○ 経済成長率より大切なことが

そして『ワシントン・ポスト』系のオピニオンサイト『Slate』では政治経済ライターのマシュー・イグレシアス氏も、日米の人口構成の違いを勘案すれば日本経済の状態は言われているほどひどくないし、経済成長率以外にも大切なことは人生にたくさんあると指摘。「日本は暮らすのにいいところだし、日本の人たちはとても健康で、顧客サービスのレベルは高いし、凶悪犯罪は比較的少ないし、激しい社会不安も比較的少ない」と。それでも就業率や若者の失業率の推移など統計を見れば日本経済の状態が1990年以降悪化を続けたのは一目瞭然で、「円高が続くから日本経済は堅調だ」「失われた10年など作り事だ」というフィングルトン氏の主張は、それは違うのではないかとイグレシアス氏は反論しています。

個人的には、このイグレシアス氏の意見が妥当な気がします。日本は確かに停滞したが、社会の状況は外国と比べてどうだろうと。「比較的 (relatively)」というのがキーワードで、上で書いたように私が「そんなに日本はひどいか?」と考えていたのも、日本以外と比較してのことです。

それでも、いやいや、日本は本当にひどいことになっているのだ、フィングルトン氏は全く間違っているという反論もありました。『ニューヨーク・タイムズ』には、かつて『ナイト・リダー』系列各紙の東京特派員だったマイケル・ジーレンジガー氏が投書し、「日本は縮小しつつあり、ますます内向きになっている。(世界における)重要性を失いつつある国だ」とフィングルトン氏に反論。企業への忠誠に縛られて夫たちは家庭にいる暇がない。そんな社会で女性たちは子供を産もうとしないし、政治は信用を失い、公的債務はGDPの2倍以上。オリンパス問題は日本企業がいかに身内意識に汚染されているかの証拠だったし、日本がいかに危機に対応できないかは原発事故で改めてあらわになったと、これぞ通説とも言える日本衰退論をたたみかけています。「アメリカが力を失っているからといって、日本が力を増したわけではない」「日本社会は個人を応援しない。そんな日本を脱出して個人を支えてくれる社会を求めて、(アメリカの)ブルックリンやサンフランシスコに移住してきた何千人もの日本の若者に聞いてみるといい」とも。

日本を生きづらく感じて海外に脱出したいという思い、それは私にもありましたから、よく分かります。一方で欧米を生きづらく感じて日本にやってくる人もいるわけで(比較すれば少数でしょうが)、必ずしも「日本を脱出する若者がいる=日本はダメ」にはならないのでは? 私はついついこういう話になると、「それは個人個人の感じ方の違いではないですか?」と思ってしまい、十把一絡げな総論を嫌うクセがあるので、「その個人の感じ方の違いが日本では尊重されないんだ、だからダメなんだ」と思う人とは、話がぐるぐるしそうな気もします。

さて、日本は本当に衰退しているのか。日本は本当に生きづらい国なのか。どう思いますか?



◇本日の言葉

myth = 神話、お話、作り話
social cohesion = 社会の一体性、団結力
conform = 従う、順応する、同調する

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◇筆者について…
加藤祐子 東京生まれ。シブがき隊や爆笑問題と同い年。8歳からニューヨーク英語を話すも、「ビートルズ」と「モンティ・パイソン」の洗礼でイギリス英語も体得。オックスフォード大学修士課程(国際関係論)修了。全国紙記者、国際機関本部勤務を経て、CNN日本語版サイトで米大統領選の日本語報道を担当。2006年2月よりgooニュース編集者。フィナンシャル・タイムズ翻訳も担当。訳書に「策謀家チェイニー 副大統領が創った『ブッシュのアメリカ』」(朝日新聞出版)など。