■本日の言葉「merit serious discussion」(真面目な議論に値する)■

英語メディアが伝える「JAPAN」をご紹介する水曜コラム、今週は民主党の要職にある議員の9/11陰謀論を米ワシントン・ポスト紙が厳しく批判したことについてです。なぜ今なのかとか、そういう発言をする議員を党要職に抱えておく外交感覚とか。(gooニュース 加藤祐子)

○意図は何なのだろう

ここ数日のアメリカ発の「JAPAN」報道のみを観て、日本についてそれ以外は何も知らないとしたら、日本というのは、いきなり加速する危険な車を造り、イルカを残酷に殺し、そして2001年9月11日の同時多発テロは「陰謀だ」と公言する与党議員のいる国――ということになります。月曜のコラムでも書きましたが、アカデミー賞授賞式ではトヨタ車が「危険なもの」の代名詞として挙げられていました(司会者のジョークではありましたが)。

民主党の国際局長を務める藤田幸久議員が実際に、9/11の同時多発テロについてどう発言しているかは、ご本人のサイトなどを参照してください。これまた月曜コラムと同じような物言いになりますが、自分で見て自分で判断するしかない話題です。これも。

「9/11の同時多発テロは、オサマ・ビンラディン率いるアルカイダによるもの」という定説・通説に、藤田議員が疑念を公言するのは今に始まったことではないので、なぜワシントン・ポスト紙がこのタイミングでわざわざ取り上げたのか、その狙いに興味があります。ワシントン・ポスト紙は昨年夏の衆院選前から民主党と民主党による政権獲得に批判的な論調だったので、そこらへんに何か含みはあるのだろうかと、むしろ勘ぐりたくなります。たとえば普天間移設問題が大詰めの今。そして民主党政府によって過去の日米密約が明らかにされた今。なにせ話題が「陰謀論」なので、こちらもそういう目になるというか。

何にせよ、日米間で重要案件が積み上がっているこの時に、こういうある意味で些末なことで日本の立場が悪くなるのだとしたら、実に情けないことです。外交駆け引きというのは「兵器を使わない戦争」でもあるのですから、本論を真正面から攻めていくだけでなく、脇の思わぬところから相手の足下をすくい立場を悪くしていくのも、重要な戦術の内です。もしかして民主党は、その搦め手に絡まってしまったのでしょうか?

あるいは、取材したワシントン・ポストの記者が議員本人の口から聞いて改めて心底立腹したから、記事にしたのかもしれませんが。

○奇怪でインチキで狂った意見と

何はともあれ、ワシントン・ポスト紙は何を書いているのか。「日本の大物政治家、9/11についてファンタジーを主張(A leading Japanese politician espouses a 9/11 fantasy)」という見出しの8日付記事です。

いわく、藤田議員は「与党民主党で影響力をもつ議員」であり、かつ「民主党の国際局長および参議院外交調査委員会の委員長(原文ママ)」だと(藤田議員がこの記事について「肩書きも間違っている」とコメントしているのは、この「原文ママ」の部分かもしれません)。

おまけに、藤田議員は「米政府にとって東アジアで最重要なパートナーにおいて、外交族の重鎮(Brahmin in the foreign policy establishment)」なのだと(「Brahmin」とはインド・カースト制度の「バラモン」から来ていて、賢者とか重鎮とか何かについて詳しい人などを意味します)。

そういう日本外交政策の中心的人物が「2001年9月11日の出来事に関するアメリカの解説は、巨大なでまかせ(gigantic hoax)だと考えているようだ」と、記事はバッサリ。

「最近のインタビューで藤田氏が我々に語った」9/11に関する考えは、「too bizarre(奇怪すぎ)で、half-baked and intellectually bogus(出来損ないで、理屈からしてインチキ)なので、真面目に議論するには値しない」と。

9/11が本当にテロリストの仕業だったか疑わしいと言い、9/11を起こして株式市場で儲けようとした影の勢力の存在をほのめかし、ハイジャック犯たちはまだ生きているのではないかなどと藤田氏は言うのだ――と記事は呆れた調子で列挙。

