葉いろいろ

pile in=一斉にドッと
head for the exit=出口に向かう、離脱する

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◇筆者について…加藤祐子 東京生まれ。シブがき隊と同い年。8歳からニューヨーク英語を話すも、「ビートルズ」と「モンティ・パイソン」の洗礼を受け、イギリス英語も体得。怪しい関西弁も少しできる。オックスフォード大学、全国紙社会部と経済部、国際機関本部を経て、CNN日本語版サイトで米大統領選の日本語報道を担当。2006年2月よりgooニュース編集者。米大統領選コラム、「オバマのアメリカ」コラムフィナンシャル・タイムズ翻訳も担当。英語屋のニュース屋。