英語メディアが伝える「JAPAN」なニュースをご紹介するこのコラム、今週も話題はアジア情勢です。マーケット担当やスポーツ担当は別にして、主要紙の東京特派員たちは相変わらず朝鮮半島情勢を注視。特にアメリカ2主要紙は日本の防衛大綱が中国シフトで改定されるというニュースに飛びついていました。冷戦戦略からの転換だと。それは新しい冷戦に備えるためなのかもしれないのですが。(gooニュース 加藤祐子)

○冷戦時代の戦略転換

日本政府が6年ぶりに改定する「防衛計画の大綱」(防衛大綱)の原案概要を、日本の主要紙は10日付朝刊で揃って報道しました。中国の活動活発化や軍拡を「地域や国際社会の懸念事項」だとはっきり位置づけること。そうした認識をもとに、自衛隊の配置を南西地域へシフトする方針を明記すること。この報道を受けて、『ニューヨーク・タイムズ』『ワシントン・ポスト』の米2大主要紙が「冷戦時代の防衛体制の転換」と伝えています。

『ニューヨーク・タイムズ』紙記事は、「日本、軍の焦点を中国に再設定(Japan to Refocus Military on China)」という見出しです。ここでまずおことわりですが、英語圏の記事で日本の自衛隊を「military(軍)」を呼ぶのは、別に特別なことではありません。「自衛隊(Self-Defense Forces)」と正しく表記しつつ、同じ文章内で「Japanese military(日本の軍隊)」と書くのは、まったく普通のことです。「日本には平和憲法があって、武力行動は自衛に限られている」という注釈がどこかにあったとしても「自衛隊は軍隊ではない」という認識はありません。

そういうおことわりをした上で、以下ご紹介します。『ニューヨーク・タイムズ』は、日本の防衛力の南西シフトは「冷戦時代の防衛戦略の大転換となる(would be a sweeping overhaul of its cold war-era defense strategy)」と説明。しかも、これは北朝鮮や中国の最近の動きに対して日本がもっと東アジアで軍事的な役割を拡大するようアメリカが日本に求め始めているのと、時期を同じくするものだと。

そして記事は、日本の民主党政府が発足当初は沖縄の米軍基地を巡ってオバマ政権と衝突したものの、尖閣諸島をめぐり中国相手に「bruising diplomatic clash(外交上の衝突で痛手を被った)」のを機に、米政府との距離を埋めてきたのだと説明。対するアメリカも、中国や北朝鮮への日本の警戒心を利用して日本との関係を強化し、地域における日本の役割拡大を促してきたのだと。たとえば、統合参謀本部のマイク・マレン議長が、米韓合同軍事演習に日本も参加したらどうかと促したのもその一例だと。

記事はこう書きます。3カ国演習の提案には日韓双方が抵抗を示しているが、それでも「自衛隊(Self-Defense Forces)と呼ばれる日本の軍隊は、アジア地域で最大かつ最先端技術を有する軍隊の一つだ。この自衛隊がアジアで大きな役割を演じることについて、日本は戦後ずっと嫌悪感を抱いてきたが、このところその嫌悪感を徐々に脱ぎ捨てつつある」と解説。菅直人首相が朝鮮半島有事に際しては邦人保護や拉致被害者の救出のため自衛隊を派遣できるように「法改正検討の可能性を示唆した」のを、その裏付けとして例示しています(もっとも首相のこの発言については韓国が反発し、韓国メディアも(英語版でも)反発しているわけですが)。

『ワシントン・ポスト』の記事は「日本の新防衛計画、中国の脅威を強調」という見出しです。こちらもやはり「冷戦によって形作られた防衛戦略を修正し」という書き出しで、北方からのロシア侵略の脅威よりも、北朝鮮による攻撃や南西諸島周辺海域における中国との衝突に備えた機動力のある防衛力配備を求めることになると説明しています。「日本の新戦略は米政府の最近の考え方と同じノリだ(jibes with)」とのこと。

○新しい冷戦の気配

北方の備えを強くした日本の防衛戦略はロシアというよりソ連の侵略脅威に対抗してのもので、まさに米ソ冷戦時代にその基礎を作ったものです。それを南西にシフトして築く備えは、アジアの新しい勢力地図に対抗するためのもの。アジアの新しい勢力地図を、先週のコラムでも言及したように一部の英語メディアは「北東アジアにおける新たな冷戦の構図」と位置づけています。その後も、「Cold War(冷戦)」という言葉をこのところニュース記事で本当によく見ます。話は少し飛びますが、アジア安全保障とは直接関係しない、今年のノーベル平和賞に関する英『フィナンシャル・タイムズ』のこちらの記事でも、中国に対する「冷戦」という表現が使われていました。

ノルウェーでの授賞式に中国の民主活動家、劉暁波氏が出席できず、壇上には「空席」が置かれていたこと。ノーベル賞に対抗して中国がいきなり創設した「孔子平和賞」でも、受賞者に選ばれた台湾の連戦氏が欠席したため、代わりになぜか小学生の女の子が複雑な表情でトロフィーを受け取ったこと。この顛末を『フィナンシャル・タイムズ』は、「コミカル」であり、かつ「新しい冷戦の気配をかすかに感じさせた」と評しています。思想的に対立する陣営同士がシンボリックな賞やオリンピックのメダル争いなど、実際の戦争ではないところで国威を競い合うのがまさに伝統的な冷戦の手法だからです。冷戦世代にとって、今回の「ノーベル平和賞vs孔子平和賞」対決はそういう意味で、本当に既視感がありまくりでした。中国が軍事に限らず経済に限らず政治に限らず、多種多面にわたって国威を強調すればするほど、「新しい冷戦の気配がかすかにする(faint air of a new cold war)」と。