○心をむきだしに

ちなみに上記したハーラン特派員は、「多くの日本人は数日前まで女子サッカーW杯のことをよく知らず、自分たちの女子サッカーチームがいかに優れているか、よく知らなかったのだが」とチクリと指摘。まったくごもっともです。「宝の持ち腐れ」とか「猫に小判」とかの言葉が浮かびました。日本でも直前までなでしこジャパンへの関心は薄かったわけですが(私も偉そうなことは言えません)、コラムニストのジェンキンスさんによるとアメリカでも同様。アメリカで女子サッカーはまだしも人気があると思っていたのですが、「男子サッカーに比べてどれほど薄給で、無視されてきたか」と。日本と一緒です。それでも彼女たちは「ふてくされず」「報道が薄いと文句を言うのではなく、自分たちのハートとプレーでそれまで無関心だった国民の注意をひき、つなぎとめた」とジェンキンスさんは書きます。それで取材記者の数は急増したし、芸能人やスポーツ選手やオバマ氏やクリントン氏たちからツイッターで応援してもらえるようになったと。

コラムによるとFWアビー・ワンバック選手は以前、「私たちはプロ選手です。女性アスリートの中では恵まれた」と発言していたと。言われてみれば確かに、テニスやゴルフといった個人の賞金競技は別として、女子のチームスポーツでプロというのは、競技生活だけで選手が生活できるレベルで成立しているのは、男子に比べればさほど多くない。自分が好きで好きでたまらないことを生業として十分な収入を得られるのは、少数の幸運な人々なのだということを改めて思いました。

コラムはこうも書きます。「戦い終わって泥にまみれ、足を引きずり、疲れ切って息を切らせていた日本もアメリカも、汚れまみれのその下で、両チームの選手たちはもっと違うも のに覆われていた。たとえばそれは、栄誉(honor)と呼ぶもの」と。「honor」は「名誉、栄誉」という意味が一般的ですが、周りから称えられて得る名誉という意味のほかに、その当人がそもそも備えている崇高さ・高潔さという意味もあります。戦い終わった選手たちを覆っていたのは、世間からの賞賛より 先に何よりも、本人たちの志の高さだったと私は思います。

選手の報酬については、英紙『インディペンデント』が決勝戦前に「なでしこは知っている 巨人を倒して時計をもらおう」という記事で、アメリカが勝てば「総額300万ドル相当のスポンサー契約を手にするだろうが、日本が勝てば選手たちは新しい時計をもらうだけだ」と痛烈に書いていました。「女子サッカーの歴史で最高峰の決勝戦で対決する両チームの金銭的なギャップは、実に驚くべきだ」とも。

なでしこ優勝の後、ツイッター上では選手たちへの報酬がいかに残念なものかを憂える書き込みが相次ぎました。そして記事は、ドイツ戦後の現地記者会見で佐々木監督が「なでしこはお金より、こういう大会でピッチに立てる名誉を大事にします。ただ、決勝へ進出したので、たぶん腕時計とかはいただけるのではないか」と答えたことを紹介。これは「ドイツは優勝した場合、ひとり6万ユーロ(約690万円)をもらえることになっていたが、日本は?」という質問に答えたもので、ドイツ代表がもらうことになっていたほどの額は「もらえないだろう」と答えたことも。

典型的なにわかファンとして偉そうに言えた義理ではないですが、サッカーへの愛情と誇りがなければやっていけないという厳しい状況を私も憂えていたところ、オフィシャルスポンサーを務めるキリンビールがなでしこジャパンのメンバー21人に、1人当たり100万円の臨時ボーナスを支給するというニュースが。企業はどんどん彼女たちのスポンサーになって、オリンピックに向けて盛り上げていってほしいとつくづく思います。

「なでしこ」というチームのニックネームについても、英語メディアは色々と言及していました。たとえば上述した『ニューヨーク・タイムズ』記事は、過去5回もW杯に出場しながら欧州チームにもアメリカにも勝ったことのない日本チームは、今大会で一試合勝つごとに「チームのあだ名でもある、理想の日本美を象徴するピンク色の花のように、自信を花開かせていった」と。

『シカゴ・トリビューン』は「なでしこ」について、「女性の精神的なたくましさを象徴する」ピンクのカーネーションのことだと。「なでしこと呼ばれるチームは、世界に応援を感謝する横断幕を取り出した。そして」……。

ああ、この先の表現が訳しにくい。「And then they played their hearts out」と記事は結びます。単純に訳せば、「必死になってプレーした」という意味ですが、「played their hearts out」というこの表現はもっと生々しい。心臓をむき出しにしてとか、心をむき出しにしてとか、心臓が、心が燃え尽きるまでとことんとか。そういうギリギリで必死で、でも悲壮というよりは喜びに溢れた、心がはちきれんばかりの歓喜に満ちた、そういうニュアンスの表現です。まさに、ナウシカのような「なでしこ」たちに、ぴったりな表現です。見事でした。本当に見事でした。


追記。米Yahoo!のこちらの記事もツイッターで教わったのですが、澤選手はYahoo! Sportsに「サッカーの大会というより、もう少し大きなことができるかもしれないと思っていた」と語ったそうです。以下、英語を日本語に抄訳しています。ぎこちないですが、ご参考までに。

「私たちが勝つことで(大震災で)何かを失った人や傷ついた人、被害に遭った人が、たった一人でも、ほんの一瞬でも気持ちが楽になるなら、私たちは特別なことを達成したといえます」

「大変な目に遭った皆さんが喜んでくれて、明るい気持ちになるなら、私たちにとって成功です」

「日本は傷つき、あまりにたくさんの人が影響を受けました。私たちはそれを変えられないけれども、日本は復活しつつあります。今回は、日本は決してがんばるのを止めないと、国の代表として示すチャンスでした。まるで夢のようで、この経験を日本が一緒に分かち合ってくれればといいと思います」


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cause = 原因、理由、大義、信念、理念

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◇筆者について…
加藤祐子 東京生まれ。シブがき隊や爆笑問題と同い年。8歳からニューヨーク英語を話すも、「ビートルズ」と「モンティ・パイソン」の洗礼でイギリス英語も体得。オックスフォード大学修士課程(国際関係論)修了。全国紙社会部と経済部、国際機関本部を経て、CNN日本語版サイトで米大統領選の日本語報道を担当。2006年2月よりgooニュース編集者。フィナンシャル・タイムズ翻訳も担当。英語屋のニュース屋。最新の訳書に「策謀家チェイニー 副大統領が創った『ブッシュのアメリカ』」(朝日新聞出版)。