<「分裂」してもビットコインを普及させたい、仮想通貨支持者の悲願を阻むもの>

ビットコインの独立記念日だ――。7月末、仮想通貨ビットコインを制御していたシステムの「分裂」によって、新たな仮想通貨ビットコインキャッシュ(BCH)が誕生した。ビットコインの普及を切望する人々は、BCHの最初の取引が行われた8月1日を高らかに祝い、仮想通貨の未来に期待を寄せた。

だが、彼らが願うほど仮想通貨が広く一般社会に浸透するかは微妙なところだ。それは結局のところ、リアルなカネと同じように、ビットコインにも政治が強く影響を及ぼすから、ということになりそうだ。

ビットコインの熱心な支持者らは、仮想通貨は単に金持ちになる道具ではなく「人々を自由にする」ものだと確信している。ビットコインによる取引を可能にする技術ブロックチェーンのトークン(代用貨幣)を使えば、銀行や政府に自分の身元や残高を知られずに取引ができるため、経済的な自主性を手にできるというのだ。

だが、多くの専門家は仮想通貨がカネの概念を根本的に変えるという考えは甘いと言う。ビットコイン財団の共同創設者で、仮想通貨に関連する法律の専門家でもあるパトリック・マークもその1人。「ブロックチェーンは拡張性があまりない」と、マークは指摘する。

ビットコインは汎用性が低いということだが、少なくとも近い将来に仮想通貨で全ての取引を扱うのは無理だろうと指摘する。

何より、ビットコインが国際通貨の地位を手にするほどに拡大しても、通貨政策を決めるのは結局、各国政府だ。異なる仮想通貨による覇権争いも予想される。実際、中国やロシアは既に独自の仮想通貨の開発を行っており、アメリカとの競争が考えられる。拡張性といった技術的な問題に関係なく、ビットコインの未来は政治で決まるのだ。

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資産管理としては機能?

仮想通貨モネロの共同開発者、リカルド・スパグニも同じ考えだ。彼は、理論的にはテクノロジーがカネを政治から解放できたとしても、それが現実にはならないと指摘。仮想通貨が普及しても、ニッチな存在であり続けるだろうと予想している。



ビットコイン財団のマークもこれに近い考えを持つ。彼は仮想通貨を新種のカネではなく、資産革命を起こすツールと考えている。「ビットコインとブロックチェーンのトークンは、これまで存在していなかった独特な形の資産をつくり出すもの」と言う。「極めて珍しい、少量のデータという資産だ」

実際、ブロックチェーンは現在、デジタル化された楽曲などの資産をネット上で所有する人々に、それらを管理する手段として機能している。仮想通貨の未来は、モバイルショッピングというよりは、資産管理など新しいビジネス基準の確立のほうにあるのかもしれない。

一方で、従来の株式証券と仮想通貨の取引の溝を埋める動きも進んでいる。「米証券取引委員会は、仮想通貨の取引という専門分野を確立させたい考えだ」とマークは言う。つまり仮想通貨が証券と見なされることになり、仮想通貨を使い資金調達をする企業が増えるだろう。

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専門的な分野では活躍しそうなビットコインだが、各国の通貨に取って代わることは難しい。人間同士の協調は、アルゴリズムほど簡単ではないからだ。

「カネは国家が創造したもので社会的現象にすぎない」と、マークは言う。「カネと国家を分裂させることはできない」

<本誌8月8日発売最新号掲載>


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リー・キューエン