難民と仮想通貨─。一見全く関係が無さそうな二つを結び付け、世界的な問題を解決しようとする取り組みが進んでいる。パスポートなど公的機関が発行した身分証明書(ID)を一切持っていない難民らに、仮想通貨取引で利用されている最先端技術を使い、固有の「デジタルID」を割り当てようという試みだ。専門家からはテロ対策にも役立つとの声が上がっている。

【参考記事】「次のインターネット」、噂のブロックチェーンって何?

身分証明なく生活困難

戦争や災害、政変などによって着の身着のままで母国から逃げてきた難民の多くは、新たな土地にたどり着いても自分がどこの誰かを証明する手だてがない。難民でなくとも、貧困などさまざまな理由で公的に認められたIDを保有していない人の数は、世界で11億人を超えるとされる。これらの人々は教育や医療を受けたり、投票に行ったりすることが困難な上、銀行口座の開設や携帯電話サービスの契約など現代社会で暮らすための生活基盤を築くこともままならない。何にも増して、自分がまるでこの世に存在しないかのように扱われ、人間としての尊厳を脅かされている。

こうした深刻な問題に着目した有志によって立ち上げられたのが、「ID2020」と呼ばれる官民合同のプロジェクトだ。難民問題に取り組むNGOや政府機関、民間企業に加え、国連も2015年に定めた「持続可能な開発目標」(SDGs)の一環として活動を支援している。プロジェクトでは20年までに実証試験などを通じて技術面での課題を解決し、30年までに地球上のあらゆる人々がデジタルIDを利用できるようにするという壮大な目標が掲げられている。

【参考記事】国境に押し寄せる、不法移民の子供たちの波
【参考記事】イギリスで難民の子供900人が行方不明に

ブロックチェーンを活用

この取り組みを支えているのが09年に登場した仮想通貨ビットコインの基盤技術であるブロックチェーン(分散型台帳)だ。通貨取引にまつわるデータを参加者の複数のコンピューターに分散して記録していく仕組みで、取引を一括管理する中央集権的な大型コンピューターは不要となり、データの安全性や機密性が高いという特長がある。この技術を応用すれば、蓄積された個人のID情報を国家や一企業が占有する状況が避けられる一方、個人があらゆる場所から自身の情報にアクセスすることが可能となる。

ニューヨークの国連本部で6月に開かれたID2020に関する「第2回サミット」では、プロジェクトに協賛する米コンサルティング会社アクセンチュアと米マイクロソフト(MS)がブロックチェーンを使ったデジタルIDシステムの試作版を公開。指紋や虹彩などを個人特定のための生体認証データとして利用し、MSが展開するクラウドサービス上でシステムが稼働する様子を参加者に紹介した。

【参考記事】ブロックチェーンで「紛争ダイヤモンド」撲滅

一方、プロジェクトの狙いとは別に、こうした取り組みがテロ抑止に効果的だとの指摘もある。自国内でのテロ発生を恐れて難民受け入れに消極的な国が増える中、デジタルIDが難民を装ったテロリストの侵入を防ぐ手だてになると期待されている。ただ、デジタルIDの普及過程では、IDの有無によって難民の選別が進む恐れもあり、導入に向けて乗り越えるべき課題は多そうだ。

※当記事は時事通信社発行の電子書籍「e-World Premium」からの転載記事です。







※時事通信社発行の電子書籍「e-World Premium」より転載