英語メディアが伝える「JAPAN」のニュースをご紹介するこのコラム、今週は菅直人新首相の所信表明演説についてです。英語メディアが何より注目したのは、菅氏が日本の財政再建について触れたくだりでした。日本は巨額赤字をなんとかしろなんとかしろなんとかしろとマントラのように繰り返してきた英米マスコミは、新首相が日本もギリシャのようになりかねないと発言したことに「そうだそうだ」「大事なのは経済なんだよ」と言わんばかりに反応。「でも解決は難しい」という明るい意見や、「インフレにすればいいんだよ」という提言もいただいています。(gooニュース 加藤祐子)

○経済優先内閣への期待

所信表明演説に先立ち、民主党代表選に出馬した時点ですでに菅氏は、「財政健全化も大変な課題だが、少なくとも無限に借金が増えるような方向性をただしていくことができると思う」と明言。米ブルームバーグ社の『Business Week』誌は10日付記事でこの発言を取り上げ、「日本では新しい合い言葉が繰り返されている」という記事を掲載。その合い言葉とは「It’s the Economy, Stupid」だと。

少し解説しますと、「It’s the Economy, Stupid」というのはアメリカ政治の決まり文句で、訳せば「要は経済なんだよ、馬鹿者」、「大事なのは経済なんだよ、バカ」というような意味です。1992年米大統領選で挑戦者だったクリントン陣営が、再選を目指すブッシュ政権の経済失策をあげつらうために繰り返し唱えた合い言葉で、クリントン初当選の原動力になりました。以来アメリカでは選挙というとこのフレーズが繰り返され、2008年大統領選でもしかりでした。オバマ対マケインの拮抗を最終的にオバマ有利に傾けたのはリーマン・ショックへの対応の差だったとされていることから、あの時も「It’s the economy, stupid」と言われたのです。大事なのは、経済だと。

菅新首相の就任によって、この合い言葉が日本でも言われるようになったというのが、『Business Week』誌記事の主旨です。「It’s the economy, stupid」などと実際に口にしている日本人は(ほとんど)いないでしょうが、記事のいわんとすることは分かります。鳩山政権は普天間問題で破綻したが、世界における日本にとって何より大事なのは、経済だろうと。とりわけ大事なのは、国内総生産(GDP)比200%に近い巨額の公的債務をどうするかだろうと。

同記事では、日本通で知られるエコノミストのジェスパー・コール氏が、鳩山政権の「最優先事項は社会政策だった」が、菅政権では「経済政策が最優先になる」と発言。おそらくこれは、各国の経済・金融関係者の共通の願いではないかと思います。そしてインフレ目標導入の積極論者として知られ、経済財政担当相の頃から「物価のプラス1〜2%を目標に、それを達成するまでは日銀にも努力してもらう」と発言してきた菅氏の首相就任に、期待を寄せているのです。

○今すぐはギリシャにならないが……

なぜかというと、菅首相が所信表明演説でいみじくも語ったように、日本がギリシャの二の舞になったら世界経済は大変なことになると、欧米各国(特に欧州各国)は心配しているからです。アメリカのサブプライム破綻、アイスランドやドバイでの債務不履行、そしてギリシャ危機と、近年繰り返し見てきたように、世界のどこかの市場が何かの要因で暴落したりすれば、その影響はあっという間に世界中をかけめぐり、一般市民の年金や貯蓄、ひいては仕事や生活そのものに影響するからです。

首相は演説で、「強い財政」の実現について語る際、日本の「財政は先進国で最悪という厳しい状況に陥っています。もはや、国債発行に過度に依存する財政は持続困難です。ギリシャに端を発したユーロ圏の混乱に見られるように、公的債務の増加を放置し、国債市場における信認が失われれば、財政破たんに陥るおそれがあります」と発言。

演説のこの部分を、様々な英語メディアが伝えました。英BBCは「日本の菅直人首相、巨額債務による『破綻』を警告」という記事で、「菅直人新首相は就任後初の演説で、ギリシャ式の危機を避けるには日本は金融刷新が必要だと述べた」と書き、上述した演説の箇所を紹介しています。

ただしその上で記事は「首相のぞっとするような言葉とは裏腹に、市場はまばたきすらしなかった」として、「日本政府は欧州の一部の国とは異なり、金融危機を目前にしているわけではないし、財政赤字に取り組み始めるにはあと1〜2年はかかるだろう」というロンドンにいる大和証券キャピタル・マーケッツのエコノミスト談話を紹介。ギリシャやスペインと違って日本はGDP比2.5%を外国に貸し出している対外債権超過国なのだし、日本は今日明日でどうこうなるというわけではないと、(日本情勢に詳しくないかも知れない)英語読者に念を押しています。確かに、日本が明日にもギリシャと同じような財政危機に陥ると言ったりしたら、下手をするとパニックの引き金になりかねませんから。