中露は対話路線を主張し、韓国も対話を模索。何よりもアメリカが対話模索を公言したのは大きい。日本も水面下では模索しているかもしれないが、表面上は圧力一辺倒。対北朝鮮関係国中、老獪な戦術の違いが鮮明に。

極めて友好的な会談に隠れているもの

中国とロシアは今年7月に共同声明を出し、「双暫停」(北朝鮮もアメリカも暫時、軍事行動を停止し、対話のテーブルに着け)を目標とすることを宣言し、「対話路線」を強調した。軍事行動で問題を解決することに反対している。

くり返しになるが、8月10日に中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」が社説で、「もし北朝鮮がアメリカ領を先制攻撃し、アメリカが北朝鮮に対して報復攻撃した場合、中国は北朝鮮に対して中立を保つ(中朝軍事同盟は無視する)」という立場を鮮明にしたことを受けて、北朝鮮は米領グアム沖へのミサイル発射を断念。だというのに、アメリカは夏の米韓軍事合同演習を断行した。その直前に日本はアメリカと「2プラス2」の外交国防会議を開き、軍事演習を支援する声明を発表。これにより北朝鮮はグアム沖への発射を断念する代わりに、日本国上空を飛翔するミサイルを撃ち始めた。北の(一瞬の、しかし、この段階ではあり得ない)譲歩に呼応しなかったのはアメリカではあるものの、それを後押ししたのは「日本だ」だ。以来、「日本帝国主義打倒!」「アメリカの犬!」「日本を沈没させよ!」といった、「打倒日本」に関するイデオロギー面までが加わったことが特徴だ。

10月4日に書いたコラム「北朝鮮はなぜ日本を狙い始めたのか」には、この要素を加えなければならなかったが、このことは既に9月4日のコラム<中国が切った「中朝軍事同盟カード」を読み切れなかった日米の失敗>で詳述していたので、その要素は省略した。誤解を生ぜしめたとすれば、お詫びしたい。

また、9月19日のコラム「北朝鮮暴走に対する中国の見解――環球時報社説から」に書いたように、「北朝鮮は日本国本土に着弾させる大胆さは持っていない」と中国は見ているものの、北朝鮮が打倒日本を叫び始めたことに対する中国側からの批判はない。




北朝鮮を誕生させた旧ソ連(ロシア)は格別

このような複雑な様相を呈しながら、ともかく中露は「対話路線」で一致している。

中でもロシアは飛びぬけており、プーチン大統領が「北朝鮮は草を食んでも核・ミサイル開発は放棄しないだろう」と講演で言っている通り、一応国連安保理制裁に賛成票は投じているものの、北朝鮮を見捨てることはない。現に北朝鮮外務省のチェ・ソニ北米局長9月29日モスクワを訪問し、ロシア外務省幹部と朝鮮半島問題に関して意見交換をしている。アメリカへの牽制だ。

ロシアはプーチン演説にもある通り「前提条件なしで北朝鮮との対話に向かうべき」としており、むしろ「米露が対北対話路線を競争している」感さえにじませている。

ティラーソン、直接接触を公表

アメリカは北京を訪れたティラーソン米国務長官が、堂々と「アメリカは平壌と複数の独自チャンネルを持って北朝鮮と直接接触を試みている」旨の発表をした。トランプ大統領はそれをすぐに否定し、「私は、われわれのすばらしい国務長官に『小さなロケットマンと交渉しようとして時間をむだにしている』と伝えた」とツイッターに書き込んだ。するとマティス米国防長官がトランプとティラーソンの間を取り持って「いや、アメリカは接触を試みているだけで、直接交渉はしていない」という苦しい弁明を試みているが、「アメリカが北朝鮮との複数の独自の対話ルートを持っている」ことだけは確かだろう。

韓国は対話路線

韓国の文在寅大統領は北との対話路線を主張して当選した。戦争はもう沢山だというのが韓国国民の本音だろう。しかし朝鮮戦争を休戦させようとしたアメリカのトルーマン大統領に対して、「いや、絶対に休戦したくない。韓国一国だけでも戦い続ける」とダダをこねたのは、他ならぬ韓国の李承晩大統領だったことを忘れてはならない。

だからトルーマンはやむなく、休戦協定を結ぶと同時に韓国と軍事同盟を結ばざるを得なかったのだ。休戦協定では「3ヵ月以内に朝鮮半島から全ての他国の軍隊は撤退する」と誓いながら、米韓軍事同盟では「(米韓どちらかが嫌だと言い始めない限り)米軍は未来永劫に韓国から撤退しない」と誓い、両方の文書に署名した。
この第一責任は韓国にある。

それに応えたアメリカにも、大国としての責任があるが、問題は休戦協定は「国連軍代表としてのアメリカ」が署名したのであり、米韓軍事同盟は「韓国とアメリカの二国間」の協定に過ぎないということだ。




日本は?

