英語メディアが伝える「JAPAN」をご紹介するこのコラム、今週は尖閣諸島に続いて「別の島の問題が日本の頭痛の種に」なった、ロシア大統領の北方領土・国後島訪問についてです。ロシア・メディアの英語記事はもっぱら「これはロシアの国内問題」であって「ロシアと日本の関係に影響はない」という論調ですが、英米の新聞は、これは要するにロシア国内の大統領選を意識した動きなのだと解説しています。尖閣諸島問題もそうですが、領土紛争でどこかの国が派手な動きをとる時、そこには国内の政治事情や権力闘争がかなりの確率でからんでいるというのは、歴史の定説のようです。(gooニュース 加藤祐子)

○赤いキャビアと日産車

日刊の英語紙『モスクワ・タイムズ』は「メドベージェフの一里塚的な千島列島訪問、日本を苛立たせる(Medvedev’s Milestone Kuril Islands Trip Irks Japan)」という見出しで、大統領が「現代ロシアの指導者として初めて、領有権の争われる千島列島を訪問した」と伝えています。

大統領はサハリン州のホロシャビン知事と共に現地の地熱発電所や水産加工場地元の施設を訪れ、「赤いキャビアをのせたパター付きパンをカメラの前で食べて見せた」と記事は書いています(「red caviar」はイクラでしょうが、わざと直訳気味にしてます)。「黒いジーンズに黒いボタンダウン・シャツ、黒いコート」姿の大統領は新設されたアパートに住む家族を訪れてお茶を共にし、「人々がここに留まり、生活し続けて欲しいと私たちは思っている。そのことを隠すつもりはない」と発言。新設された幼稚園では「ここの生活は改善される。ロシアの中心で住むのと同じように」とメディアに語ったとのこと。

日本政府がこの訪問に抗議し、菅直人首相が遺憾の意を表明し、前原誠司外相が駐日ロシア大使を呼びつけたことも書いています。ラブロフ外相が、大統領はロシア領内を訪れたのだから政治的な問題はないとして、日本側の措置を「受け入れがたい」とコメント発表したことなども。

記事は国後(Kunashir Island)を含む四島について、「ロシアでは南千島(South Kurils)、日本では北方領土(Northern Territories)と呼ばれ、両国の間で長年、争われている」と説明。「列島は豊かな漁場に囲まれ、沖合には石油や天然ガス、金銀の埋蔵があると言われる。第二次世界大戦中にソ連が制圧し、列島をめぐる領土紛争のため、戦争を正式に終わらせる平和条約が日本を調印できずにいる。ロシア政府高官が千島列島を訪れて外交問題になったのは、これが初めてではない。2007年にはラブロフ訪問が同じような反応を引き起こした」と解説しています。

その上で、ロシア外務省外交アカデミーのエフゲニー・バザノフ副学長は、今回の揉め事でロシアと日本の関係が傷つくことはないだろうと同紙にコメント。経済協力関係が「活発」なのと、国際情勢に対して似たような立場をとっているため、両国関係は「かつてないほど良い」という見方です。メドベージェフ氏の国後訪問は日本の外交官を意識して行ったものではなく、地元住民を意識したもので、「メドベージェフは遠隔のこの土地のことも政府は忘れていない、開発するつもりだと、地元住民に伝えたかった」のだとのこと。島内の移動に日本製の「日産パトロール(サファリ)」を使ったことが、日本を刺激するつもりはないことの表れだったそうです。

大統領の国後訪問はあくまでもロシア人住民のためだという主張は、リア・ノボスチ通信の英語版も取り上げていて、「メドベージェフ、国後島の生活環境を改善すると約束」という見出しの記事で、「国後島の生活環境はいつか、ロシア中心部での生活レベルと同じようになる」という大統領の約束を強調。大統領が「私たちはここに投資するつもりだ」と発言したことも伝えています。

リア・ノボスチは別の記事でも、ベールイ駐日ロシア大使が前原外相に対して「大統領の訪問はロシア国内の話であって、国際政治の問題ではないと伝えた」と報じています。またラブロフ外相がマスコミに、「ロシアと日本の関係に何の影響もない」と語ったことも書いています。

国営イタルタス通信も、大統領の国後訪問を伝える記事で、大統領が「この地に人々が留まってほしいと思っている。この地の開発は重要で、確実に資金を投資するつもりだ」と発言したことを報道。日本政府が強く反発したことも伝えた上で、「ロシア、日本にかみつき返す 国後めぐり(Russia snaps back at Japan over the Kuril islands)」という見出しの記事で事態のヒートアップを伝えています。

ロシア・メディアの英語記事なので、「snap back」というかなり語調の強い英語慣用句を使ったことが、もとのニュアンスを正しく伝えているのかは分かりませんが、少なくともこの「snap back」という表現で世界に打電したことは確かです。「snap」は「パチン」という擬音から派生して、「指を鳴らす」などの意味。「snap at 誰それ」は「誰それに噛みつく」。動物がパッとかみつくという意味のほかに、人が口げんかで相手に「かみつく」という意味になります。日本語の慣用句とまったく同じ用法です。それをお返しするのが「snap back at 誰それ」。きつい言葉をピシャッと浴びせ合う様子を描写しています。「snap back」にはこのほか、「パッと立ち直る」とか「パッと跳ね返る」の意味もあります。

同じようにリア・ノボスチ通信が「ロシアと日本、また国後でケンカ(Russia, Japan spat over Kurils again)」という見出しで、語感の強い言葉を使っています。「spat」という名詞は「小さないさかい」というような意味ですが、「spit(ツバを吐く)」という動詞の過去形でもあり、いかにも「ツバを吐く!」的な「sp」の破裂音が強い言葉なので、「いさかい」と訳したのでは伝わりきらない「ペッペッ」的な強い語感を伴う言葉です。