次期国務院総理候補だった重慶市の書記・孫政才が罷免された。薄熙来事件の時の王立軍・公安局長と同じように、今般も重慶市公安局長が直前に拘束されている。孫政才夫人も腐敗疑惑で取り調べ中。党大会に激震が?

重慶市の毒は消えない――孫政才失脚の陰に公安局長拘束

2012年1月に重慶市の公安局長だった王立軍が成都にあるアメリカ領事館に逃げ込んだ事件は、まだ記憶に新しい。それを皮切りに当時の重慶市書記だった薄熙来夫人の谷開来の殺人事件が浮かび上がり、そして2012年3月、遂に薄熙来は失脚し、のちに終身刑を受けている。

薄熙来に代わって重慶市書記に任命されたのが孫政才で、重慶市公安局長に任命されたのが何挺(かてい)だった。王立軍がアメリカ領事館に逃げ込んだ2カ月後の2012年3月のことである。このとき政法系列の全てを握っていたのは、チャイナ・ナイン(胡錦濤時代の中共中央政治局常務委員会委員9名)の中の一人、周永康だった。第18回党大会は2012年11月に開催されているので、2012年3月の時点では、まだ胡錦濤政権が続いており、政法公安に関しては周永康が最大の権力を握っていた。

何挺は周永康の秘蔵っ子の一人。

何挺の任務は薄熙来が権力を乱用して大量に投獄された人たちの冤罪を晴らすことであり、薄熙来と王立軍に牛耳られた公安や暴力団などの「重慶の余毒」を一掃することにあった。しかし何挺はその任に忠実ではなかった。つまり汚職に染まり、何挺は今年3月31日に中央紀律検査委員会に連行されたのである。

何挺と孫政才は山東省の同郷。それを良いことに、何挺は常々「俺は孫政才とは一心同体だ!」と吹聴して回っていた。

妻の胡穎も汚職で取り調べ

孫政才の妻である胡穎(こ・えい)も、今年5月に腐敗問題で取り調べを受ける身となっている。

中国の大手銀行の一つである民生銀行には幹部のための「夫人倶楽部」というのがあり、通称「太太団」と呼ばれている。「太太(タイタイ)」というのは中国語で「奥さん」という意味だ。

すでに終身刑を受けているかつての中共中央政治局委員で中共中央弁公庁主任だった令計画の夫人・谷麗萍(こく・れいへい)もまた、この「夫人倶楽部」のメンバーの一人だった。ここは腐敗の巣窟だ。何か職位の高いポストに就いていることにして、高額の給料を支払いキックバックすることを基本としている。それも動くのは国費なので、関った者は皆、おいしい思いをする。

孫政才が失脚するのは時間の問題だったと言っていいだろう。

党大会に激震か?

7月15日、中国政府は重慶市中国共産党委員会の書記(トップ)だった孫政才が罷免されたことを正式に発表した。なんと言ってもポスト李克強として、次期(2023年)国務院総理の最有力候補とみなされてきただけに、中国の政界に激震が走った。今年の第19回党大会では大きな番狂わせがあるだろう。



香港あるいは中国大陸以外の多くの中文メディアは、孫政才はすでに中共中央紀律検査委員会の取り調べを受けていると報じている。

孫政才は、今年秋(おそらく11月)に開催される5年に1回の党大会では、必ずチャイナ・セブン(習近平体制での中共中央政治局常務委員会委員7名)の中に入るだろうことが確実視され、2022年の第20回党大会で党内序列ナンバー2か3に位置付けられて、2023年3月の全人代で国務院総理に就任することが、ほぼ確定していたような人物だ。

そのような大物が紀律検査委員会の取り調べを受けることになれば、それは逮捕を意味し、投獄を意味する。その見通しが立ってない限り、絶対に安易に「取り調べに入る」ことはない。

具体的に何をしたのかに関して断言することは困難だが、少なくとも重慶市の何挺元公安局長との共謀による「余毒に対する不作為」だけでは紀律検査委員会が取り調べに入ることはない。おそらくその不作為の中で賄賂が動いたか、夫人の胡穎が民生銀行の夫人倶楽部のメンバーであることと関係しており(あるいはその両方)、そこに根の深い腐敗問題が横たわっていることは確かだろう。

孫政才の腐敗体質は昔から

拙著『チャイナ・セブン <赤い皇帝>習近平』のp.202後ろから4行目に、(2014年時点で)孫政才に関して「どうも怪しさがつきまとう」と書いたが、これは「官位を金で買ったり」、「汚い金の取引をしたり」などの性格が彼にはもともとあることを指している。拙著ではその具体的な事例を詳述しているが、簡単に言うならば、劉雲山の息子との取引や、温家宝(国務院総理)の夫人への「貢ぎ物」(広大な土地)問題などがある。主として彼の背後には温家宝夫人がいたのであって、決して江沢民派といった流れではない。温家宝は農業問題を重んじていたので、(夫人の口利きで)孫政才を農業部長に抜擢している。いきなりの官界への仲間入りと凄まじい昇進だった。

腐敗のトップにいるのは江沢民なので、反腐敗運動を展開すれば、当然、江沢民とぶつかる部分が多くなる。しかし江沢民にはすでに力はなく、習近平が闘うべき敵は「人民」以外にはない。習近平に勝てる者は「人民の声」しかないのである。

彼には戦うべき政敵はいない。その意味でも、孫政才失脚は、権力闘争とは全く無関係である。

習近平がやっていることは、腐敗によって、共産党の一党支配体制が崩壊するか否かの闘いに過ぎない。

ラストエンペラーになりたくないだけだ。だから一帯一路やAIIBなど外に向かって突っ走り、人民の不満をかわそうとしている。

それを見誤ると、中国の大局を見間違え、日本の国益を損ねる。

[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社、7月20発売予定)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)