さて、日本。安倍首相はあくまでも「圧力によって北朝鮮政権の考え方を変えさせる」と主張し続けているが、プーチンの言っている通り、北朝鮮が経済制裁などの圧力ごときで考え方を変えたりするはずがない。これは夢物語に過ぎない。

軍事的手段を行使するなら別だ。アメリカか中国が軍事行動に出るならば、北は崩壊するか、あるいは崩壊の瀬戸際に立ち変化が起こり得るが、それ以外では「北朝鮮の考え方を変えさせる」などという夢物語はないだろう。

また「対話のための対話」という意味不明な常套句を頻繁に使っているが、いったいどこの世界に、この緊迫した中で「対話のための対話」などということがあり得ようか?北の暴走を止めさせるための対話であって、それ以外の対話が存在するとはあり得ない。過去に失敗した例が数多くあるのは承知している。しかし今は中朝関係がまるで違う。歴史上最悪の関係にあり、中国の国力が明らかに優っている。いざとなれば、何でもやるだろう。中国はまだいくつものカードを使わずに持っている。

先般、日本記者クラブにおいてだったか、党首討論で会場にいた記者から「安倍さんは圧力一辺倒を主張しているが、水面下の接触はあるのか?」といった趣旨の質問があったように思う。すると安倍首相は「それは水面下ですから(あったとしても...)」というニュアンスの回答をしていたように記憶する。

それは確かにそうだろう。水面下の話をするのは筋違いかもしれない。
しかし、北朝鮮をめぐる六ヵ国協議に参画している国の中で、日本以外の国は全て、独自の対話チャンネルを持っていてそれを表明しており、今やその「独自の対話チャンネルに誰が先手を打ち、北朝鮮を"手中"に治めるか」の競争をしているという様相を呈しているとさえ言えよう。

朝鮮戦争の国連軍の本部は今も日本にある

「国連軍」という言葉をネットで検索しても分かる通り、国連軍には大きく分けて2種類あり、一つはいわゆる平和維持活動(PKO)のための軍隊で、もう一つは朝鮮戦争の際の国連軍である。後者の朝鮮戦争における国連軍は、1950年6月に始まった朝鮮戦争に対して、韓国不利と見たアメリカが国連に呼びかけて急ごしらえで組織した軍隊だ。

このとき日本はアメリカの占領下にあり、マッカーサーが日本に総司令部を置いていたので、アメリカを中心とする朝鮮戦争の国連軍の司令部も日本にあった。
1953年7月の朝鮮戦争休戦に伴い、本来ならこの朝鮮戦争国連軍は休戦協定の約束通り解散しなければならなかったはずだ。しかし米韓が軍事同盟を結んで、アメリカが休戦協定を守ろうとしなかった。日米安保条約を既に結んでいた日本は、アメリカの意向に沿って、休戦協定に違反した朝鮮戦争国連軍の施設を日本に置く羽目になった。



そのため、現時点でもなお、休戦協定に違反した朝鮮戦争国連軍の施設が、以下の在日米軍基地に設置して機能しているようだ。

    ●キャンプ座間 ●横須賀海軍施設 ●佐世保海軍施設
    ●横田飛行場 ●嘉手納飛行場 ●普天間飛行場
など。

このように、アメリカが休戦協定を違反し続け、それを支援し続けてきた日本の実態を覆い隠しながら、北朝鮮問題の真の解決などあり得るのだろうか?

いまや北朝鮮が「正常な精神と判断力を持っているとは思いがたい指導者」の下で動いている現状において、日本国民の安全を守るために「100%、トランプとともにいる」を主張し続けているだけでいいのだろうか?日本が安全でいられる「軍事的外科手術」があるのなら大変結構だが......。国連安保理で北朝鮮制裁決議が一致して採決されたと言っても、一致できる点まで中露に譲歩させた結果に過ぎない。

実はアメリカ自身は休戦協定の冒頭に書いてある「平和条約」実現に向かわざるを得ない現実を自覚しており、カーター元大統領が北朝鮮を電撃訪問したい意向を表明し「米国政府は北朝鮮に平和協定締結に向けた高位級代表団を送らなければならない」と強調しているとのこと。

なぜミサイル発射の可能性の高い期間を選んで解散したのか?

なお、北朝鮮は本日10日の朝鮮労働党の創建記念日前後、あるいは10月18日の中国共産党の第19回党大会開幕の前後に合わせてミサイルを発射する可能性が高いことが早くから予測されている。なぜ安倍首相はわざわざこの期間を狙って解散総選挙に打って出たのだろうか?

選挙期間中にミサイル発射でもあれば、選挙に有利に働くという要素は否めないだろう。

「偶然の一致だ」と弁明すれば、あまりに国際情勢を知らな過ぎると非難されるにちがいない。

そもそも北朝鮮への抗議声明に関しては、前の国会で全員一致で賛同している。そこには争点はなかったはずだ。わざわざ解散して国民に問うまでもなく、あらゆる方法で北朝鮮の暴走を止めなければならない。このことにおいて日本の全国民は一致しているはずだ。

北朝鮮の暴走が爆発する期間と総選挙期間を一致させた理由に関して、安倍首相は「民主主義が北朝鮮によって影響を受けてはならないから」(大意)と回答しているようだが、問いと回答の間の整合性がない。わざわざこの期間を選んで選挙を行なわなくとも、日本の民主主義が北朝鮮の暴挙によって影響を受けることなど絶対にあり得ないからである。

もっと正直に、朝鮮戦争休戦協定を米韓が違反し日本もその違反を支援しているが、金正恩政権により事態が「正常ではなくなったので」、日本は然るべき新たな「(攻守)体制」を模索する必要に迫られていると言ってしまった方が納得がいく。


[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)