■本日の言葉「write off」(帳簿から消し去る、見限る)■

英語ニュースが伝える「JAPAN」をご紹介する水曜コラム、今週は当代一の知日派と言われる英国ジャーナリストが、「日本を見限るな」と書いた記事についてです。中国が日本を追い越すのは確かに時間の問題だが、だからといって日本を軽視していいことにはならないはずだと。「日本はもうダメだ」と言われ慣れしてしまっている日本人としては、なんとも面映いこそばゆい思いがしました。(gooニュース 加藤祐子)

○世界3位はそんなに悲惨か

日本が「世界第2位の経済大国」の座を中国に譲り渡すのは時間の問題という報道が引きも切らない今日この頃、いかがお過ごしでいらっしゃいますか……ではなく。2009年中に追い越すと確実視されていましたが、今年こそ日本は世界第3位に大転落してしまう模様です。わあ、大変だ……?

(いきなり余談なのですが、米民主党の牙城マサチューセッツ州の上院補選で共和党候補がまさかの番狂わせで勝ってしまい、上院100議席中の民主党議席が60議席の安定多数から59議席に減りました(内2議席は民主党寄り無所属)。何かと反応の大げさなアメリカのリベラル系テレビが「もうおしまいだー!」とばかりに悲憤慷慨する有様に、私の大好きなコメディニュース司会者ジョン・スチュワートが「まだ18議席も共和党より多いんだぞ! やりたい放題してたブッシュ時代の共和党より、今の民主党の方が多数党なんだぞ!」と叱っていたのが見事でした。それと同じで、世界中に約190カ国以上ある中、2位から3位に落ちてしまうからとあまり騒ぐのはいかがなものかと思います。これは私の念頭に比較対象として、幕末や明治の日本があるからでしょうか。それに、「日本はいつまでも停滞している」と例えばイギリスの経済紙に指摘されたとしても、そのイギリスよりは経済規模が大きかったりするのですから)

いずれにしても、日本経済が長く停滞しているのは言うまでもない。そのため、こちらのコラムでも、海外メディアが経済危機からこちら「日本みたいになるな」「日本みたいになるぞ」と警告するのをたびたびご紹介してきました。つい先日は、くだんのイギリスの経済紙フィナンシャル・タイムズで、マーティン・ウルフという高名な経済コラムニストが書いた「長年苦しんだ日本から世界は何を学べるか」というコラムを翻訳したばかりです。

ウルフ氏は、日本企業の内部留保の多さや投資機会の減少、「日本の寝ぼけた経営陣」などの問題を指摘。デフレを止め、円高進行を止め、内需主導の成長を目標とするべきだと書いています。しかも、その前段として「英国から日本を訪れると、鉄道システムや食事の質があまりに高いので、つくづくイギリスは遅れた国だと思わされる。これが衰退の形なのだというなら、ほとんどの人は衰退を歓迎するだろう」と。これを読んで、イギリスの鉄道と食事を思い出してしまった私はつい、「そうだそうだ」と一気にウルフさんが好きになりました。

日本は生活レベルがとても高い部分とそうでもない部分が混在している国。それはある意味、先進国として普通の姿です。それだけに、「鉄道やご飯は優れているが、でもね」という程度の褒められ具合が、私にはしっくりきます。これ以上ほめられてしまうと、「いやあ……」と居心地悪い思いでつい、頭をかいてしまうというか。

なので、前置きが長過ぎますが、英タイムズ紙のサイトで「日本を見限るな、巨人は目覚めようとしている(Don’t write Japan off. The giant is stirring)」というビル・エモット氏の寄稿を読んで、「いやあ……」と頭をかいてしまいました。

(英語うんちくをすると、「write off」は「帳簿から消す=見限る」。「stirring」はこの場合「stir」の進行形で、動いていなかったものが動き始めること、眠っていたものが目覚めはじめること、胎児が胎動することなどの意味です)

○中国の成長は日本にとって好機だと

ビル・エモットと言えば、著書『日はまた沈む』で日本のバブル経済崩壊を予測し、『日はまた昇る』で日本の復活について書くなど、知日派として有名な『エコノミスト』元編集長です。

