紀元前2世紀から18世紀、東洋と西洋を結んだ一大経済圏「シルクロード」。中国産のシルクは西洋人にもてはやされ、合わせて文化や技術なども伝播し、人類に大いなる繁栄をもたらした「黄金の道」だ。それから200年以上が経ち、人類は再びシルクの力を借りるかもしれない。その用途は食品だ。2013年には国際連合食料農業機関(FAO)が人口増によるたんぱく質不足に対応するため、昆虫食の可能性をレポートしている。シルクは人類にとっての「黄金の食品」になれるのかもしれない。

日本古来の昆虫

シルクを食品用に加工した粉末

エリー(東京都中野区)は、蚕を原料にしたシルクフードを手がけるベンチャー企業だ。これまでシルクフードを使ったシフォンケーキやハンバーガーなどの食品を販売してきた。また、同時に蚕の栄養素研究もしており、3000ある候補のうち、100から150ほどの栄養素は特定できたという。

同社が販売したハンバーガー

数ある昆虫の中、同社はなぜ蚕を食品の原料に選んだのか。その理由を、梶栗隆弘社長は「昆虫の中でも栄養素の候補の多さが魅力だった。かつ、日本では古くから蚕を育ててきた。そのため知見が多く、可能性を感じた」と話す。しかし、昆虫を食べることへのハードルは依然として高い。実際、FAOのレポート以後、世界で多くの昆虫食ベンチャーが誕生しているが、消費者へ普及していないことから難しさが伺える。また、代替たんぱく質としては大豆ミートなど競合も多い。それでも、「栄養素の豊富さを売りに他との差別化は可能」(梶栗社長)と自信を口にする。

“柔らかさ”を切り口に

梶栗社長

同社が狙うのは高齢者向けのたんぱく質市場だ。高齢者は誤飲を防止するため、柔らかい食品を食べることが多い。たんぱく質を摂取しようとなると、肉などの動物性たんぱく質ではなく、大豆などの植物性たんぱく質に偏ってしまう傾向がある。同社が狙うのはこの隙間だ。梶栗社長は「蚕は動物性よりたんぱく質の含有量は劣るが、植物性には勝っていると考えている。かつ、蚕は柔らかい食品なので十分(たんぱく質の)選択肢になり得る」と話す。そこに、ビタミンや美容性などのたんぱく質以外の付加価値をつけることも検討する。

ただ、たんぱく質以外の付加価値をつけると、コスト高になってしまう懸念もある。また、食品として摂取しやすくするため、原料を加工しすぎたり、含有量を減らしたりすると、栄養素の喪失にもつながる。それでも、梶栗社長は「おいしい食品であることはマストの条件。その上で昆虫食であるメリットを付加価値として乗せていくための商品開発を続けていく」と語る。7月には初めてのシルク入り飲料とチップスを発売しており、様々な形態の食品を今後も出す予定。食品としての普及を目指して、安定供給と加工技術を確立していく。将来は穀物のように、蚕食品向け原料を他社に提供することを目標に掲げる。

シルクを使ったチップス

食品にもサスティナブルが求められる今、昆虫食はたんぱく質のラストフロンティアになる可能性を秘める。動物性、植物性たんぱく質に次ぐ、第三の“昆虫性”たんぱく質の地位を占めるには食品としてのおいしさと使いやすさの両立が欠かせない。同社の取り組みがその一翼を担っていることは間違いない。

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