英語メディアが伝える「JAPAN」をご紹介するこのコラム、今週は日中関係です。尖閣諸島をめぐる対立と外交駆け引きは進行中ですが、現時点では誰が勝って誰が負けたのでしょうか。日本でも中国でも「国辱」とか「民族のなんとか」的な感情論がとかく騒がしく、そういう盛り上がりは日中どちらでも(どの国でも)似ているなあと思うわけですが、そういう感情論を抜きにして眺めると、勝ち負けで言えば勝ったのは中国でもなければ、もちろん日本でもない、そんな風景が見えてきます。(gooニュース 加藤祐子)

○世論にばかり注目すると

昨今の日中関係については、それはもう膨大な量の記事が英語で書かれているので、とても全体を網羅することはできません。なので話を、大局的な勝ち負けについてのみに絞ってみます。当事者は日中でも、話の主題はどうしても「JAPAN」ではなく「CHINA」になってしまいますが、それ自体が話の本質を象徴しているとも言えます。

その前に、中国でネットやデモで激高する人たちについては、英『フィナンシャル・タイムズ(FT)』紙のジェフ・ダイヤー北京支局長が23日付のこちらの記事で、「中国で世論が外交政策に与える本当の影響力は、過大評価されがちだ。ネットの騒ぎがどれほど沸騰しようと、中国政府は国内議論の方向性を自在に操ることにかけて実に長けている」と釘を刺しています。

「中国世論にばかり注目すると、中国の外交政策を今後左右しようとする別の国内勢力を見逃してしまう。中国が世界で影響力を発揮するにあたって、政府にかかる圧力はネット世論だけでない。多くの既得権益を抱えるエリートたちが、外交を動かそうとしているのだ」と。つまり、当局にとって都合がいい間は感情的なナショナリズムの文脈で話を続けるけれども、本当に大事なのは資源権益や外交力・覇権力の問題なのだと。

同じFTは24日付のこちらの記事で、「中国の戦術は裏目に出る危険性も(China’s tactics risk backfiring)」と見出しにとり、「今回の強硬姿勢は中国政府にとって裏目に出る恐れもある。世界第2位の経済大国として日本を追い抜いたばかりの中国は、アジアで影響力を増している。その中国に対してアジア各国の懸念はただでさえ高まりつつあるのだ」と指摘。東南アジア各国は日本と同じように中国と領有権をめぐり争い、韓国は北朝鮮による哨戒艦撃沈をめぐり中国に怒り、インドは(国境紛争から経済上の利害対立まで)様々な対中案件を抱えている。そういう状況で、経済力を背景に強硬姿勢外交に出てくる中国に対してアジア諸国が不満を募らせる現状は、「アジアの外交と安全保障でアメリカが存在感を取り戻す、恰好の機会となった」と書いています。

ロイター通信のクリス・バクリー記者は27日付の「地域紛争は中国の地域的野心を試す」という記事で、「アメリカの存在感が以前ほどではなくなる中、中国がますます大きく大胆で、おそらく威張った国に変わっていこうとしている。その変化を前に、アジアが調整を始めた」と書いています。増大する国内総生産(GDP)を背景に中国が軍備を増強し、資源や、国際的な尊敬をますます要求してくるだろうと。「その驚異的な台頭をリングサイドで眺めながら、アジア各国は中国の力に対してどこで境界線を引くか(時には実際の境界線をどう引くか)」慌てて検討しているが、「自分たちがどこまで力を発揮したいのか、中国政府そのものがまだ決断しかねているようで、それがさらに地域の不安感を煽っているのだ」と。

○近隣の不安を高めるだけ

米『ニューヨーク・タイムズ』紙は25日付の社説で、船長釈放を受けて「中国と日本は、東シナ海における対決からお互いに一歩引き下がった。賢明なことだ。今回のこの件を通じて、領土紛争があっという間にエスカレートしうる危険性があらわになったし、なぜ当事者同士が紛争解決に向けてもっと努力すべきなのかも浮き彫りにした」と論評。「どちらに非があったのかは分からない」と中立を保ちつつも、「水産資源、石油、天然ガスの豊富な水域にある」尖閣諸島について、領有権を主張する中国の声はここ数カ月「けたたましさを増している(increasingly shrill)」と書いています。「中国政府は、ベトナムや南北朝鮮も領有権を主張する南シナ海を『核心的国益』だとまで言い始めている。外交の世界では、これは戦闘的な言葉(fighting words)だ」とも。

さらに同紙は、「中国は日本に無理矢理撤退させたが、それは自分たちのためにはならなかった。強引で高圧的なふるまいは、中国政府はどういうつもりなのかと近隣諸国の不安を高めるだけだ」とも書きます。「強引で高圧的なふるまい」と訳したのは「bullying behavior」で、これは普通に訳すなら「いじめ行為」です。

日本に対しても、普段は領海侵犯の中国漁船は警告して追い返すだけなのに、なぜ今回は逮捕したのかが不透明だと指摘。その上で同紙は、日本と強い同盟関係にあるアメリカは、中国にもっと責任ある地域のプレイヤー(当事国)になるよう促すべきで、直接衝突を防ぐようアメリカが仲介するべきだと主張しています。

米『ワシントン・ポスト』紙は「ますます威圧的になる中国に直面するアジア」と題した27日付社説で、約40年前のニクソン訪中からこちら、共産主義国家・中国に対するアメリカ外交はひとつの前提をもとに展開してきたのだという、そもそも論から始めます。そもそも、アメリカが中国と正常にやりとりすればするほど、中国の繁栄を促進し、国際機関にも参加するよう促せば促すほど、「中国は平和と安定の勢力になるだろう」という目算が、アメリカの対中外交の大前提だったと。

確かにこれまでの中国の「驚くべき台頭は相対的に平和なものだった」ので、日韓を含む多くのアジア諸国が、地域安定を保障する存在として、アメリカより中国の方が頼りになるのではないかと思い始めていたと。あるいは今後は米中が「G2」のパートナーとなり世界を動かすのではないかと期待されていたと。

しかし、と『ワシントン・ポスト』は書きます。「ここ数週間のふるまいから中国が依然、全体主義国家なのだと世界は思い出した」、「自分たちの経済力をどうやって政治や軍事に使うかについて、中国は独自の考え方を持っていることも、改めて世界は知った」と。