○せっかくの内容が

さて。ここから先は私個人の感想です。私自身は「事故原因は日本文化もしくは国民性」というこの結論に大きく首をかしげると同時に、日本語版と英語版の内容を違えたことがとても気になっています。東電、保安院、政府への厳しい批判は的確だと思えるだけに、とても残念なのです。

歴史的文書という自覚はあったのか。ただでさえ陰謀論にまみれている原発事故の原因調査報告で、陰謀論に餌を投げ与えるような真似をなぜするのかと。大惨事の調査委員会報告というと9/11最終報告書を連想しますが、ありとあらゆる陰謀論が飛び交う9/11について、調査委の報告書がもし英語とその公式翻訳版で内容が違っていたりしたら、いったいどれほどの大騒ぎになっていたか、想像するだけでげんなりします。

国会が設定した委員会による歴史に残るだろう報告書なのですから、世界に向けても国内に向けても、同じことを堂々と言えばいいのに。でないと今回の報告書の内容について、私たち日本人は世界の人たちと同じ土俵で話ができません。読んでいるものが違うのですから。しかも英語版と日本語版は内容が違うと、委員会はあらかじめ説明もしていない。

黒川氏自身の説明を聞く以前の段階でもこれだけのことを思っていたのですが、会見内容を知って、さらにげんなりしました。私より外国生活経験が長く、経歴は比べものにならないほどの年長者に対して、実に僭越で口幅ったいことですが、なんていかにもなメンタリティーだろうと思ったのです。

日本人向けの説明と「グローバル」な説明は変えた方がいいだろう、その方が伝わり易いだろうと考えるその発想そのものが、委員会の「insularity」(島国根性、閉鎖性)だし、この手のメンタリティーにありがちな、卑屈であると同時に傲慢な「日本特殊論」の一端ではないだろうかと思います。

「日本人は理解するだろうか?」と黒川氏は記者会見で発言していますが、「メイド・イン・ジャパンな事故が、潜在的な国民性によるものだった」という解釈をなぜ日本人が理解できないと思うのか、そこが私には分かりません。

日本語版をそのまま英語にしただけでは世界に対してインパクトが弱すぎると、調査委員会は思ったのでしょうか? あるいは英語版が本音で、けれどもそれを日本語にしたら日本国内に向けてインパクトが強すぎると、調査委員会は懸念したのでしょうか? まさか日本国民は、国会が設置した事故調に、て、手加減されたとか?

繰り返しますが、国会が設置した委員会がまとめた歴史に残るだろう報告書なのですから、世界に向けても国内に向けても、同じことを堂々と言えばいいのです。それとも日本はグローバルな世界の一部ではないと? もし万が一、調査委員会の方々がそんなことを思ったのだとしたら、それこそが実に困った「insularity」です。







最後に蛇足です。前回のコラムで掲載は「ますます不定期になります」と書いたとはいえ、それにしてもかなりのお久しぶりになってしまいました。でもこれからも不定期に続きます。すみません。よろしくお願いします。

 


◇本日の言葉

insularity = 島国根性、閉鎖性

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◇筆者について…
加藤祐子 東京生まれ。シブがき隊や爆笑問題と同い年。8歳からニューヨーク英語を話すも、「ビートルズ」と「モンティ・パイソン」の洗礼でイギリス英語も体得。オックスフォード大学修士課程(国際関係論)修了。全国紙記者、国際機関本部勤務を経て、CNN日本語版サイトで米大統領選の日本語報道を担当。2006年2月よりgooニュース編集者。フィナンシャル・タイムズ翻訳も担当。訳書に「策謀家チェイニー 副大統領が創った『ブッシュのアメリカ』」(朝日新聞出版)など。