もう少し記事を紹介すると(もう「neighborliness」の表現はありませんが)、WSJのこの記事は「China, Japan Say Relations Thawing」という見出しでした。「関係改善しつつある」と訳した「thawing」は、カチンコチンに凍り付いてしまったものがゆるゆると解け始める状態を意味する動詞「thaw」の進行形。冷凍食品の解凍のほか、外交関係や人間関係の改善によく使います。なので、記事は両国首脳が両国の「icy(氷のような)」関係が徐々に解けつつあるとシグナルを発したと評しています。「慌てて設定されたかに見える」首脳会談で、領土紛争について双方一歩も譲らず、態度は硬く、日米首脳会談の友好的な空気に比べると対照的だったが、ここ2カ月の非難合戦に比べれば大きな変化だったと。

米『ニューヨーク・タイムズ』紙の東京特派員、マーティン・ファクラー記者も、「中国と日本の首脳、サミットの舞台袖で会う(Leaders of China and Japan Meet on Summit’s Sidelines)」という記事で、日中首脳会談したことを紹介。尖閣諸島をめぐり両国関係が紛糾してからというもの初めてとなる首脳同士の会談は、「直前に発表され」、「アジアの二大国同士の行き違いを修正しようと急きょ設定されたかのように見える」と書いています。さらに「具体的な成果はほとんどないようにも見えたが、両首脳が会談したこと自体が重要だと日本当局者たちは指摘する」と。

記事は「中国政府の対日強硬姿勢は国内世論をなだめるためのもののようだ」という「外交専門家たち」の意見に触れ、対して「ヒラリー・ロダム・クリントン国務長官が、日本が攻撃された場合はアメリカが日本を守るという同盟上の義務の適用範囲だと発言した」ことは中国を怒らせたが日本では歓迎されたとも説明しています。

○町内会長、そろそろ交代?

では中国の側はどう思っているのか。国営・新華社通信(英語版)は「APECのビジョン、現実的な青写真か理想的な目標か」という長い総評記事を掲載。「APECがこれまでやってきたことも、APECが掲げる目標も、どれも有意義なもの」で、「世界の景気回復が停滞する中で、アジア・太平洋地域が回復の触媒となる責務は負わなくてはならないと専門家たちは言う」と認めつつも、「参加国によっては経済的・政治的立場や目標がまったく対極にあるのに、開かれて透明な貿易ルールを確立しようというのは、現時点ではどう大目に見ても、夢物語に過ぎないのではないか」と書いています。「たとえば国々に『保護主義と戦え』と促すのも、お腹を空かせたヨチヨチ歩きの子供に食べ物をみんなで分けなさいと言うに等しい」と。

かなり本音ベースで書いているように思えるこれは、子供の側からすれば確かにそうかもしれませんが、「お腹を空かせたヨチヨチ歩きの子供」が巨大な軍隊や巨大な経済力をもっていたら、誰か大人が「ちょっと待って」と言うしかありません。誰かが持っている菓子パンがおいしそうだからと目に付くままにムンズとつかみたい放題する幼児が町内にいたら、「良いご近所さん」関係など無理です。そんな幼児が新しい町内会長になるのも、まして町長になるのも無理です(新華社のこの記事が「中国=幼児」を意味しているのか、アジアの途上国のことを指しているのか、はっきりしませんが)。

本当ならば町長さん「アメリカ屋」の力を借りずとも町内会長の「日本屋」さんが、老舗の割には幼児のようなところもある「中国屋」さんとの色々な揉め事を収められればいいのだが……という論調の記事が、APEC前にBBCに載っていました。もちろん、町内会長だの幼児だのの比喩は使っていませんが。

「日本は中国に覆い隠されなくてはならないのか」という直訳はいかにもぎこちないですが、BBC記事の見出しは「Must Japan be eclipsed by China?」です。「be eclipsed by」は「何々が何々に覆い隠される」という意味。「eclipse=蝕」です。

BBCのベテラン特派員だったウィリアム・ホースリー氏は、日本が今のるかそるかの分岐点にさしかかっていると書きます。「アジアで最も成功した国としての半世紀がここでいきなり打ち切られ、中国の影の下で長い衰退に入る」か、さもなくばアジア諸国が協力し合う、国際ルールにもとづいた安定した地域秩序を確保するかどうかだと。

アジアでは今や経済と安全保障の問題は見分けがつかないほど混然としており、「アジアで平和的な新秩序が構築されなければ日本は多大な損失を被る」とホースリー氏は書き、「日本人は未来についてもっぱら悲観しているように見える」し、日本の政治指導者たちは戦略上の厳しい選択を迫られても身動きがとれずにいるようだという意見を紹介しています。

そして最後に、日本は世界的な力関係の変化という挑戦に直面しているのだが、それにも増して日本にとって大きな挑戦となるのは、「繁栄の時代に進化した指導者たちの内向き志向をどう脱ぎ捨てて、経済力に見合った政治指導力を示し始めるかだ」と結んでいます。

これを読んで私は「そんな……そもそも身の丈に合わないことを言われても……」と空しい気持ちになりました。日本が「経済は一流、政治は三流」でも良いと言われたのは高度経済成長時代のことなのに、政治力については高度成長がいまだ実現されていないのですから。成長していないまま停滞基調にとどまっている。政権交代を実現して、やっと成人式に出られるかどうかの状態です。日本の政治は。しかもそもそも日本の「国家指導者たちの内向き志向」は遠い江戸時代に作られて以来、しぶとく日本に定着してしまったものではないかと思うからです。

普天間基地をめぐる政府のおたおたぶり、尖閣諸島沖の漁船衝突をめぐる政府のおたおたぶり、ビデオ流出で犯人捜しにばかり汲々とした政府や一部マスコミのプリンシプルのなさ、そして(朝日新聞が伝えた)中国の人権活動家に対するノーベル平和賞授賞式に日本政府として出席するかどうかさえなかなか決められないおたおたぶりを見るに、(何度でも引き合いに出しますが)漫画「風雲児たち」がこれでもかと描く江戸末期の幕府のおたおたぶりと、何も変わっていないじゃないかと思うからです。

日本はいっそのこと、経済力に見合った政治力など目指すことなく、町内会長から町長選挙に出馬しようなどとも思わず、町内でしっかり工場と農地と商店を経営し続けて、「商品の質の良さとお店の人の誠実な接客はやっぱり日本屋さんが一番だね。いつも店の周りはキレイに掃除してくれるし。お祭りには大口寄付してくれるし。いいご近所さんじゃないか」と言われる勤勉な一般市民に徹した方が「らしい」のではないかと、そこまで思うほどです。


◇本日の言葉いろいろ

neighbor (米)、neighbour (英) = ご近所、隣人
neighborliness(米)、neighbourliness(英)=隣人らしさ、ご近所ぶり
thaw = (氷が)解ける
icy = 氷のような、凍った、氷に覆われた、冷淡な
eclipse = 覆い隠す、蝕

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◇筆者について…
加藤祐子 東京生まれ。シブがき隊や爆笑問題と同い年。8歳からニューヨーク英語を話すも、「ビートルズ」と「モンティ・パイソン」の洗礼でイギリス英語も体得。オックスフォード大学修士課程修了。全国紙社会部と経済部、国際機関本部を経て、CNN日本語版サイトで米大統領選の日本語報道を担当。2006年2月よりgooニュース編集者。フィナンシャル・タイムズ翻訳も担当。英語屋のニュース屋。最新の訳書に「策謀家チェイニー 副大統領が創った『ブッシュのアメリカ』」(朝日新聞出版)。