<事故を受けて映画『バトルシップ』のテレビ放送が中止になったが、米海軍のイージス艦がエイリアンと戦うという内容を考えると、この時期の放送自粛には理解できるところも>

静岡県の石廊崎沖でフィリピン船籍(運航は日本の企業)のコンテナ船と、米海軍のイージス駆逐艦USSフィッツジェラルドが衝突した事件ですが、意外なリアクションを招いています。日本テレビが今月23日(金)の夜の洋画枠に予定していた米映画『バトルシップ』(ピーター・バーク監督、2012年)の放送を取りやめると発表したのです。

一部には、米海軍から抗議が来るはずもなく過剰反応だという声もあるようですが、この作品の性格を考えると、実はあまり笑えない部分があるのです。この映画は、ハワイ周辺がエイリアンの攻撃を受け、これに対して海自と米海軍が「集団的自衛権」を発揮するという話です。

その中で、まず3隻のイージスのうち米海軍籍のイージス駆逐艦が最初にやられてしまいます。次に海自のイージスがやられるのですが、自衛官に扮した浅野忠信さんは生き残って奮戦するというかなりカッコいい役になっています。その辺のストーリーをふまえると、時節柄ちょっと「遠慮」したのは何となく理解できます。

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問題は映画の後半です。モダンなイージスだけでは対抗できないので、最後にはUSSミズーリの亡霊を復活させて、日米が共同でエイリアンと戦うというストーリーになっていきます。言うまでもなくUSSミズーリは、1945年9月に重光外相が降伏文書に調印した軍艦ですから、アメリカにとっては対日戦勝利の象徴であるわけです。その船体を使って日米が頑張るというのは、日米同盟の現在を象徴しているようでなかなか興味深い作品です。

ですが、現時点での問題は、ミズーリの背負った歴史問題ではありません。古式ゆかしい、つまり堅固な装甲を施したミズーリが最後にはエイリアンに対抗し、最新鋭のイージスはやられるというストーリーが、今回の事故で大破した「アーレイ・バーク級」の無残な姿に重なるように見えるからです。

今回の事故に関しては、通常の海難事故として航路を検討し、回避義務がどちらにあるかを決めて責任を明確にする、それでいいと思います。また、亡くなった7人の水兵に関しては、アメリカのテレビニュースでは厳粛な哀悼を示しています。それも、自然だと思います。

ですが、海の安全保障という意味では、色々と考えさせられたのも事実です。



1つは、「チープ・キル」という脅威の問題です。「チープ・キル」というのは、例えば、2000年にイエメンで小型艦艇のテロ襲撃でUSSコールというイージス艦(今回の事故艦と同型)が大破した事件がありました。つまり、一隻8億ドル(約880億円)と言われる高価な軍艦を、廉価な民間偽装船で無力化できてしまうという脅威です。

今回の事件の場合は、悪意のある犯罪でもないし、衝突したのは大型船でしたが、少なくとも夜間に大型の民間偽装船が体当りすることで、この種のハイテク艦が無力化することを証明したのは事実です。海上自衛隊も同種の軍艦を運用している中で、戦略的な見直しが必要ないか、真剣なチェックが求められると思います。

2点目は、ステルス性という問題です。仮に事故艦が、何らかの任務を遂行中で、ステルス性能をある程度オンにしていた、例えば夜間なのに灯火を消灯していたという場合は、この種のステルス性を持った軍艦は、民間船舶から見て著しく視認性が悪くなるわけです。そうなると、作戦上はメリットとなるステルス性が、かえって自艦を危険に晒すことになります。

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仮にそうした危険性があるのであれば、平時には消灯を禁止するなどして、ステルス性をオフにさせること、仮にどうしても視認性を低めて航行する場合には、イージスの側に厳格な安全確認、衝突回避などの義務を課す必要があるように思います。

そんなことを考えれば考えるほど、映画『バトルシップ』で、高価なイージスがエイリアンにやられてしまい、最後は年代物の「ミズーリ艦」で戦うというストーリーは笑えなくなるのです。

<訂正とお詫び>
20日掲載時に、映画『バトルシップ』の内容について一部誤った記載がありました。訂正してお詫びいたします。(21日12:00)