精神を病むというと何か特別なことと思われたり、奇異の目で見られたりすることもあるだろう。しかしこのほど発表された調査の結果、私たちのほぼ全員が、一生のうち少なくとも1度は精神の健康を害することが分かった。

人生のどこかで少なくとも1度は心の病に

米デューク大学の研究者などの研究チームがニュージーランドで行った調査によると、参加者の80%以上が、調査期間中に何らかの精神的な病気を発症していたことが分かった。英メトロ紙が伝えた。

調査は、参加者が生まれてから中年期に至るまで、精神面での健康を追跡し記録したもの。参加者のうち、何らかの精神的な問題を抱えた経験があった人が「80%を優に越えた」一方で、まったく問題がなかったことを示した人はわずか17%にとどまったという。

この研究チームの1人であるジョナサン・シェーファー氏(デューク大学の大学院で臨床心理学を専攻)が、アーロン・ルーベン氏(同)とともに科学雑誌サイエンティフィック・アメリカンに寄せた記事の中で、この調査結果が、「精神疾患はあまりにも一般的であり、人生のどこかで誰もが少なくとも1度は診断名がつく心の病を発症する」ことを示唆していると述べている。しかし、ほとんどの人は治療を受けることなく過ごしてしまい、人間関係や仕事の成績、人生への満足度などに悪影響が及んでいると指摘している。

シェーファー氏らはさらに、1990年代半ばから2000年代初頭にかけて米国で行われた大規模な全国調査では、全人口のほぼ半数に近い割合の人が、人生のどこかで精神的な疾患を経験することが考えられる結果だったという。

精神が健康な方がむしろ「異常」!?

ニュージーランドでの調査では一方で、一度も精神的な疾患を経験しなかった人たちのグループの生活にも触れている。その人たちは、例外的な富裕層というわけでもなく、身体的に著しく健康だというわけでもなく、また知能が飛びぬけて高いというわけでもなかったという。



その代わり2つの特徴があった。1つは、家系の中で精神疾患を経験した人がほとんどいなかったこと。もう1つは、研究チームが「有益な性格」と表現しているものだ。研究者2人が寄稿した前述のサイエンティフィック・アメリカンの記事によると、それはつまり、「ネガティブな感情をほとんど見せない」、「同僚や仲間と付き合うのがうまい」、「自己統制に長けている」ということだという。

両氏はさらに、こうした精神疾患を発症したことがない人たちは、なぜ「異常なほど」精神が健康なのかを探る研究対象になるだろうとしている。

みんな辛いなら人にもっとやさしくなれるかも?

研究チームの1人でニュージーランドのオタゴ大学のジョン・ホーウッド准教授は、心理的な疾病というと一生ものだと考える傾向があると指摘。しかし実際はほとんどの場合で、一時的なものだという(なおホーウッド准教授の別の研究では、85%の人が中年期までに診断名のつく心の病気を経験するという結果が出ている)。

サイエンティフィック・アメリカンに寄稿した2人の研究者は、今回の調査で一番大切なのは、「精神面での問題はほとんど普遍的」であり、つまり「社会は心の病気を、骨折や腎臓結石、風邪などのように、生きていく中で起こる通常の傷みとして扱うべきだ」と訴えている。

また、米クレアモント大学院のジェイソン・シーゲル教授の言葉「友達や同僚の健康問題が一時的なものと考える時に、人はより同情的で協力的になる」を引用し、今回のような調査結果が、「自分自身や大切な人たちが人生を歩む過程でつらい状況に差し掛かった時に、その人たちにもっとやさしくなれる手助けになる」と結んでいる。

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松丸さとみ