さらに記事は、歴史的で巨大な大惨事というのは9/11でなくても陰謀論が飛び交うものだが、「これほど狂った極端な妄想に騙されて取り込まれてしまうような人物が、世界第二位の経済大国であることを誇る国の政権機構において、要職にあること」が実に珍しいと本当に酷評しています。

「狂った極端な」と訳したのは「lunatic fringe」。「fringe」というのは何かの端っこにある些末でどうでもいいもの、それほどに極端な少数意見というほどの意味です。

記事は、藤田氏の考えが日本で広く共通認識になっているとも思わないし、多くの日本人は藤田氏の主張を恥ずかしく思うだろうと書いて、言外に私たち日本人を気の毒がっている風でもあります。そして最後に、鳩山氏は「成熟」した日米関係の必要性を呼びかけているのだが、もし藤田氏のような「reckless(無謀)」で「fact-averse(事実を受け入れない、事実を見ようとしない)」人物を党内で容認するなら、日米関係は今後厳しい試練を経験するだろうと結んでいます。

○外交駆け引きにとんだスキが

――大きなお世話だ……と感情的に反発するのは簡単なのですが、無益です。そして9/11陰謀論にここで反論するつもりも、反証を試みるつもりもありません。そういうサイトがたくさんあるので、その議論はそちらに譲ります。さらに、国会議員が何を考え何を発言するのかは、民主国家なのですから自由です。ただし「9/11はアルカイダによるものではないのではないか」という現時点で通説とはとうてい言い難い内容のことを参議院外交防衛委員会などで発言する議員を、自党の外交関係の要職に置き、国際局長とすることはどうなのだろうか。与党としての外交感覚はいかがなものだろうと。上述したように、外交駆け引きの真っ最中にこんなことで足をすくわれている場合か、そんなスキがあっていいのだろうか。そんなことは強く思います。

一方で、ワシントン・ポスト記事に対する藤田議員のコメントはこちらです。

ちなみに複数報道によると、ワシントン・ポストのこの記事を受けて鳩山由紀夫首相は記者団に対し「藤田議員の個人的な見解であって、党の見解でもないし、ましてや政府の見解でもない」と答えたとか。

こういうのを英語で「splitting hairs」と言います。この場合は、髪の毛を割くように細かい違いを強調して、「いやいや、そうじゃないんだ」と弁明することです。議員の個人的な見解だと言っても、その人が党の国際局長を務めている限り、アメリカ人からすれば苦しい言い逃れにしか聞こえないのではないかと思います。

こういう場合、相手の立場に立って考えると分かりやすいかと思います。たとえば、地下鉄サリン事件はオウム真理教による犯行じゃないんじゃないかと、米与党要職にある議員が日本の主要紙に大まじめに語ったら、日本のマスコミはその人とその党を、どう扱うでしょうか?


◇本日の言葉いろいろ
・merit serious discussion=真剣な議論に値する
Brahmin = 重鎮、長老、何かに詳しい人
hoax = でまかせ、嘘っぱち
・too bizarre = 奇怪すぎ、キテレツすぎる
・half-baked = まだ半分しか焼けていない⇒出来損ない、中途半端
・intellectually bogus = 理屈からしていんちき
lunatic fringe = 狂った些末な意見の持ち主、狂った極端な一派
reckless = 無謀、向こう見ず
fact-averse = 事実を嫌う、事実を受け入れない
・splitting hairs = 毛を割く⇒細かいことにこだわる、細かく条件付けして言い訳する

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◇筆者について…
加藤祐子 東京生まれ。シブがき隊と同い年。8歳からニューヨーク英語を話すも、「ビートルズ」と「モンティ・パイソン」の洗礼を受け、イギリス英語も体得。怪しい関西弁も少しできる。オックスフォード大学、全国紙社会部と経済部、国際機関本部を経て、CNN日本語版サイトで米大統領選の日本語報道を担当。2006年2月よりgooニュース編集者。フィナンシャル・タイムズ翻訳も担当。英語屋のニュース屋。