<欧州市場向け製品の国外生産を決めたハーレーダビッドソンに対する不買運動をけしかけるトランプ。経済ナショナリズムを余りに単純化すれば、政権自体が経済リスクとなる恐れも>

北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長と会談したり、中国相手に貿易戦争を仕掛けたあたりで、さすがのトランプ劇場も「そろそろネタ切れ」ではと思ったのも事実です。しかしこの夏に至っても、次から次へと「新しい材料」を繰り出してくるのには驚かされます。

その「トランプ劇場」ですが、最新の、そして話題になっているのはオートバイの有名メーカー「ハーレーダビッドソン」への不買運動を扇動した騒動です。ハーレーダビッドソンといえば、アメリカを代表するオートバイメーカーで、トランプ大統領も「メイド・イン・USAの誇り」だとして、散々持ち上げてきたブランドだったはずです。

何が起きたかと言うと、今年5月にトランプ大統領が仕掛けた「貿易戦争」の一環として「欧州からの鉄鋼・アルミの輸入に対する関税措置」が発端になっています。鉄鋼には25%、アルミには10%という関税について、EUは免税だったのを一気に課税するというので大騒ぎになりました。

EUは、そこで間髪を入れずアメリカには報復関税を発動すると通告しました。EUの報復は非常に露骨なもので、「共和党の地盤」である各州の特産物を狙い撃ちする作戦でした。つまり、「ケンタッキー州のウイスキーとトランプカード」「フロリダ州のレジャーボート」「アーカンソー州のコメ」そして「ウィスコンシン州などで生産されるハーレーダビッドソンのオートバイ」というようにピンポイントで設定してきたのです。

つまりEUの狙いとしては、こうした各州の経済にダメージを与えて、共和党とトランプ政権に報復しようというわけです。さらに言えば、「いかにもアメリカを象徴する」製品をターゲットにして、報復的なニュアンスを強めようという意図も見えていました。

ハーレーダビッドソンの経営陣は苦悩しました。というのは、欧州市場はアメリカ本国に次いで大きな市場だったからです。その結果、同社は欧州市場向けの製品を「海外生産に切り替える」と発表しました。2018年6月末のことです。

トランプ大統領は、「早々に(貿易戦争の)白旗を上げるとは何だ」と文句を言っていたのですが、その不快感が段々エスカレートしたようです。そんな中で、今週12日の日曜日、休暇を取っていた大統領は、ニュージャージー州のゴルフコースに、アメリカの「バイク乗り」グループを呼んで小規模な「アンチ・ハーレー」の集会を開いた格好になりました。



そこでは、革ジャンにタトゥー、そして髑髏マークなどに身を固めたアメリカの「バイク野郎」たちが一斉に「USA、USA」であるとか「さらに4年(大統領にもう一期やってほしいという意味)」などと叫びつつ、「ハーレーの不買運動」を呼びかけていたのです。

トランプ大統領はこれに同調していました。ハーレーダビッドソンのファンであるはずの、アメリカの「バイク野郎」たちが、ハーレーの悪口を叫び、アメリカの大統領が自国を代表するブランドの製品について「不買運動」を煽るという異常な光景がそこにはありました。

これに対して、アメリカの保守政治家として大統領候補にもなっているウィスコンシン州のスコット・ウォーカー知事は「もちろん、反対だ」と述べています。というのは、ウィスコンシン州にはハーレーダビッドソンの工場があるからです。そして、アメリカ国内向けの製品については、これ以降もウィスコンシンを中心とした国内生産を続ける、同社はそのように表明しているからです。

大統領が扇動してハーレーの不買運動が起きれば、困るのはまさにウィスコンシンの人々であり、めぐりめぐってアメリカ経済が被害を受けます。テレビの経済専門局(例えばCNBC)では、「ハーレーを買うなというのなら、カワサキやホンダを買えというのか?」とキャスターが困惑した表情を浮かべていました。

大統領の作戦は単純で、「とにかく貿易戦争には勝つ」、そのためには「海外生産移行は敗北主義でありアメリカ・ファーストでない」ことをハッキリしたいというわけです。この「ハーレー問題」と同時並行で、トルコとの確執も激化しており、トルコの通貨リラの下落も発生しました。

中間選挙を控える中で、トランプ劇場はエスカレートし続けています。経済ナショナリズムもここまで単純化されると、差し迫った恐怖を感じます。こんなことを続けていれば、ある瞬間に「政権が経済の最大のリスク」という合意から株の大暴落が起きても不思議はないからです。

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