そのエモット氏の記事いわく「日本経済は世界第2位の地位を中国に失うだろうが、長年の停滞を経て、日本はついに自らを揺り動かそうとしている」と。自分が『エコノミスト』誌の東京支局長だった頃、世界中に衝撃を与えていた好景気の国は日本だったので、当時を懐かしむ気持ちが自分には確かにあるだろうが、だからといって、今や誰もが中国にばかり注目し、日本については「バブル崩壊後にしてはならないことのお手本」という反面教師扱いしかしないのは、おかしいのではないかと。

「今こそ、日本を新鮮な目で見直すべきだ(It is time to look at Japan with fresh eyes)」とエモット氏。なぜなら——、

(1) 実際に中国がいつ日本を追い越すのかというタイミングはたいして重要ではない。日本がドイツを追い越した時のことなど、学者以外誰も覚えていない。人口の多い国の経済規模が大きくなるのは当然のこと 

(2) 中国の経済発展はすなわち、日本製品・サービスの巨大市場が日本の近場に形成されることを意味する。つまり、日本にとって非常にいいことだ 

(3) 日本の製造業は今でも世界一流だ。ただし製造業にこだわり過ぎて、サービス業を軽視してきたのが日本の最たる弱点だ。サービス部門を軽視してきたから安定した雇用を創出できず、ワーキングプアを作り出してしまった 

(4) ノロノロぎくしゃくとした革命ではあるが、日本では政治革命が始まったばかり。政治が変われば経済も復活するかもしれない

——と言うのです。

(再び余談ですが、エモット氏のいう3つ目の点について。親の介護問題に直面している者として言うと、介護・育児・医療現場での激しい人手不足と、「派遣村」に象徴される失業問題とが、一つの国の中で併存してしまっているこの矛盾こそ、「製造業にばかり力をいれてサービス部門を軽視してきた」失政のツケなのだろうと思います。日本のモノヅクリは決して絶やしてはならないものですが、労働力の偏りがあまりに極端すぎる)

エモット氏は特に4つ目の「日本の政治革命」について、鳩山首相は「福祉国家の再建、官僚機構の圧倒的権力の終焉、そして米中と今までよりもバランスのとれた関係」という大変化を約束して政権を獲得したと書き、「彼にできるだろうか?(Can he do it?)」と。

エモット氏は昨年11月に鳩山首相を取材し、その結果、「感心した(came away impressed)」のだと書いています。「指導力を批判されているが、そしてしばし、ヘッドライトに捉えられた兎のようなビックリ顔をしているが、彼は驚くほど真面目にして誠実、単刀直入にはっきり語り、そして言う内容に一貫性さえある」からだと。ビル・エモットを感心させたというこの鳩山首相の姿に、私も感心してしまいました。一流のジャーナリストをこうやって感心させる一国の総理大臣というのは、そうはなかなかいないな、と。そしてまた、一国の総理大臣について「ヘッドライトに捉えられた兎のようなビックリ顔」と書けるジャーナリストというのも、なかなかのものだな、と。

エモット氏は最後「一寸先は闇」という日本のことわざを使いながら、「それでもあえて、闇の中を覗き込んでみるだけの価値はある。日本で何かが変わり始めているのだから」と結んでいます。本当でしょうか。

この褒め言葉に頭をかきつつ、その慧眼を信じたい気持ちにもなるのですが、そうは問屋が卸しません。記事についた読者コメント欄には、「エモットは自分が楽しい日々を過ごした日本に点が甘くなっているだけ」「日本の巨大な財政赤字を忘れたか」「高齢化の進む日本はひたすら衰退していく」「日本に投資などできない」という厳しいコメントが続々。そう言われると、「ちがわい!」と掌で鼻をこすり上げたくなるのも人情なので、「日本は任天堂Wiiを作った国だよ、忘れるな」というコメントに、ついクスッとしました。


◇本日の言葉いろいろ
・write off=帳簿から消す、見限る
・stirring=動き始める、目覚め始める
・fresh eye=新鮮な目で
・come away impressed = 感心して相手の元を去る

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◇筆者について…
加藤祐子 東京生まれ。シブがき隊と同い年。8歳からニューヨーク英語を話すも、「ビートルズ」と「モンティ・パイソン」の洗礼を受け、イギリス英語も体得。怪しい関西弁も少しできる。オックスフォード大学、全国紙社会部と経済部、国際機関本部を経て、CNN日本語版サイトで米大統領選の日本語報道を担当。2006年2月よりgooニュース編集者。フィナンシャル・タイムズ翻訳も担当。英語屋のニュース屋。