■本日の言葉「catty」(陰険、意地悪)■

英語メディアが伝える「JAPAN」をご紹介するこのコラム、今週は実は「こんなのいまさらニュース?」と思ったネタについてです。鳩山首相のファッションセンスのことなのですが。首相の私服センスはなかなか独特だという今更ニュースでもない話題はともかくとして、それを大きく伝える記事に「ニュースじゃないだろ」と突っ込む読者コメント欄が面白かったので。(gooニュース 加藤祐子)

○猫のせいにしないで

鳩山由紀夫首相がときおり見せてくれる、(色々な意味で)目を見張るファッションは(しつこいですが)いまさらニュースでもありますまい。日本人にとっては。そしておそらく世界中のほとんどの人にとって。まして普天間問題と支持率急落と小沢氏再聴取などなどで政府がボディブローを受けまくっているこの時期に、支持率低下に苦しむ首相がファッションセンスでも「under fire(非難されている)」などと便乗報道する必要もありますまい……というのが、12日のCNN報道に対する私の正直な感想でした。

CNN記事は、ファッション評論家ドン小西さんのコメントを根拠に、「首相の服の趣味が批判されている」と。そしてこんなことで首相を批判するのは「catty(陰険)」かもしれないが、「支持率低下の首相にとって、ファッションを批判されるのはよくないことだ」という「識者コメント」を紹介。

私が思うに、首相のファッションセンスを批判するのは別に陰険なことではないですが、ドン小西さんの意見のみを根拠にそれが支持率と関係あるかのようにほのめかすのは、「catty」というよりは強引、あるいは「petty(つまらない)」ではないかと。一国の首相たるもの、みだしなみやイメージが大事なのは言うまでもありませんが、鳩山首相が支持率を落としているのはファッションセンスのせいではないでしょう(あの私服が許せないから世論調査に「不支持」と答える人も一部にはいるかもしれませんが、大部分ではないでしょう)。私としては、首相が国家運営をきちんとしてくれるなら、支援者との集まりにアニメキャラTシャツを着てこようが、スタートレックの宇宙人トレーナーを着てこようが、そんなことはどうでもいいです。しかも、あの5色シャツが登場した「リアル鳩カフェ」は1カ月以上も前、4月4日の行事ですよ。

(ちなみに「catty」という言葉はもともと「猫のように陰険で意地悪に」という意味なので、猫飼いにとってはあまり愉快でない言葉だったりもします。猫、関係ないでしょう、と)

CNNに限らず、外国メディアで日本について書く記者やライターというのは、本質や本筋とは関係のない「weird Japan(奇妙なジャパン)」を取り上げがちです。目立つから。もちろん、絶対にそれはやらない優れた記者もいますが。反対に、日本メディアの外国特派員にも現地の奇妙な話を書いてくる人はたくさんいるので、お互い様です。

英語メディアの日本報道をこうしてコラムにしている私が言うのもなんですが、私は極力、ただ珍奇なだけの話を1つのメディアが面白おかしくとりあげたからといって、コラムのネタに選ばないようにしています。「これが英語メディアの日本報道だ」と言えるのでなければ。以前、東京特派員だった英国人記者が「外国特派員をやっていると、珍しい奇妙な話、いわゆる『funny dog story(おかしな犬の話)』をつい安直に書きたくなる誘惑はある。そうすれば載るから。でもそれをやっちゃいけないと自戒してる」と話していました。 印象深い話だったので、こういう「weird Japan」記事を見るたびに、私はまた「ああ、安直なfunny dog storyだ」と呆れることにしています。

では、鳩山首相の5色シャツはどうでしょう? 鳩山首相ファッションを「酷評」した「米欧メディア」は、CNNとAFP通信。どちらもネタ元はドン小西さんただ一人。小西さんが「どん引きです」と週刊朝日で書いたりしたのを、CNNの東京特派員とAFP通信が取り上げ、そしてそれを朝日新聞が取り上げたわけです。「funny dog story」のバケツリレーです。重ねて、英語メディアの記事を引用してコラムを書いている私がこんなことを書くのもあれですが。

○「酷評」のその先には

とは言いつつ、「鳩山首相の私服センスをCNNが伝えたよ」と伝えるそのバケツリレーについ参入してしまうのは、「米欧メディアも首相の服装酷評」というそこで話は終わっていないからです。ネット社会のなせる技で(この程度の話でも)話はバイラルに広がっています。

たとえばCNNの記事を引用して、アメリカのゴシップサイト「Gawker」では「このシャツで(首相の)政治キャリアは台なしに」と。いや、それはどうでしょう? 仮に台なしになったとしても、原因はシャツじゃないと私は思います。

そして、(コメディニュース番組『The Daily Show』のジョン・スチュワートに、君の言説はいい加減すぎるとバカにされまくった挙げ句、CNNやMSNBCの番組を降板することになり、今は超保守のフォックス・ニュースにいる)タッカー・カールソンという人が主宰するニュース・ブログサイト『The Daily Caller』では、S.E.カップという人が、このシャツのせいで日本は「national uproar(国をあげての大騒ぎ)」になっていると。「テキサス・レンジャー」という90年代警察ドラマの主人公がゲイ・バーに潜入捜査する変装用に着たかもしれないと評した上で、「私たちが医療改革とか失業率とか不法移民とか石油流出を心配しているというのに、日本人は総理大臣の服でゴチャゴチャ言ってるの? 自分たちは本物の国で、テーマパークの日本館じゃないって分かってるの?」と。

いや、ですから…。別に日本人はこのシャツのことでそんなに大騒ぎしてませんから。CNN報道だけを見て面白おかしく大げさな文章を書くとこういう見当違いなことになるという典型です。

こういう記事の発端となったCNN記事のコメント欄を見てみたところ、首相の服が好きか嫌いかというコメントもあるものの、次のようなコメントも並んでいました。

「実に一面にふさわしいニュース記事でしたね。CNN、ありがとう」
「総理大臣の服の趣味は確かに悪いかもしれない。しかしCNNはニュース選びの趣味が悪い」
「CNNはどうしちゃったんだ? まったくニュースに値しないゴミ記事だ。ただし、あのシャツは確かにぞっとする」
「リビアでまた飛行機が墜落した。中国では子供たちが殺された。なのにCNNのトップページで一番大きい扱いなのは、この記事?」