<発がん性物質「アクリルアミド」の減少を目指す規約の導入が欧州委員会で合意。これにより、ベルギーで国民的料理のフライドポテトが消える、と大反発が起こった>

7月19日、欧州委員会は食の安全に関し、食品に含まれる発がん性物質アクリルアミドの減少を目指す新規約を導入することで合意した。

アクリルアミドの危険性は2002年から報告されており、調査が進められてきた。EU圏民の食の安全と健康にとっての重要なステップとして歓迎される新規約導入だが、別の意味で喜んでいる国が1つある。それはフライドポテトの発祥地と言われるベルギーだ。

ベルギー文化に対する侮辱?

合意を受けて翌日、ベルギーのウィリー・ボルシュ農相が「ベルギーのフライは救われた! ヨーロッパがベルギーの意見を聞いた!」とよろこびのツイートをし、同国シャルル・ミシェル首相がこれをリツイートしたとロイターが報じている。

実は過去数週間、ベルギーではとある論争が巻き起こっていた。欧州委員会はアクリルアミドを削減する調理方法として、ベルギーの国民的料理であるフライドポテトの伝統的な調理方法を変えるよう提案したのだが、これが政治家をはじめベルギー国民の神経を逆なでしてしまった。

欧州委員会のプレスリリースによると、アクリルアミドは高温での調理でアミノ酸の一種であるアスパラギンと糖類が反応することで生成され、特にジャガイモ製品、シリアル製品、コーヒーなどで顕著だという。

伝統的なベルギーのフライドポテトは、ピンチェという品種のジャガイモを熟練の職人が手作業でカット、そして生のまま馬か牛の脂で二度揚げされる。これによって、外はカリカリ、中はしっとりという独特の食感が生まれるという。

ところが、この方法によりアクリルアミドがより多く生成されるという報告があり、欧州委員会はジャガイモを一度湯通し・下茹でしてから揚げる方法に変えるよう提案。アクリルアミドの生成が妨げられるというのが理由だが、そんなことをしては伝統の味が損なわれるとして大反発が起こった。

政治家たちが憤慨

これは単なる「提案」にすぎないという欧州委員会の度重なる説明にもかかわらず、地元メディアが「ベルジャン・フライ禁止」の可能性を論じ、政治家たちもこれに過剰反応。ベン・ウェイツ観光相はEUの官僚たちがベルギーの「豊かな美食の伝統」を破壊しようと企んでいると非難した。



また同観光相は食政策委員にあてて「ほかの国には異なる文化があると理解しています。しかし、私たちには私たちの文化的伝統があります。もしEUがこれを禁ずるなら酷いことです」と嘆願したと、テレグラフやガーディアンが報じている。

委員会側は躍起になってこれを否定。代表者たちが「委員会にはベルギーのフライ、またはどんなフライでも、禁止する意図はありません、繰り返します、禁止する意図はありません」、あるいは「だれにもジャガイモの下茹でを強制しはしません。温度が175℃以下ならジャガイモを好きにしてかまいません」などと答弁している。EU本拠地であるベルギーが(存在感を高めようと)政治ゲームをしているのではないかと示唆する者もいる(テレグラフ)。

ガーディアンはさらに、「傷に侮辱を加える」として、新規約の草案に「フレンチ・フライ」という表記が用いられていることを指摘。アメリカや世界の一部で一般的な呼称だが、これは第二次世界大戦中にベルギーのフランス語圏ではじめてフライドポテトを食べたアメリカの軍人たちが誤った呼称を考え出したためと言われている。

子供へのリスクがもっとも高い

結局、下茹では「可能ならしたほうがいい」程度の提案で、飲食業者に温度などそのほかのガイドラインを徹底して守らせることでアクリルアミドを減少させる方向で収まったわけだが、喜んでばかりもいられない。伝統的な製法と味が守られたとしても、リスクがあることには変わりない。ガーディアンによると、欧州食品安全機関(EFSA)は子供へのリスクがもっとも高いと警告しているという。

欧州では日本の「お子様ランチ」や「お弁当」のように子供のために品目の多い食事を提供する風習があまりなく、レストランでの子供メニューといえばフライドポテトを添えたスナックが一般的だ。小さな子供にフライドポテトのみをまるまる一皿食べさせる親も珍しくない。

飲食業者からの反発もある。ベルギーと同じくフライドポテトの消費量の多いドイツでも今回の決定が報じられているが、厳しい温度調整や、「黄金色」以上の暗い色はダメ、10分以内に消費、などの細かい「フライドポテト信号」のルールは「極端で不必要で官僚的」だと、ホテルや飲食業界が顔をしかめているという。一方で、欧州消費者連盟(BEUC)は今回の決定を大事な最初の一歩とみなしている(WELT)。

新規約は2018年早春に施行される見込み。


【参考記事】セックス、ピストル、ストリップ──ベルリン警察が公共の場で乱行
【参考記事】男性諸氏は要注意! スペインのバスで「大股開き」が禁止に


【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル! ご登録(無料)はこちらから=>>


モーゲンスタン陽子